この難しく残酷な世界で
氷川奨悟
第一話
「はあ?嘘だろ、、、」
それは、一瞬にして世界を悲しみの底に突き落とした。
大人気俳優の春風ヒナタ(30)が亡くなったのである。
春風ヒナタは、お茶の間では、顔も性格も良くて演技が上手い若手実力派俳優として認知されており、9歳の子役デビューから約21年、その活躍から人気を博していた。
その春風ヒナタの訃報にSNSでは、悲しみのつぶやきやその俳優が出演していた映画の主題歌を歌うバンドの動画が流れるなどして、思い思いに追悼していた。
近年では、こうした日本国内に限らず海外でも自殺という選択肢を選ぶスターが数絶えなかった。
それらの原因は誹謗中傷だといわれている。
なかんずくそれは、直接的な言動ではなく、SNSを介した間接的なものが影響している。
「自分が嫌だと思うことは人には止めようね」
そういってくれた小学校の先生には申し訳ないが、そんな言葉で解決される世界は既に滅びてしまった。
会社では顧客
テレビなら視聴者
店ならお客様
映画や演劇なら観客
社会では、評価がすべてだ。
無論、それは、一般論も含む。
いや、むしろ、一般論が強すぎてそれ自体がある種のイデオロギーになっていると断定ぜるを得ない。
我々は評価の中で生きている。
それは、誰だって同じな筈ではないかと思う。
確かに、優劣はあるかもしれない。
だからといって、Aが気に食わないからBは攻撃しても良いという理由にはならないだろう。
いや、そんなのははなから知っている。
いつから、人の命より評価が大事という世界になってしまったのだろう。
そして、それはダメだと分かっていながら、なぜ、悲劇は繰り返されるのだろう。
そして、決まって私たちは、悲しみと嘆きの涙を流すことしかできない。
つまり、人間は無力なのである。
だから、結局は、人と人が繋がらないと生きてはゆけない。
それは、小学校のうちから学ぶことができるが、厄介なことに成長していくと忘れることなのだ。
じゃあ何ができるか?
静かに見守ればいい。
揶揄する訳でもなく、過剰に反応する訳でもなく、同じ人間として、温かい目で陰ながら応援すればいい。
しかしながら、そういう言葉で片づけられないのが、いや、許してくれないのが社会であり、世間であり、あなたなのだ。
どんなに偉そうに見える会社のおっさんだろうが、完璧に見えるイケメン俳優でも、結局のところ、わが息子、わが娘、また、自分と同じ命しか携えてない人間なのだ。
どうか、この世界が少しでも優しい笑顔に包まれることを夢見て。
亡くなられた方々に深い哀悼の意を込めて。
この難しく残酷な世界で 氷川奨悟 @Daichu06
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます