雨
渚冱
第1章
第1話 「そら」
いつも君は海で、空を見上げていた。
私が笑いたい時も、泣きたい時も君は海にいて、私の話を聞いてくれた。
浜辺に二人で座って、君と話すのが好きだった。君と歩く時は君が前で、私が後ろ。君の背中を見て歩くのが好きだったんだ。隣で歩きたくて君の背中を追うと、君は笑って私の歩く速度に合わせてくれる。
君がいたから、笑えた。自分が少しだけ好きになれた。君がいたから上を向けたのに…
私は、本を読みながら背もたれに体を預けていた。私が乗っている電車は古いようで、ギシギシ音を立てながら進んでいた。
電車の中には誰もいない。私だけが本を読んで座っていた。
もう少しで着くだろう。そう思い、私は本をしまい外を眺めていた。
案の定アナウンスが流れ、私は重い荷物を上の棚から下ろした。
電車から降りると、目の前に海が広がっていた。海はとても綺麗で、思わずスマホを構え写真を撮った。
私は写真を撮り終え、改札へ向かう。改札には人の姿は無く、切符を入れる箱だけが置いてあった。私は切符を箱に入れ改札を出る。
改札を出るとおばあちゃんが待っていた。
「うみちゃん、長旅ご苦労さま。荷物重かったろ、持とうか?」
「ううん、大丈夫持てるよ」
「そうかい?じゃあ少し遠いけど、お家まで行こか」
「うん」
私はおばあちゃんの後ろからついて行った。海に沿って歩く。前に来た時と変わらず、人の姿は疎らだった。
私は四月からおばあちゃんの家に住むことになった。両親から
「寮に入るか、おばあちゃんのいる所の高校に入るか決めなさい」
と言われたのだ。私は、おばあちゃんの家に行くと言い引っ越してきた。
寮よりはおばあちゃんの家の方がよかったから。
おばあちゃんの家に着くと家の前に犬が座っていた。尻尾をちぎれそうな程振っていたので、無意識に撫でていた。
「その子かい?二年くらい前だったかな?その子が道端に捨てられていてね、拾ったんよ」
「そうだったんだ。名前はあるの?」
「決めてないねー、うみちゃん決めてえーよ」
「じゃあ、『そら』かな」
「『そら』か、いい名前やね」
私はそらのお世話係になった。そらは雑種犬だそうだ。柴犬のように耳が立っている。そらに「またね」と言い、おばあちゃんの家に入る。
「荷物、二階に置いといで」
「うん」
二階は私がおばあちゃんの家に泊まる時は、この部屋をいつも使っている。荷物を置いて、一階に戻る。一階には、おばあちゃんの部屋とリビングがある。おばあちゃんの部屋には、おじいちゃんの仏壇があるので、おじいちゃんに手を合わせ、リビングに行く。リビングに行くと、おばあちゃんが煎餅とお茶を用意してくれていた。私はそれをゆっくりと外を眺めながら食べていた。
食べ終え、おばあちゃんの夕食作りの手伝いをする。夕食を作り終え、二人で話しながら夕食を食べ片付けが終わる頃には、外はすっかり暗くなっていた。
「うみちゃん、そろそろそらの散歩行ってきてくれるかい?」
「うん、わかった。行ってくるね」
「気をつけてね」
「うん」
そう言って私はそらを連れ外に出た。この辺りはよく小さい頃遊んでいたので、よく覚えている。
今日は海沿いを歩こうと思い、ゆっくりとそらと一緒に歩く。
そろそろ帰ろうと思ったその時、浜辺に一人の男の子が立っているのが見えた。
月明かりに照らされた彼の横顔はとても整っていて、何故か見入ってしまった。
肌が透き通るように白く、髪の毛が光に照らされ白く発光している。
私が彼から目が離せずにいると、そらがリードを引っ張った。
彼が気がつく前で良かったと安心し、私は早足でおばあちゃんの家に帰った。お
風呂に入っている時も勉強をしている時も、彼の横顔が頭から離れずにいた。
もう寝ようと思い布団に入るが、全く寝付けない。
明日から学校が始まるというのに、彼が頭から離れないのだ。
私は彼の事を考えながら夜を過ごしていた。
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