報告書2「任務開始、リソーサーとの戦闘について」
かつてビジネス街であった事を示す廃墟となったビル群を抜け、東京駅ダンジョン八重洲中央口へと到着した俺たち4課6名。ここまではリソーサーとも遭遇せず楽勝だった。とは言え本番はここから、気を引き締めなくては。駅構内に入るには、外側からグランルーフ2Fデッキへと繋がる階段を使うか、真っ直ぐ入り口から1階フロアに進むかの2つのルートがあるが、班長は支社内でのブリーフィング通り真っ直ぐ駅構内へと入る道を選択した。
前衛として先頭を進むヒシカリに続いて駅構内へと足を踏み入れる。建物内とは思えないほど広々とした空間だが、瓦礫とガラクタが転がる現状からは、むしろガランとした印象を受ける場所だ。
「サドシマ!グズグズするな!周囲を警戒しろ!」
「えっ、あっはい!」
班長に怒られ、周囲に目を凝らす。主要設備はもうほとんどリソーサーに食われているのか機能していなく、駅構内に光源が無いため、真っ暗とまではいかないが薄暗い。と、前方に何やら蠢くものが……頭に装着しているスキャナーの熱源センサーにも反応している!熱紋分析からもマウスで間違い無いな。ネズミに似た形状のこのリソーサーは、個体能力はそれ程高くは無いとはいえ群れで活動することもある、油断ならない相手だ。
「前方30mにリソーサー!マウスです!」
「1体か?それとも100体か?」
「あっ、えっと、すみません7体です」
「報告の仕方も一から教えないとダメか?うん?」
「あっ、すみません……」
「まったく……ヒシカリ、正面から行って敵を引き付けろ。他は横からだ」
次々と指示を飛ばす班長。俺も参加しなくては。
「班長!俺も行きます!」
「勝手に動くな!お前はここで立ってろ」
「えっ、でも……」
「でもじゃねぇよ。いいから立ってろ。班長命令だ」
「あっはい……了解しました」
そうして俺は、ただ立ってマウスと他の班員が戦うのを眺めていることしか許されなかった。仕方ない、俺は実戦経験の無い新入りだし、今さっきミスしたばっかりだし。でも……しかし……こんなただ眺めてるためだけに、今まで頑張って来たのかと思うと、悲しくなる。一体俺は何のために腰にこの5式制刀丁型を差しているのだろうか。
そう思いながら眺めていると、最後の1体をヒシカリが難なく真っ二つにして、戦いは終わった。ここはまだ駅ダンジョンの入り口付近、まだまだ出てくるリソーサーも弱い。
「マウスじゃこの程度か。このまま通れる階段を探して地下へ向かうぞ。サドシマ!資源を回収しろ!」
「あっ、はい、すみません」
慌てて付近に散らばるマウスをプラズマナイフでの分解に取り掛かるが、背後からはヒシカリが他の班員と雑談する話声が聞こえてくる。
マウスをはじめリソーサーは構成素材が純度の高い金属でできており、アクチュエーターは生物的な筋肉と機械的な部品で構成されているという独特の構造をしている。これらは資源と呼ばれ、この国の急速な発展を下支えしてきたものであり、軍事資源回収企業が商品として取り扱い、スペキュレイターの飯の種となるものだ。
「まだ回収が終わらないのか?一体いつまでかかるんだ。仕事遅いぞ」
「あっ、すみません。でもまだ5分しか経ってないのに終わらせるなんて無理です」
「また言い訳か?なんでお前は言われた事に素直に応えられないんだ?」
「いや、でもどう考えても……」
「ああもういい。物事をグズに合わせてたらいつになっても終わらん」
そう言ってさっさと行ってしまう班長にヒシカリ含めた他の班員達。仕方ない、残りは諦めるしかなさそうだ。自分の手ではまだ1体もリソーサーを倒して無いのになんだかもうドッと疲れた。身に纏っている機動鎧甲には、人工筋肉によるパワーアシスト機能があるので重量物の持ち運びでも疲れたりしないが、どうやら精神的圧力に対しての補助機能は無いようだ。
そんなに重量は感じられない資源と、重苦しくて潰れてしまいそうな気持ちを引きずるようにして班員について行くと、スキャナーに熱源反応と同業者識別信号が表示された。どうやら近くにある新幹線北のりかえ口で、他社のスペキュレイターとリソーサーが戦闘中のようだ。しかも救援信号まで出ている辺り危機的状態ときた。
「班長!北のりかえ口から救援信号です!すぐに救援に向かいましょう!」
「ホントお前の脳みそはお子様ランチだな。まずは目視による偵察だろうが。ヒシカリ、見てこい」
「了解です!」
颯爽と救難信号のあった方へと駆け出すヒシカリの背後で俺は萎縮して小さく固まるばかりだ。
「あっ、はい、そうですね。すみません」
どうせ喋っても怒られるんだからもう黙っていようとも思ってたが、どうにも言葉が口を突いて出てきてしまう。などと言う思考迷路で迷子になっていると、偵察に出たヒシカリから無線通信が入った。
<<リソーサーはゴリアテです!あと同業者が1人、もう死に掛けです>>
「伝説種がこんな入り口近くにいるだと……これはチャンスだ。レアメタル、もしかしたらそれ以上が手に入るかもしれんぞ。全員装備をチェック、餌がやられた隙に奇襲攻撃を仕掛けて一気に倒すぞ。ヒシカリはそのままそいつを見張ってろ!見失なうんじゃねぇぞ!」
俺はその班長の言葉に耳を疑った。なんの迷いもなく、他社とは言え同業者を餌にするという判断が下されたからだ。
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