bloom ~高校生が江戸の植木職人に~

とまと

プロローグ 

 ここ、江戸の染井村の植木商『霧島屋きりしまや』は現代でいう園芸センターのようなところ。

 

 霧島屋の庭はじっくり見て回るには半日かかるくらい広大な敷地で、動物の形に剪定されたつくり木や造りこまれた小川や滝、山まであり、四季折々、江戸の人々を喜ばせていた。

 庭にある植物は小さなものは花卉かきの苗から大きなものは立木たちきまで、ほとんどが売り物だ。

 庭の中には植木職人のための茅葺き屋根の家まであって霧島屋の庭はいつも客の笑い声や職人の威勢のいい掛け声でにぎやかだった。



「おめぇら! このかめの底に水はけ用の穴を開けといてくれ」


「これ全部に⁉」


 霧島屋で働かせてもらっている一樹いっきが驚いた様子で言った。


「あったりめぇよ! 甕の底のヘソに穴を1つ開けといてくれりゃあいいからよ!」


 職人頭の亀吉かめきちが気合を入れるように首にかけた手ぬぐいの端を握りしめ、今日やることを言って去って行った。

 一樹は、花卉の苗が植えられる予定の筒状の甕を見て、


「これって……80個くらいあるよね。こんな新緑の季節に植物の世話じゃなくて、甕の穴開けで日が暮れるなんて地味すぎるー!」


 と叫んだ。


「まあ、効率よく終わらせる方法を考えようぜ」


 しんは道具箱の中からどれが穴開けに適しているか見定めていた。


「名案思い付いたんだけどさ、江戸でちゃんとした植木鉢がつくられる前に、俺が植木鉢つくって売っちゃえば、バズるんじゃね?」


 どうしても穴開けをしたくない一樹は、話に逃げた。


「園芸の歴史にお前の名前残したら絶対だめだろ……」


「やっぱだめ? ……そうだよね」


 

 一樹はしぶしぶ甕を運びだした。三つ運んだあたりで甕を両手で抱えて座り込み、しばらく考え、


「そういえば俺、まだ謝ってなかったよね。真くんを江戸時代に連れてきちゃってさ……」


「今さら謝るのかよ」


 真は、遅すぎる謝罪に呆れていた。


「真君の好きなウインナ―ここにはないね。ごめんね」


「えっ…………そこっ? 謝るとこ……そこっ?」



 一樹と真が、江戸時代に来たのは4月、高2になったばかりの時だった。


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