始まりはソーダの雨。エピソード3
チャイムが鳴ると、騒がしかった教室がみんな一気に帰って行く。
まるで誰も居ない森の奥深くへと足早に向かっているかのように変わっていく景色を、私は黙って見守っていた。
そうしているうちに自分がこの教室に一人、取り残されたような感覚になって、あわてて帰る準備をした。
「よし、のど乾いたから自販機行こう。」
小さな不安をかき消すためにそう言った私の言葉は、思ったよりもずっと大きく聞こえる気がした。
―――――――――――――――――———
玄関にも自販機は置いてあるけれど、あの合格発表の日に見つけたこの裏門の陰に隠れた自販機が、ひそかに気になっていた。
さすがに見つけづらい所だからか、玄関の方では売り切れだったジュースもここではしっかりまだ在庫があるようだ。リュックから小銭ように持っているくまのがま口を足りだし、おもむろにボタンに手を伸ばした。飲みたいものは、もう決まっている。
「へぇー意外、それ飲むんだ?」
…ピッ
後ろから聞こえるその声にびっくりした顔をしていると、彼は面白い物を見つけたと言いたげな顔でこっちを見てきた。
…ガコン。
「いや、俺はてっきり、これをもむもんだと思ってね」
そう言って、私が押したボタンの隣りのボタンに手を伸ばす。
「あ、ソーダ?…って、ちょっと!」
…ピッ
「あ、ごめん。押しちゃった!」
…ガコン。
悲しい音が聞こえたのは気のせいではないみたいだ。
「もう!今すっごい金欠なのに!!」
「ごめんってば、これあげるから許して!」
そう言って差し出したのは、キンキンに冷えているであろう甘そうなソーダで。
「それはもともと私のお金で…」
「まぁまぁ!!また飲みたいと思ったら、おごってやるから!な?!」
それならそうと先に言ってほしいものだ。
「…で、なんでソーダな訳?」
と、何気にずっと気になっていた事を聞いてみることにした。
「なんでって、分かんないの?」
しばらく経って、不思議そうに見つめるこいつは一体何を考えているんだろう。
「分かんないに決まってんじゃん。ってか、あんた誰?」
つい眉間にシワを寄せてしまった。
「そんなしかめっ面すんなよ。…お前の名前じゃん、
黒猫キャンディーはソーダの味。 曄灯 @teng_hanabi
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