第07話 闘技場
俺達は西門の先にある闘技場を目指し移動をはじめた。心配になった俺は風音の横に行き小声で話しかける。
「風音… 殺したり、手とか足… 切り落としたりしないだろうな? 」
そう、俺の心配は相手の心配だった。あの常識外れた力は、普通の人間では到底勝ち目がないからだ。
「当たり前じゃ わしは殺人鬼ではないぞ 相手に殺意がなければ少しだけ力の差を教えてやるだけじゃ それに… これでまた金が入るではないか クックク」
そう言って風音は笑った。
「託也 今回もお前は見ておれ」
「わかってるよ… 近くでちょろちょろされても目障りだろ」
「なんじゃ? 棘のある言い方じゃのう 今回はお前の為に体術だけで戦ってやるというのに」
「えっ? そうなんだ? 」
西門を過ぎ、闘技場に到着するとビーノが提案する。
「よし! ルールを決めようじゃないか お嬢ちゃん 」
「わしはなんでもかまわん 言い訳されると面倒じゃから そっちは全員でかかっこい こっちは わし1人じゃ」
「たいした自信だな ハッハハ じゃあ今回は1対1の勝負、術・武器何でもあり 勝敗はどちらかが膝を付くまでってどうだい? もちろん、俺の攻撃は峰のみだ」
「うむ どっちでもかまわんがよかろう 最後に念を押して言っておくが 言い訳はするでないぞ」
「ハッハハ おっけー 約束だ」
風音は懐から二つの袋を取り出し地面に放り投げた。ビーノもその場所に財布を投げる。
「ちょっとビーノ! あんまり酷い事やっちゃ駄目よー!」
「冒険者ってもんをルーキーに教えたれー! 」
外野が騒ぎ始めた。皆には、ビーノが当然の如く勝利を収め、吹き上がった新人冒険者が地面を叩き己の未熟さを恥じりながら悔しがる光景が見えているのだろうか… 俺には到底思い浮かばなかった。
「誰か合図をくれ」
ビーノが外野に向かって開始合図を求める。パーティーメンバーの女が答える。
「おっけー! いくわよ」
…
「はじめっ! 」
開始の合図、ビーノが静かに剣を抜く。
「お嬢ちゃん かかってきな! 先手は取らせてやるぜ」
ビーノは腰を落とし風音に剣を向ける。
「たいした余裕じゃの クックク では少しばかり遊んでやるかのう」
スタスタとビーノの目の前に立つと
「いくぞ」
風音は一瞬で消えビーノの後ろを取る。風音の姿を完全に見失ったビーノ。背後の気配に気付き剣を回す。同時に、後方へ回避する風音。
「遅すぎるのう… 実戦なら お前は首の骨をへし折られていたぞ」
「くっ… やるなお嬢ちゃん 正直、侮っていたよ」
どうやらビーノも、風音がただの少女じゃない事に気付いたのか、目付きが変わった。間合いを詰め風音に切りかかる。もちろん、峰の部分で攻撃をしてくるが風音は構わずビーノの懐に入ると手刀で腹を切り、また距離を取る。ビーノの腹からジワリと血が滲む。
「これで2回… 人の外見と中身は違うと改めるんじゃな 今のは、わざと浅く切りつけた 次で終わりにするかのう」
「クッ… お前、何者だ!?」
焦るビーノ。開始の合図から数分… 誰もがこんな光景、思いもしなかっただろう。最初のうちは騒いでいた外野も、今では口を開く者は1人もいなかった。
「何者?… お前達が知る必要はない」
パチン
風音は指を鳴らした。ビーノの剣からゴツンと鈍い音がし、剣が弾かれる。
慌てて剣を拾おうとするビーノ。だが、剣を握ろうとした瞬間、風音の指が鳴らされ再び剣が遠ざかる…2度、3度と繰り返された。
ビーノは、その場で跪くと動かなくなった… 風音に心を折られてしまったのだ。攻撃も当たらず、自分の最大の武器であるはずの剣すら握らせてもらえない… 屈辱以外の何者でもなかった。
風音は袖口から、いつもの煙管を取り出し火をつける。煙を吐くと
「わしの勝ちじゃ 言い訳はあるか? 」
「負けだ… 力の差があり過ぎる すまなかった… 」
ビーノは下を向いたまま敗北宣言… 風音はくるりと方向転換し、真っ直ぐ地面に落ちた3つの袋を拾い上げ俺の元に帰ってきた。
「どうじゃ? 少しは役に立ったか? 」
ニヤリと笑いながら俺に問い掛ける。
「最後、体術じゃないじゃん… デコピンでしょ あれ? 」
「なんじゃ バレてたか」
「それに… あんな高速移動 参考にならないよ」
「あぁ 確かにそうじゃのう クックク まあよい 金も入ったことだしギルドに戻って身分証受け取るかのう」
遠目から様子を伺うとビーノの周りに、パーティーメンバーが集まり何があったのか事情を聞いているようだ。外野の冒険者達も、何が起こったのか未だ信じられない様子で互いの顔を見る。
すると、ゼスが俺達に近づいてきた。
「すまなかった お嬢さん… いや、かざねさん 笑った事を謝るよ」
ゼスは被っていた帽子を脱ぎ頭を下げる。
「ふん やっと自分らとの力の差がわかったか 人を外見で判断すると痛い目に会うぞ よーく覚えておくことじゃな」
「ああ すまなかった 礼と言ってはあれなんだが飯でも奢らせてくれ」
「おお! よい心掛けじゃ 登録証を受け取ったら行くとするか」
風音はにっこり笑う。俺達3人は、その場を後にしてギルドへ戻った。
▽▽▽
―― ギルド内部
蛻の殻になったギルド、さっきまでテーブルで飲み食いしていた冒険者達は闘技場に残っているのだろうか、職員以外誰もいない。
「あ… かざねちゃん たくやくん、登録証の発行が完了しましたよ。」
闘技場から戻った俺達に、受け付けのお姉さんが声をかける。身分証明も兼ねた冒険者登録証、今後の旅に役立ちそうだ。俺と風音は登録証を受け取り、手招きされカウンターの段差が一段低くなっている場所へ案内されると、座って説明を受けるように促された。
席に着くと、お姉さんが正面に座り説明をはじめる。
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