「空白」

紅月

第1話

「人って必ず死ぬじゃないですか」


「死ぬと少しずつ少しずつその人を忘れていってしまう」


「当たり前のように顔を合わせたり話したりしていたのに」


「貴方は大切な人の声や顔覚えてますか?」


病床の彼女は、外の景色を眺めながら語る

彼女は幼い頃から病弱であった。

入退院を繰り返す彼女にとって窓の外の世界は、この世の全てだった。


「誰かが言いました。人が本当に死ぬというのは、みんなに忘れられた時だと」


「私は怖いんです。忘れられてしまうのが」


遠くを見つめながら呟く彼女の肩は震えていた。自分の身体が、病魔に蝕まれもう余命幾許もない事を理解しているのだ。


「自分が生きていたって証までもなくなってしまうようなそんな気がするんです」


卓上にはPCが置いてあった。

体調が良く身体の起こせる日にリハビリの一環で使っているものだ。

彼女は、PCを使って日記を付けていた。


「死ぬのは怖いです。だからこうやって”生きた証”を残さないと」



彼女の生きた証である日記の内容は


これから見ていくことにしよう。

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