この世界に生きる意味をぼくに教えてください

よるねむ

この世界の始まりへ

 1


 ひとりの赤ん坊が産声をあげた。体重は3570グラムで元気な男の子だった。


 おぎゃあおぎゃあと泣きながら、赤ん坊は新生児室へと運ばれ、ベッドで寝かされる。


 そのとき赤ん坊は気づいたのだ。この世界は自分が生まれたかった世界ではないと。


 赤ん坊はこの世界に生を受け、外に飛び出し、まだ未発達な目で世界を見たとき、それに気づいた。ほとんど本能に近いものだった。


 赤ん坊はそれから、なに不自由なくすくすくと育っていった。


 そして十六歳の春、彼は高校生に成長していた。華の高校生であり、多感な年ごろでもある彼は、まさしくあたりさわりのない人間へと成長していた。漫画や小説でいう、ごく普通の生徒だ。


 彼はごく普通に幼少期を過ごし、ごく普通に地元の小学校、中学校を卒業し、またもごく普通の地元の高校へと入学し、今にいたる。


 中学時代は友達に流され、たいして興味のないスポーツをこれまた友達に流されながらも三年間やりとげた。


 彼女はこれまでに一度もつくったことはないし、あまり積極的につくろうとは思わなかった。ラブレターならなんどかもらったことはあったが、とくにアクションをおこすことはなかった。


 彼はゆっくりと着実に年を重ね、大人への道を歩いていた。


 そんな平凡な彼の心の中は、とても複雑なものに満たされていた。まず、彼はこの世界に生きるそのことに対して違和感があった。そして彼は、この世界に生きている自分をおかしいと思うのだ。その理由は十六年間生きてきても、わからない。


 彼は心の中で叫ぶのだ。助けてくれ、俺を救ってくれと。


 たった一度だけ、それはおそらく今からちょうど一年前くらいの中学三年生のとき、このことを両親に話した。だが、両親は真に受けなかった。思春期におこる、ちょっとした心の病だと考えたのだ。それから彼は、人にこのことを話すのをやめた。


 それから一年後、彼は高層ビルの屋上から飛び降り自殺した。十六歳という若さで、彼はその生涯をとじた。


 空は曇天だった。


     2


 ひとりの赤ん坊が産声をあげた。体重は3570グラムで元気な男の子だった。おぎゃあおぎゃあと泣きながら、赤ん坊は新生児室へと運ばれ、ベッドで寝かされる。


 そのとき赤ん坊は気づいたのだ。この世界は自分が生まれたかった世界ではないと。


 赤ん坊はこの世界に生を受け、外に飛び出し、まだ未発達な目で世界を見たとき、それに気づいた。ほとんど本能に近いものだった。


 赤ん坊はそれから、なに不自由なくすくすくと育っていった。


 そして十六歳の春、彼は高校生に成長していた。華の高校生であり、多感な年ごろでもある彼は、まさしくあたりさわりのない人間へと成長していた。漫画や小説でいう、ごく普通の生徒だ。


 彼はごく普通に幼少期を過ごし、ごく普通に地元の小学校、中学校を卒業し、またもごく普通の地元の高校へと入学し、今にいたる。


 中学時代は友達に流され、たいして興味のないスポーツをこれまた友達に流されながらも三年間やりとげた。


 彼女はこれまでに一度もつくったことはないし、あまり積極的につくろうとは思わなかった。ラブレターならなんどかもらったことはあったが、とくにアクションをおこすことはなかった。


 彼はゆっくりと着実に年を重ね、大人への道を歩いていた。


 そんな平凡な彼の心の中は、とても複雑なものに満たされていた。まず、彼はこの世界に生きるそのことに対して違和感があった。そして彼は、この世界に生きている自分をおかしいと思うのだ。その理由は十六年間生きてきても、わからない。


 彼は心の中で叫ぶのだ。助けてくれ、俺を救ってくれと。


 たった一度だけ、それはおそらく今からちょうど一年前くらいの中学三年生のとき、このことを両親に話した。だが、両親は真に受けなかった。思春期におこる、ちょっとした心の病だと考えたのだ。それから彼は、人にこのことを話すのをやめた。


 それから一年後、彼は高層ビルの屋上から飛び降り自殺した。十六歳という若さで、彼はその生涯をとじた。


 空は曇天だった。


     3


 ひとりの赤ん坊が産声をあげた。体重は3570グラムで元気な男の子だった。おぎゃあおぎゃあと泣きながら、赤ん坊は新生児室へと運ばれ、ベッドで寝かされる。


 そのとき赤ん坊は気づいたのだ。この世界は自分が生まれたかった世界ではないと。


 赤ん坊はこの世界に生を受け、外に飛び出し、まだ未発達な目で世界を見たとき、それに気づいた。ほとんど本能に近いものだった。


 赤ん坊はそれから、なに不自由なくすくすくと育っていった。


 そして十六歳の春、彼は高校生に成長していた。華の高校生であり、多感な年ごろでもある彼は、まさしくあたりさわりのない人間へと成長していた。漫画や小説でいう、ごく普通の生徒だ。


