第3話「瀬」

自己紹介では、名前、出身校、好きな物を言わなければならない。私の番がきて立ち上がる。


「高瀬 美海 (たかせ うみ) です。東京から来ました。好きな事は本を読むことです。よろしくお願いします」


端的に済ませ、すぐに座る。出来るだけ目立ちたくはなかったから。次に後ろの人が立ち上がる。


「塚瀬 優陽 (つかせ ひなた)です。東中学出身。好きな物はうみです。よろしく」


その人がそう言った途端、教室がざわついた。私は、気にせず次の人の発表に耳を傾けていた。


自己紹介が終わり、休み時間に入ると数人の女の子が側に寄ってきた。


「ねえ、高瀬さんって塚瀬君の知り合いなの?」

「なんで?」

「だって、ねー」


と言ってその子達は顔を合わせていた。


「塚瀬君が好きな物はうみですって言ってたから」

「私、塚瀬君?って言う人の事知らないから違うと思うよ。しかも、好きな物だから海の事だと思うよ」

「そうだよね!邪魔してごめんね」


そう言って、その子達は何処かに行ってしまった。私はまた本の中に戻った。


次の授業も学校の話や、授業についてなどその日の授業は同じような話ばかりだった。


昼休みに入り、お弁当を食べていると一人の女の子が声を掛けてきた。


「一緒に食べていい?」

「あ、うん」


一人で食べるつもりだったので、驚いてしまった。


「私 渡瀬 彩 (わたせ あや) よろしくね」

「よろしく。私は 高瀬 美海」

「うん、覚えてた」

「え、なんで?」

「私と同じで『瀬』が付いてたから」

「あ、ほんとだ」

「彩って呼んでいいからね」

「わかった」

「高瀬さんのことはなんて呼べばいい?」

「なんでもいいよ」

「じゃあ美海でいい?」

「うん」

「じゃあよろしくね!美海」

「うん」


それから、彩は私に毎日声を掛けてくれた。「東京ってどんなところ?」や「本好きなんだね」とか。


私は、高校で友達は作りたくなかったが、彩とは友達になりたいと思った。


彩はショートカットで、如何にも運動が出来そうだ。しかも高身長で美人だ。背が低い私と並ぶと姉妹に見えそうなくらい身長差が激しい。


入学式が終わり何週間か経ってからわかったが、彩は友達が多い。校内を一緒に歩いていても、何度も声を掛けられていた。


「ねえ美海」

「ん?」

「塚瀬ってどんな人か知ってる?」

「あー、名前は知ってるけど顔はわかんない」

「いや、美海の後ろにいるじゃん。顔知らんのかい」

「そうだっけ」

「まあ、いっか。その塚瀬って奴のことが好きな女の子が沢山いるんよ」

「そなの?」

「そうそう。でも、塚瀬は声掛けてもあんま喋んないし、休み時間も教室に居ないから、女子がミステリアスでかっこいいって騒いでんの」

「そうなんだ。なんで無口なんだろうね」

「「彩ー!」」

「あ、美海ごめん先教室戻ってて」

「あ、うん。わかった」


彩は友達に呼ばれ、友達の方へ行ってしまったので、私は一人で教室へ戻った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る