第7話
いざ。誰もいない山の中、誰に言うわけでもなく、自分に対して「いくぞ」と声を出し踏ん切りをつけ俺は山を下り出した。
下りということ自体はいつもの帰りで何度もやっているが、全く新しい景色、木、岩、そして道なき道。思えば頂上までは道があった。「道」というもの。今まであまり意識していなかったが、本当に道というものがないということがこんなに過酷なことだとは思わなかった。すぐそこまでも遠回りしなければならない。その過程で自分の位置があやふやになる。来た道をしっかりと覚えておかないと迷ってしまいそうだ。
俺が切り開くんだ、俺の判断で、俺の力で。俺はこの初めての楽しい遊びに夢中になった。同時に、この新しくも楽しい遊びをやってみようともしない友達に怒りと優越感と孤独を感じた。
しばらく下ってみると急な坂もなく、危なくないわけではないのだろうが、それほど危険という感じもなかった。静かに立ち止まってみると風で木々の葉の揺れる音が聞こえる。それ以外にも動物だろうか何かが動いているのだと思える音も聞こえてくる。
普段は山の景色なんてなんとも思わないし、自然の驚異と言っても自分である程度コントロールできるなどと自惚れていた。山自体は何も変わっていないのに世界には自分しか人間がいないのではないかと錯覚してしまう程、人間を感じられるものがない中、精神的にも物理的にも拠り所のないような言い知れぬ不安感、恐怖感が心を覆う。
道がわからなくなったら帰れなくなるという無謀を、大型の動物に遭遇したら危険だということを、それすらも楽しみに変え、何かあれば皆に自慢できるというくらいの気持ちで俺は山を下った。
道なき道を行き当たりばったりで進んで、危険そうな急斜面等があったら引き返し、また別のルートを探す。そんなことを繰り返す内に日が暮れて帰る。次の日には進めるルートを一直線に進みまた新たに下る。
そんなことを続けて数日、随分慣れてきて順調に道を作る過程が面白くなっていた時、町に下り帰り道で優紀子に会った。
「ねえ、聞いたんだけど最近さ、まこちゃん皆と遊んでないって。なんで?どうかしたの?」
誰が言ったんだ。まああいつらの誰かだろうけど。
「あいつらとは遊べない。」
少なくとも夏休みの間は。・・・一緒には、遊べないって、そう、言われたんだから。
「なんで?喧嘩したの?」
「ちげーよ!・・・でも、似たようなもんかもな。」
「心配してたよ?」
「あいつらに心配される言われはねーよ。」
そういう対象じゃないから。俺は。
「もしかして、ムキになってる?」
こちらを窺うような。心配するようで、それでいて俺の気持ちは何もかもお見通しみたいなその態度が、心理的に優位に立たれていると感じてカチンときた。
「ちげーよ!ってか知らねえなら首突っ込むなよ。優紀子には関係ねえだろ。」
「そんな。関係はないかも知れないけど、やっぱり心配だし。私にも教えてくれても・・・。」
「うるせえ!女にはわかんねえんだよ!」
我ながら酷い言い方だとはわかっていながらも、もう自分では止められない。
俺は言い捨ててその場に背を向ける。
なんなんだよ。
俺はお前らに心配される必要なんかないんだよ。
大体、お前らには俺を心配する資格なんてないだろ。
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