 彼はごく普通に幼少期を過ごし、ごく普通に地元の小学校、中学校を卒業し、またもごく普通の地元の高校へと入学し、今にいたる。


 中学時代は友達に流され、たいして興味のないスポーツをこれまた友達に流されながらも三年間やりとげた。


 彼女はこれまでに一度もつくったことはないし、あまり積極的につくろうとは思わなかった。ラブレターならなんどかもらったことはあったが、とくにアクションをおこすことはなかった。


 彼はゆっくりと着実に年を重ね、大人への道を歩いていた。


 そんな平凡な彼の心の中は、とても複雑なものに満たされていた。まず、彼はこの世界に生きるそのことに対して違和感があった。そして彼は、この世界に生きている自分をおかしいと思うのだ。その理由は十六年間生きてきても、わからない。


 彼は心の中で叫ぶのだ。助けてくれ、俺を救ってくれと。


 たった一度だけ、それはおそらく今からちょうど一年前くらいの中学三年生のとき、このことを両親に話した。だが、両親は真に受けなかった。思春期におこる、ちょっとした心の病だと考えたのだ。それから彼は、人にこのことを話すのをやめた。


 それから一年後、彼は高層ビルの屋上から飛び降り自殺した。十六歳という若さで、彼はその生涯をとじた。


 空は曇天だった。


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 ひとりの赤ん坊が産声をあげた。体重は3570グラムで元気な男の子だった。おぎゃあおぎゃあと泣きながら、赤ん坊は新生児室へと運ばれ、ベッドで寝かされる。


 そのとき赤ん坊は気づいたのだ。この世界は自分が生まれたかった世界ではないと。


 赤ん坊はこの世界に生を受け、外に飛び出し、まだ未発達な目で世界を見たとき、それに気づいた。ほとんど本能に近いものだった。


 赤ん坊はそれから、なに不自由なくすくすくと育っていった。


 そして十六歳の春、彼は高校生に成長していた。華の高校生であり、多感な年ごろでもある彼は、まさしくあたりさわりのない人間へと成長していた。漫画や小説でいう、ごく普通の生徒だ。


 彼はごく普通に幼少期を過ごし、ごく普通に地元の小学校、中学校を卒業し、またもごく普通の地元の高校へと入学し、今にいたる。


 中学時代は友達に流され、たいして興味のないスポーツをこれまた友達に流されながらも三年間やりとげた。


 彼女はこれまでに一度もつくったことはないし、あまり積極的につくろうとは思わなかった。ラブレターならなんどかもらったことはあったが、とくにアクションをおこすことはなかった。


 彼はゆっくりと着実に年を重ね、大人への道を歩いていた。


 そんな平凡な彼の心の中は、とても複雑なものに満たされていた。まず、彼はこの世界に生きるそのことに対して違和感があった。そして彼は、この世界に生きている自分をおかしいと思うのだ。その理由は十六年間生きてきても、わからない。


 彼は心の中で叫ぶのだ。助けてくれ、俺を救ってくれと。


 たった一度だけ、それはおそらく今からちょうど一年前くらいの中学三年生のとき、このことを両親に話した。だが、両親は真に受けなかった。思春期におこる、ちょっとした心の病だと考えたのだ。それから彼は、人にこのことを話すのをやめた。


 それから一年後――彼はいま、高層ビルの屋上に立っている。


 今日は満月が顔をだしていた。まんまるの形が、なんだか人の顔にみえた。その周りをこぎれいに星が飾られている。


 上からは星に照らされ、下からは街灯に照らされるが、彼の鬱屈した気持ちは少しも晴れない。むしろ悪影響だ。


 願わくば、生まれ変わった自分は生きることに違和感を持つことがないようにと、彼は願いをこめて手すりから手を離した。そして彼はぐっと目を閉じた。


 まるで今からジェットコースターが発車するかのように体を縮こませたが、不思議なことが起こった。浮遊感を得ないからだ。


 彼は不思議に思いながらそっと目を開けた。その瞬間、街灯りに目を細めた。

 そして彼は盛大に驚いた。驚きすぎて両方の目玉を落としてしまった(それくらい驚きのできごとだった)。


 彼は口をぽかんと開けながら、今度はおそるおそる後ろを振り返った。そして顎が取れた(それくらいとんでもない事態だった)。満点の星空と、目があった気がした。


「ど、どゆこっちゃ?」


 次に彼は足元をみた。なんと、靴がビルの壁面から数センチ離れたところで浮いているではないか。彼は開いた口が閉じられず、よだれがたれた。人にかかったかもしれないという思考はまったくく浮かばなかった。


