白武者と黒騎士と天子と

田戸崎 エミリオ

起:2人の英雄


カキィン、カキィィン!


交差する刃と刃が、綺麗な鍔鳴り音を響かせる。


立ち会っているのは、2人の英雄。


片や、シロナ公国の白武者。

神事に纏わる白装束の上に赤の鎧を身に纏う、公国で「護国の刃」と称えられる稀代の英雄。


片や、クロム帝国の黒騎士。

金の装飾が施され黒のフルアーマーで全身を覆う、帝国で「救国の剣」と崇められる稀代の英雄。



戦場で幾多も互いに切り結んできた間柄だが、今回ばかりは勝手が違う。

1対1の、混じり気なしの決闘。

どちらも国の威信どころか、国の存亡を掛けていると言ってもいい。


何よりお互い、自分の愛する者のために決して引くことは出来なかった。


「ふ……やはりお互い、この方が性に合っているようですね」

「そうだな!欲しいものは己の力で手に入れる!我はこれまでそうしてきたからな!貴様もそうだろう?」

「失礼な!私が求めるは泰平の世。この刃はそのためのものです!」

「抜かせ!世のためだろうと何だろうと、その武力で英雄の座までのし上がってきたのだろうが!」

「あなたも似たようなものでしょう!」

「あぁまったく!やはり我らは鏡合わせ!似てるが故に互いに相容れぬ存在のようだな!!」


カキィィンという音と共に、互いの剣が弾かれる。

どちらも一度距離を取り、体勢を立て直した。


豪奢な兜の下から、白武者の不敵な笑顔が見える。

フルフェイスアーマーの下にある黒騎士の顔も同じだろう。

永遠の好敵手にして、絶対的な恋敵。

その決着がついにつく。

その高揚感が抑えられないのだ、お互いに。


二人は揃って、観客席にいる人物に目を向ける。

一際大きな椅子に座る人物、天子と呼ばれるその存在こそが、二人のお目当ての人物だ。

今、2つの国において絶対的な権威を持っている唯一の人物。

その天子は、白武者と黒騎士それぞれの従者を横に置きながら、決闘の行く末を見守っている。

この闘技場に、観客はその3人だけだ。


白武者と黒騎士は、お互いに自嘲する。

つい、天子と出会った時のことを思い出してしまう。


お互い、国の政略結婚に巻き込まれ、この辺境の地へとやってきた。

またしても宿敵と対峙し、早くも殺し合いかと思われた二人の間に割って入った人物。

それこそが天子だった。


この世界において、調停者という役割を担う一族の末裔。

その人物こそが、国から通達されたお互いの婚約者。


いや、正確には婚約者ではない。

言わば、天子はターゲット。

二人に課せられた任務は、天子と婚約して国に連れ帰ることだ。


戦に生きた二人が、一人の人物を篭絡してこいという無理難題を押し付けられた。

最初こそ、国のためとはいえ任務に不満を持っていた二人だったが、天子と出会って認識が変わった。


その名に恥じぬ類まれなる容姿と、凛とした態度。

激動の時代において、なお懸命に使命を全うしようとする姿が眩しく映る。

出会ってまだ日も浅いというのに、二人の武芸者は天子のためにすべてを掛けることを決意した。

どちらも天子と結ばれるために、あらゆることを為そうと決めていた。



端的に言えば、惚れたのだ。


ものの見事な一目惚れであった。



結ばれるのは自分だ。

その決意を新たに、白武者と黒騎士は互いに向き合い、武器を構えなおす。


「いざ!雷光の舞!」


突如として、白武者の姿が増えた。

シロナ公国に伝わる秘伝の術の一つ、分身術だ。

5人に増えた白武者の太刀に雷が纏う。

雷遁の術を使い、電撃を纏った刃が黒騎士を囲んでいく。


「甘いわっ!ブレイズレイド!!」


黒騎士は得物である大剣に炎の魔法を纏わせる。

力いっぱいに横薙ぎで振りぬいた炎の剣は、渦となって黒騎士の周囲を覆う。

炎の渦に焼かれた白武者の分身が消えるが、白武者はなおも炎の中を突き進む。


「そこっ!」

「ちぃっ!!」


装束が焼けたことも気にせず、炎の中から飛び出して鋭い速さの斬撃を見舞う白武者。

反応がわずかに遅れた黒騎士のフルフェイスを刃が掠める。

雷遁を纏った刃は恐るべき鋭利さを持ち、フルフェイスアーマーと胸のプレートを引き裂く。

だが、裂けたのは鎧のみで、黒騎士の肉体には刃は届いていない。

ただ、フルフェイスに付けられた刀傷から、黒騎士の素顔が少し見えるようになった。


「ふんっ!!」

「くっ!!」


すぐさま黒騎士が反撃を仕掛けた。

接近していた白武者は避けきれず、大剣が白武者の兜に当たった。

兜の飾りが盛大に砕けるが、傷ついたのは飾りだけであり、こちらも白武者の肉体には傷一つついていない。

再び距離を取る白武者だが、炎が装束を焦がししまい、いくらか手足の素肌が露になっている。

だが、事前に付けた肉体強化の術のおかげで、火傷の跡は見られない。


お互いの攻撃で、装備にダメージがいっている。

互いに武器防具が砕けるまで戦ってもいいが、それでは味気ない。

笑みがこぼれる。お互い、考えることは一緒だった。



「「はあああああああああっ!!!」」


互いに術と魔法を得物に込める。

最大最強の一撃、それで決める!


バチバチと電撃を放つ白武者の太刀。

ゴウゴウと炎を纏う黒騎士の大剣。


互いに必殺の一撃を仕掛けようと、お互いに集中し合う。

そのせいで、二人は気付かなかった。


肝心の天子が、冷たい目で二人を見下ろしていたことに。

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