第10話

夏も終わりに近づいた頃、帰り際にヨーコ姉ちゃんが

「あのさ、私、夏にしかここには来られないんだ。だから、今年はもうお別れなの。」

この夢のように楽しかった毎日が終わってしまうと告げられる。

それは夏休みと同じように。

「なんで会えないの?もっと一緒に遊びたいよ。」

「ごめんね。できないんだ・・・。でも、来年もまた来るから。絶対来るから。だから、来年。また、会いたいな。」

「来年・・・。」

「そう。マコト君が私のことを覚えていてくれたら、そしたら、私、待ってるから。来年の、私たちが初めて会った日、ここで。」

「わかった、約束だ。俺、絶対来るから。来年もまた遊ぼう。」

「うん。・・・ばいばい。」


そう言って俺たちは別れた。

だけど俺は諦めきれずに次の日もいつもの場所に行ってみた。でも、朝からずっと待ってみてもヨーコ姉ちゃんは来なかった。

だから俺は来年、ヨーコ姉ちゃんに相応しい男になって会えるように頑張った。いつも大人のような余裕を持って、賢くて、憧れる。そんなヨーコ姉ちゃんと対等の男になるって、そう決めた。



夏休みが終わって、俺は得意な運動はもっと上手くできるように、嫌いだった勉強も毎日真剣にやった。そうしたら思いのほか簡単にクラスでも上位になって、学年が上がってからはトップになった。ヨーコ姉ちゃんの言っていたように相手のことを考えて人に接していたら友達も増えた。学校では何においても他の誰にも負けない、それを皆が望んでいると感じるようになった。

そして俺は、完璧でなければならなくなった。

テストでは満点を、体育では常に勝利を、学級委員で委員長で。とにかく俺はヨーコ姉ちゃんのようになりたかった。肩を並べて対等な関係になりたかった。だけどその結果としての現状が俺には窮屈だった。もう誰も、俺に勝負を挑んでくるやつはいない。俺の孤独感はもしかしたら去年よりさらに深まっていたかも知れなかった。



そしてとうとう訪れた夏休み、約束の日。

俺は意気揚々と約束の場所に向かった。その場所は一年前とほとんど変わらず、去年のそのまま、その続きと言わんばかりだった。

ヨーコ姉ちゃんの姿はなかったので約束の岩の上で座っているとしばらくして、

「やっほー、待たせちゃったかな?・・・一年ぶりだね。」

その声に振り返るとそこには去年のままのヨーコ姉ちゃんがいた。

「うん、待ったよ一年。久しぶり。」

俺は少し照れながら、内心では飛び上がるほど嬉しかった。

「大きくなったね、大人っぽくなった。」

「そう?自分じゃあんまりわからないよ。」

「成長してるんだよ。男の子だもんね。それじゃあ今日は何して遊ぼっか?」

「遊ぶのもいいけどさ、俺、ヨーコ姉ちゃんに話したいことがたくさんあるんだ。」

俺は一年ぶりに会ったヨーコ姉ちゃんと色んな話をした。遊ぶのも楽しかったけど、今はヨーコ姉ちゃんとたくさん話をしたかった。俺は凄く楽しかったけど、時たまヨーコ姉ちゃんが少し寂しそうな顔をしているような気がした。


そうこうしている内にその日は帰らなければいけない時間になってしまった。

「ああ、もう時間か。ごめんね、俺ばっかりずっと話して。」

「ううん、いいよ。」

「また明日も会えるかな?」

「うん。」

なんだか元気がないように思えた。そしてヨーコ姉ちゃんは帰り際に小さな声で

「マコト君はもう、山で遊ぶような、子供じゃ、なくなっちゃったのかな・・・。」

「え?」

「ううん。なんでもない。・・・また明日ね。」

何かが引っ掛かりながらその日は別れた。


その日の帰り道、町で友達に会った。

「まこちゃん今日どこ行ってたの?」

「遊ぼうと思ったのに。」

「ああ、ちょっとね。夏休みの間はちょっとやることがあるんだ。だからしばらくは一緒に遊べないと思う。ごめん。」

「そっか、自由研究?」

「違うけど、まあ似たようなもんかな。」

「わかった。」

「じゃあね。」

「遊べるようになったら教えてね。」

友達が帰っていったその場所に一人、優紀子だけが残っていた。

「今日さ、山に、行ってたの?」

「・・・なんで?」

「去年そのことで喧嘩したって聞いたから。それからまこちゃん何か変わったし。何かあるのかなって。山に。」

鋭いなと思った。普段優紀子はこんなに気の付くやつだっただろうか。しかし詮索をされると困る。大人の耳に入ったら山に行けなくなるかも知れない。

「悪いけど、詳しくは言いたくない。」

「私には、・・・教えて、くれないの?」

「ごめん。」

「そっか、うん、そっか、そうだよね。私の方こそ、ごめん。」

心配をしてくれている優紀子を突き放すような真似をすることに多少の罪悪感を抱きつつも俺はその場を離れた。

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