報告書31「池袋駅ダンジョン、立ちはだかる長城について」
世の中の仕組み、つまりは権力を持った政治家と金を持った巨大企業がべったり癒着する事で生み出された巨悪が、この社会を形作っているという事実を知ってしまった俺は、言いようの無いやるせなさに襲われていた。正直、この世界が理不尽極まりないものだなんてBH社時代から知っていたつもりだったが、物事は常に俺の想像の上をいくものだということを思い知らされた。
BH社時代と言えば、ヒシカリはどうしているだろうか。俺を斬った事で今頃昇進しているのだろうか。なんにしても許す気はさらさら無いけどな。
「……以上が次の任務の内容だけど、何か付け足す事はあるかしら?」
「……」
「何か付け足す事はあるかしら!」
「え……?あっ、えーとだな……」
しまった、チトセによる次の任務の概要説明が事務所でされていたんだが、何も聞いてなかった。なんとか誤魔化そうとしていると、ササヤさんがそっと耳打ちしてくれた。
「池袋駅ダンジョンで、幻のリソーサー・オウルを探すって話ですよ先輩」
「あぁ、オウルなオウル!夜しか活動しないという幻のリソーサーだったよな!って、オウルを探すのかよ!ただでさえ見つけ辛いのに、今やオウルを狙う競合他社ばかりで無理だろ!」
「その点抜かりはないわ。今池袋駅ダンジョンは理由はよく分かんないけど資源庁から3日間の立ち入り禁止令が出てるの。だから私達以外に競争相手はいないはずよ」
「いやいやいや、立ち入り禁止なのは俺達も同じだろ!見つかったら厳重注意か下手したら営業停止処分までいくぞ!」
「つまり見つからなければ問題ないって事よ。大丈夫、イクノに頼んで活動記録は改竄しておいてもらうから!それじゃ準備出来次第格納庫集合!解散!」
「あっ、おい!まだ話は……」
俺の話も聞かずに、相変わらずの慌ただしさで事務所から飛び出していくチトセ。何が見つからなければ大丈夫、だ。そう簡単にいったら世の中苦労しないっての。
「全く……相変わらずの爆弾女っぷりだ……」
ササヤさんはと言うと、俺達のやり取りを見て苦笑いを浮かべるどけだった。
「あはは……でも決断力があるのがシャチョーの良い所ですよね」
「決断力っていうか、後先考えて無いだけの気もするけどな……しかし池袋駅ダンジョンか……ササヤさんは行った事は?」
「この仕事で行ったことは無いですけど、あそこはダンジョン化する前から"幻惑の駅"と呼ばれ、不思議な場所だという噂はよく耳にしますね。サイタマから来た人が東京で最初に降り立つ駅なんですけど、例外なく迷うそうですよ」
「幻惑の駅か……」
上野駅ダンジョンでも散々迷ったり驚いたりした俺だが、あれ以上の複雑怪奇さは御免被りたいものだ。
「2人とも何のんびりしてるのよ!さっさと行くわよ!」
そんな話をササヤさんとしていたら、格納庫からの無線から我らがシャチョーの声が響いた。
「一度やると決めたチトセの考えを変えるのは、何人でも無理だしな……仕方ない行くか。あんまり気が乗らないけど」
「はいっ!」
重い足取りで格納庫に行き、出陣のための準備も終わったところでいつものようにコーギー号に乗り込み目的地の池袋駅ダンジョンを目指す俺達だが、ササヤさんに聞いた幻惑の駅と言う通称名がどうにも気になって仕方ない。
「なぁチトセ。その池袋駅ダンジョンだけど、行った事は?」
「もちろんあるわよ。それが?」
「オウルを探すのはいいけど、あんまり複雑だと俺が探される側になっちまわないかと心配でな」
「そうね……ならこの歌を覚えておくといいわ」
「歌?」
「"フシギナフシギナイケブクロ〜♪ヒガシハセイブデニシトウブ"〜♪」
「それは一体……?」
「古来から池袋駅周辺に伝わる民謡よ。噂では、何でも秘密の財宝部屋の位置を示しているらしいわ」
それを聞き、ぶふっ!と吹き出すイクノさん。言ったチトセ本人も、つられて笑ってやがる。その2人の雰囲気からも、チトセの下らない冗談なのは明白だ。全く田舎者だと思ってバカにしやがって。
「チトセ、意外と音痴だな」
「うるさいわね!ほっといてよ!」
車内でわーわーとそんなやり取りをしている間に、池袋駅ダンジョンのある隔離地域前に到着した。しかし出入り口となる隔壁だが、資源庁の3日間の立ち入り禁止令が出ているにも関わらず、駐屯している自衛軍は特に何事もなくいつものID確認のみで中に入れてくれた。管轄が違うからだとしたら、この程度の情報共有もされていないとは資源庁と国防省の仲の悪さは相当のようだ。とにかく、いつものようにオペレーターとして車内に残したイクノさんを除いた3人編成で池袋駅ダンジョンへと向かうこととなった。
隔離地域の壁を越え、しばらく歩いているとまた巨大な壁が見えてきた。
「なんだ、また壁か。ここの隔離地域は壁が二重構造になっているのか?」
「何言ってるのよ。これが池袋駅ダンジョンよ」
「この壁がか!?」
巨大な壁に見えたそれは、なんと駅と一体化したビルだったのだ。道に沿ってそびえ立つ駅ビルは、延々と視界の向こうまで続いており、まさにグレートウォール、外県からの侵略を防ぐ長城とも言える威容を誇っていた。
「いつ見ても凄いですよね。でも中はもっと凄いらしいですよ。先輩もし迷ったら……」
「心配無いさ!今考えればスキャナーに常時マップが表示されているんだ、迷ったりする訳ないさ」
なんて、後輩であるササヤさんの前くらいは立派でいようとついつい言ってしまったが、正直心配だ。
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