第7話「信号」

 次の日学校に行くと、優陽の顔に傷があった。気になり声をかけたかったが、我慢した。


「美海?どうしたの難しい顔して」

「我慢してるの」

「何をさ」

「約束」

「へ?」


彩は首を傾げていたがそのままにしておいた。


今日は放課後に委員会の集まりがあったため、家に帰るのが遅れてしまった。すぐにそらを連れて走って海に向かった。優陽を見つけ、見つけた途端大声で優陽を呼んでしまった。


「優陽!遅れてごめん」

「え!?美海どうしたの?はーはー言ってるけど…」


優陽は、すぐに振り返り答えた。


「あ、ごめん。なんか優陽と話したくて…つい大声が出ちゃった…」

「そうなの?なんか照れるな…」


また声が勝手に出てしまった。呼吸を整えてから答える。


「ねえ、優陽。顔の傷どうしたの?」

「あ、これ?ちょっと草の中に猫見つけたから近づこうと追いかけたら草で顔切っちゃって」


優陽は「可愛かったんだぞ」と言って笑った。


「そうなんだ…というかなんで絆創膏つけてないのさ」

「あー、ほっとけば治るかなって」

「まあそうだけど、はい。絆創膏」

「おー女子だ」

「元々女子だよ」


私は呆れながら笑い返した。すると、優陽が突然何かを言い出した。


「美海、僕らのルールを決めよう」

「どんなルール?」

「一日一個ずつお互いに質問し合うっていうルール」

「?」

「相手に対して聞きたいことって結構あるじゃん?好きな食べ物とか、好きな色とか」

「あー、確かに!」

「でも質問は一個まで」

「わかった」

「じゃあ、美海はもう俺に質問したから俺から質問するね」

「うん」

「なんで信号は赤の時に止まって青の時に渡るんだと思う?」

「それは自分の身を守るためにじゃないの?だって車が来たら普通渡らないじゃん。交通事故に会うかもしれないんだから」

「でも、赤の時なのに信号を渡ったり信号がないところで渡る人もいるじゃん?その人達は身の危険を感じないのかな?」

「確かに…」

「小学校の時に、赤の時には止まれ。青の時は渡る。そう教えられて小学生の頃や、守っている人は守っているのになんで渡ってしまうんだろう。

確かに途中で渡った方がその道に行く時間を短縮出来るのはわかる。でも、死ぬのが怖いと人は言うのになんで自分から危険に飛び込んで行くのかわからない。

青の時に車が来なかったのかもしれない。でも、急に車が来ることだってある。車が止まってくれる時もあるけれど、青なのだから車には信号を通っていい権利がある。

その車に乗っている人がもし急いでいるのだとしたらその人の時間を奪うことにもなるんだ。

自分がさえ良ければいいって事じゃない。自分の行動で誰かを傷つけてしまう事だってあるんだ。だからルールが作られて、皆が守っている。もしもみんながルールを破ってしまったら、この世界は回らなくなる。それをわかっていながら、何故ルールを破ってしまう人がいるんだろうね」

「そうだよね…」


また私は何も言えなかった。


「まあ、あくまでも自分の意見だけどね。でも、その人が傷ついて欲しくないし傷ついて誰かが傷つくのも見たくないんだよね…」

「うん…」

「ごめんね、また変な質問で」

「ううん、全然」

「嫌だったら他の質問にするから言ってね」

「ううん、大丈夫」

「そっか、わかった」


優陽は不思議だ。まるで子供の様な質問をする。でも、いつも自分の意見を持っている。

その答えが絶対に合っていると言い張るのではなく、答えを探しているかの様に、問いかけてくるのだ。


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