僕の友達は言葉が少ない

月野 満海

第1話八つの言葉

 「おはよう」

 「今日は何をするの?」

 「勇気出してみよう」

 「頑張ってね」

 「大丈夫」

 「落ち込むことないよ」

 「よかったね」

 「これでもう私はいなくていいね」


 僕の友達はこの八つしか話せない。



 僕にリアルでの友達なんていらなかった。僕にはこのゲームでの友達だけでいい。


 僕の大好きなオンラインゲームにはおかしなものがある。それは、キャラクターの返答が気持ち悪いというものだ。なんでも、そのキャラクターは固定の八つの返答しかしない。そしてそのどれもがストーリと関係ない、まったくもって意味不明な返答なのだ。しかし、僕はその返答がまるで自分のためにあるような気がした。そう思うようになってから僕は毎日ログインした後にそのキャラと話すようになった。毎回話しかけても、まったく同じ返答だったが、僕にとってそれはとてもうれしかった。毎日誰かに話しかけることが楽しいと初めて思った。そして彼女は、僕にとっての唯一の『友達』になった。

 相も変わらず学校では一人でいる。部活は入っていないし、委員会にも入ろうとも思わなかった。ただただ学校での生活は嫌で仕方ない。一人で居るところを見られたくない。誰からも見られていないのに。それでも一人なのがとにかく嫌で仕方ない。僕はなぜこんなのも歪んでしまっているのか。

 昔は友達もある程度は居た。しかし、みんながみんなお互いの道に進むようになって、ある友達は習い事を。そしてまたほかの友達は部活や転校。いろいろなことがあってみんなとは疎遠になった。自分もその流れに対応しなくてはいけないとは分かってはいたが、それができなかった。

 「あれ?宮島じゃね」

そう言って近寄ってきたのはどこか見覚えのある好青年といえる男だった。肌は褐色できれいに駆られた坊主頭のその男は、さしずめ野球部といったところだろうか。しかし、それが分ってもこの男が誰なのかが分からないままだ。僕はただ苦笑いして乗り切ることしかできなかった。

「もしかして忘れちゃった?俺だよ俺、佐藤だよ」



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僕の友達は言葉が少ない 月野 満海 @001411

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