 そのとき、ゴーンゴーンとまるで大晦日を連想してしまうような鐘の音が鳴った。耳を澄ますと、それはどうやらまんまるい月のあたりから聞こえてくるようだった。


 彼はよだれも拭かないまままんまるい月をみつめた。よだれが頬から顎につたっていくことなんか、いまはまったくどうでもよかった。


 彼が目をこらしてまんまるい月をみていると、そのまんまるの月の中心あたりから、何やら黒い影が浮かび上がってきた。


「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」


 この状態に似つかわしくないほどの愛らしい声が聞こえ、そしてその影は金髪の少女となって白い煙と一緒に飛び出てくる。そのとき、ポンというポップコーンでも弾けたかのような音が聞こえたが、それはきっとなにかの音と聞き間違えたのだろう。


 その金髪少女の服装は、ピンクの生地に白い水玉模様が入ったパジャマだった。着崩れていてなんだか寝起きのようだったが、かわいらしい少女だったので気にならなかった。


 それよりも気になったのが、背中に生えた薄透明の羽と、真っ赤なステッキ――そして空中浮遊である。彼女はセミのように空を飛んでいるのだ。


「ねぇ、どうかな?」


 少女は甘い声でそんなことを聞いてきて、彼は反応に困った。


「どうって?」

「可愛いかな?」


 飛びながらくるくる回って、全身を自慢げにみせびらかしているので、自身のことを評価して欲しいのだろう。


「うん」と、ムサシはうなずいた。


「そっかぁ! ありがとう!」


 ただ肯定しただけの一言だったが、どうやら少女は嬉しかったらしく、パタパタと鳥のように滑らかに飛び回った。少し目が回らないか、彼は心配になった。


「それで、君はいったいなんなんだ?」

「うーんそうだなぁ……カミじゃつまらないし、ミカ!」


 小首をかしげたあと、少女――ミカは即席で思いついたような口ぶりでそう名乗った。そして、楽しげに笑うのだ。無邪気な子供のようで、彼は少しほっとした。


「なぁ、ミカはもしかして神なのか?」と、彼は尋ねた。

「うんそうだよ! ミカはカミ! 上から読んでも下から読んでも――ミカはカミだよ!」


 ミカは最後の部分を強調してから、また夜空をバサバサと徘徊するコウモリのようにくるくる回った。それが楽しいときの表現方法なのかもしれない。不思議な神さまだ。


「なぁ、ミカは俺を助けてくれたのか?」

「そうだよ。君の死に巡りはみていられないからね。助けにきたの」


 やれやれといわんばかりに――実際小声で言った――首を横に振って、ミカはそう言った。リアクションがいちいちオーバーなのも、子供だった。


「し、死に巡り? なんだそれ?」

「死に巡りはね、何度も何度も死んで生き返ること。君はね、今回のを合わせて971633回死んで生まれ変わってるの。だからもういい加減にしてっていいにきたの。生まれ変わらせるのだって大変なんだよ?」と、ミカは怒りをあらわにした。


 彼はミカの表情がころころと変わるのを見て面白い気分になりながら、そのことについて考えてみたが、考えてみれば意味がないことに気づいた。前世の記憶なんてあいにく持ち合わせていないからだ。


