心と力、狂いだす街

ゼータフロント

第1話 与えられた力

 子どものころはテレビの中のスーパーヒーローに憧れて、


「将来はヒーローになる!」


 なんて馬鹿げた夢を語ったり、ヒーローごっこなんかもしたものだ。もう俺にはあの頃のような純粋な心は無い。今はただ何もかも諦め退屈な日々を繰り返すだけの人間になってしまった。


 ある日の夜のことだ。帰宅途中にひとりの白い少女を見た。暗い街にひとりでいるというのは危険だ。俺は声をかけることにした。


「おい、もう暗くなったしひとりでいると、危険だ。早く帰りなさい。」

「お気遣いどうも。やさしいね。でも大丈夫、私にはこれがあるから。」


 少女は自慢げに左腕につけたブレスレットを見せた。怪しい宗教にでも入っているのだろうか。


「馬鹿なことを言ってないで、さっさと帰りな。そんなもの、何の役にも立たないさ。」

「あなたはそう言うけど、これから起こることを見ればその考えは消えるよ。出てきなさい、いるのでしょう?」


 少女がそう言うと、一つの影が現れた。暗くて細部がよく見えないが、その形は人ではない。


「ブレスレットを寄越せ。」


 その何かは俺たちにゆっくりと向かってくる。近づくにつれ、その姿が認識できるようになってくる。それはまさにバケモノとしか言えない禍々しい、醜い姿だ。


「ダメ。ブレスレットはひとりにひとつ。それがルール。」

「だったら、力づくでも奪い取ってやる。」


 バケモノは物凄い速さで俺たちに襲い掛かってきた。が、その攻撃は防がれた。


「ルールは絶対だから。破ろうとするなら、それを取り上げるしかないね。」


 少女のブレスレットが白く光り、特殊なバリアを張っている。


「解放」


 少女がつぶやくと、彼女は光に包まれ、バケモノは後ろに飛ばされた。

 光が弱まると、そこには神々しい装甲に包まれた何かがいた。


「あなたは使いこなせなかったから負けた。」


 それは少女の声で話している。少女が姿を変えたらしい。


「黙れ!」


 バケモノは再び彼女に襲い掛かった。


「黙るのは、あなた。」


 彼女の手のひらから光が浴びせられ、バケモノは苦しみ、声をあげた。光が消えると、そこには痩せた男が悲痛な顔で倒れ、少女のものと同じようなブレスレットが落ちていた。少女はそのブレスレットを壊し、元の姿に戻った。


「なんで、壊すんだよ……」


 男の声はバケモノと同じだ、バケモノの正体は人間だったのか。


「無意味だから。」


 少女のその言葉を聞き、彼は涙を流した。俺はその姿を見ていられず、その男のもとに駆け寄った。


「あんたも、否定すんのか?」


 俺を睨みつけてくるその表情から、悲しみを感じた。


「なにがあった?」


 俺は彼に寄り添おうとした。この男を、救いたく思った。


「関係、ないだろ。」


 男はたった一言、それだけを残して去ってしまった。


「彼、大きすぎる失敗をして、何もかも失ったの。だから力をあげたのに、それでもまた失敗した。可哀そうにね。」

「そうか……」


 何に失敗したかは知らないが、バケモノになってしまうほどなら余程のことなのだろう。


「あなた、中途半端だね。諦めようとしているのに、まだ信じてる。」

「何を?」

「無自覚なんだ、自分の矛盾に。」


 少女は言いつつ新たなブレスレットを差し出してきた。


「これがあれば、気づけるんじゃない?本当の自分に。」

「俺をバケモノにしたいのか?」

「あの姿は彼だけのもの。これを使って変わる姿は、その人の心。あなたはどうなるのかな?」


 俺の心、か。


「それに、これは貴方に力を与える。彼のような人を、救えるかもね。」


 救えるだと?こいつは、なぜ彼に力を……彼を救うためじゃないのか。


「あんたの目的は一体……」

「そのうちわかるよ。今日、この街の多くの人たちにこれを渡した。彼、彼女たちと交流すれば、わかるんじゃない?」


 ますますわからんな、なぜそんなことをする?


「君はどうするの?力、欲しい?」


 ここまで疑問を持ったまま、何もしないのは後味が悪い。それに、力は見た限り本物、これなら……

「貰おうか。」

「頑張ってね、ヒーローくん。」


 何だって⁉ヒーローって……

 彼女は光に消えた。そして俺は、自宅のベッドで目を覚ました。

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