メッセージ

赤星

メッセージ

休日の夜。自宅。

ワンルームの小さな部屋に蛍光灯の古臭い光が降り注ぐ。

僕はYou○ubeを見ながら、白身魚をつまみに一人飲み会を謳歌していた。

適当な動画を開いては何にも考えずにそれを見て楽しむそんな事をしていると、

L○NE!と言う軽快でポップな音が鳴り、

スマホ上にメッセージが通知される。


『😄』


ニッコリ笑う絵文字が一つ。

送って来た相手は志田と書かれていた。


『誰だ?志田って。』


自分の知り合いに志田と言う名前の者はいない。

どこかで僕のIDが漏れたのだろうか?

そんな事を思っているとまたメッセージが表示される。


『あぐらをかきなさい。』


今度は真希子と言う奴からだった。

これまた知らない名前。


『なんだ?これ。』


二連続で知らない奴から意味のわからないメッセージが送られて来て

少しだけ背筋が冷えるのを感じる。


『ピーンポーン。』


急なチャイムの音。

一瞬で緊張が全身を駆け巡る。


『びっくりしたぁ。』


僕は早くなっていた心臓の鼓動を間近に感じながら、

返事をしながら、重い腰を上げて玄関に向かう。


『たく。もう九時になるってのに…。』


ドアを開けると、ワーキングキャップに仕事用の制服を着た配達員らしき

男性が立っていた。

帽子を深く被っているため顔は見えない。

男性は縦横30センチくらいのダンボールの箱を持っていた。

その上には初払の伝票が貼り付けられており、

お届け先の欄には自分の名前や住所などが書いてあった。

そしてご依頼主のところには庄司と書かれていた。


『庄司?…って誰だ?』


またも知らない名前に

僕は疑問を抱えつつも、いつまでも配達員さんを待たせる訳には

いかないと思い、サインをして荷物を受け取った。


『…それでは失礼いたします。』


配達員の男性はそう言うと、お辞儀をして去って行った。

僕はすぐに部屋には戻らずに玄関でとどまって、

しばらくの間この箱を開けようか悩んだ。


『全く覚えのない人からの荷物だしな…。

開けるのが怖いなぁ。

…けど、怖い物見たさというか、開けてみたいって欲もあるんだよな…。』


僕は悩んだ末に開けることにした。

ガムテープに爪で切り込みを入れ、

少し乱暴に破る。

恐る恐る中身を確認する…。


『うわっ。なんだこれ。』


中に入っていたのは木で作られた人形の足だった。

前に動画でみたデッサン人形というのに似ていた。

肌が着色されている訳では無く、木製のシンプルなデザインのものだ。

しかも片足。

君の悪くなった僕は、人形の足を箱に戻し、

玄関の靴箱の上に置いて、逃げる様に部屋に戻った。


『はぁ…。いったいなんなんだ?』


僕は愚痴りながら定位置に戻ると、

酒を一気に呷り、魚を摘んだ。

そして、また動画をみようとしてスマホの電源をつける。

…スマホのロック画面には、新着のメッセージが表示されていた。


『ビール美味しい?』


送り先の名前は洋子。こいつの事も僕は知らなかった。

僕の額に嫌な汗が流れる。


『い、いや、これ発泡酒だから…。』


僕は怖さを紛らわせるために、

的外れなツッコミを入れて気持ちを落ち着けようとした。

しかし次の瞬間、蛍光灯の光が消え、スマホの電源が落ちる。


『うわぁあ!な、なんだなんだ!?停電か?』


僕は慌てて持っているスマホの電源ボタンを押すが、

電池が切れたかの様に反応しない。

ならば、と思いブレーカーの場所へと歩みを進めようとした。

だが、すぐに歩みは止まる。


『なんだよ…。これ…。』


僕の目の前には二足歩行で顔がいくつもの絵文字で

塗りつぶされている化け物がいた。

僕は恐怖で思わず顔を逸らそうとするが、

不思議なことに体は動かない。

化け物は楽しそうに笑い出す。

そして鼻歌を歌いながら僕の周りを回った。

ルンルン。ランラン。様々な擬音で、

少女、おじさん、犬の声。様々な声で、

歌い歌い歌う。

何周くらいしただろうか。

化け物は僕の後ろでピタリと止まった。

自分の心臓の音だけが鼓膜を刺激する。

背筋の悪寒が氷点下に達した頃。

僕の耳元で声がした。


『輪遊びしましょ。』


そこで、僕の視界は暗転した。

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メッセージ 赤星 @antanium

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