「本当に俺はそんなに死んだのか?」


「うん。十六年刻みで永遠に君は死んでいくの。このままだと100万再生回数突破しちゃうよ」

「そりゃ大変だ。でもそんなに再生されるなら、広告でも貼っておけばよかったかな」

「死にチューバ―だね。死んだ数だけ動画が再生していくの」

「なんてハードルが高いんだ死にチューバ―……再生数に文字通り命懸けてんな」

「まぁ、つまらないストーリーだけどね」


 たしかにこの人生を動画にするならば、開始早々飽きられる自負はあるが、他人にそう言われると、グサリとくる。そういうことってあるだろう。


「でも大丈夫。私はね、あの偉大な神さまだから。君の願いを叶えてあげる」

「願いを叶える?」


 彼はその意味をゆっくりと咀嚼したあと、こういった。


「なら、この違和感を取り払ってくれ」

「それはできないよ」と、ミカは即答した。

「な! なんでも叶えてくれるんじゃないのかよ!」


 するとミカは難しそうな表情を浮かべて、「うーん」と唸った。言葉を探しているようにみえた。


「だって――ないものを取り払うことなんてできないよ」

「そんな――!」


 彼は愕然とした。そんな言葉を返されるなんて思っていなかった。体がいっきに虚脱感を覚えた。全身から力が抜け落ちていく。それほどまでにショックな言葉だった。


 だってそれは、彼が生きてきた十六年間をまるごと否定されたのと同じだからだ。


「そんなことはありえない! 俺はこの世界の人間じゃない!」

「君はこの世界の人間だよ。それ以外のなにものでもない」

「ばかな! ならこの違和感の理由を教えてくれ! こんなものを抱えてこれからも生きていくなんて死んでもごめんだ!」


 彼は意地になってミカを怒鳴りつけた。そんな簡単に認められることじゃないし、受け入れるものじゃない。


「君はね、ただこの世界を受け止めることができないだけ。認められないっていうべきなのかな」

「じゃあなにか? 俺はただこの世界に駄々をこねて顔をそむけているだけなのか?」

「そうだよ。でもそれだけじゃない。君はこの世界を怖がってる」

「怖がってるだって? どういうことだよ」

「文字どおりの意味だよ。君はこの世界に恐怖心を持っているの。けどそれを、違和感だと勘違いしてる」

「な、ならその恐怖心を取り払ってくれよ! そしたらこの違和感も無くなるんだろ?」


 彼ははやる気持ちを抑えながら、ミカに請う。そんな彼を、ミカは教師が生徒になにかを教えるように、回答していく。


「無くなるよ。でもね、それは埃みたいなものなんだよ。だからすぐに君の心は埃で満たされる。そんな応急処置みたいなものでよければ、してあげるよ」


 彼は言葉をなくした。きっと彼の中にある根本的ななにかを解決しないかぎり、この違和感は消えないと思ったからだ。


 彼は拳を強く握りしめた。いつのまにか、体に力が入っていたことに驚いた。


「でもね、その違和感は、君のアイデンティティの一つだとミカは思うの。だって、普通の人間はこの世界を自分の世界だと思って生きているのに、君はそれをことごとく拒んでるんだから」


 彼は褒められてるのかばかにされてるのか分からない気分になった。それでも、悪い気分ではなかった。


「でも、それを褒めれるのは神さましか――ううん、ミカしかいない。だからミカは、君を救いに遠路はるばるやってきたんだよ」


 ミカは自信満々にそう言うが、さっきの登場シーンからそれはまったく想像がつかない。話を掘り下げたかったが、歪曲しそうなのでやめた。


「だから俺の願いを叶えてくれる、そういうことか?」

「うん、そうだよ。でも、君の一番の願いはその違和感というものを取り払ってほしいんだよね。でもミカにはそれはできない。なら――」


 ミカは天使のような、それでいて悪魔のような、あいまいな微笑みを浮かべた。


「君の望む世界に連れていってあげる。それなら、君の違和感は取り払えると思うの。どうかな?」

「俺の望む世界……」


 彼はミカの言葉を聞いたとたん、体の全身があますところなく逆立つような――いわゆる身震いをした。こんな風に体が反応したのは初めてのことだった。


「なら俺は――自由な世界にいきたい」

「自由な世界? それはいったいどんな世界なの?」

「なんにも縛られなくて、好きなことがいつでもできて、好きなものがなんでも食べられるような――そんな自由な世界に、俺はいきたい」


 義務教育で何年も学校にいくことがない世界。ばかみたいに授業料が高い年の半分が休暇の大学がない世界。社会人という働きアリも顔負けの労働を強いられることがない世界。金に縛られ、欲しいものが手に入らない世界。


 こんな世界から逃げ出したい。抜け出したい。消え去りたい。


 こんな世界なんていらない。


「自由ってそういうものなんだね。なら、君にぴったりの世界へと連れていってあげるよ」

「え? そんな世界なんてあるのか?」


 彼は自分でいっておいてなんだが、驚いてしまった。そんな世界があるなんて、思ってもみなかったからだ。ただ彼は、自分の願望を口にしただけなのだから。


「あるよ。ようは自分の欲望を叶えてくれる世界を探しているんでしょ? それにぴったりな世界なんて、探せばいくらでもありますよ、だんな」


 手をこねて、まるで不動産屋の物件探しのような言葉に彼は苦笑した。


「対価は必要ないのか?」

「いらないよ。だってこれは――償いだもん」


 ミカは表情を一瞬くもらせたあと、いつもどおりチャーミングで元気いっぱいな少女の顔に戻った。その切り替わりの早さは、注意してみなければ気付かないほどだ。


「償い? それはいったいどういう――」

「ねぇ、そろそろ行こ。君のいまの姿をだれかがみたら大騒ぎになっちゃう。そしたら、神さま権限でみた人の記憶を差し替えなきゃいけなくなっちゃう」

「それはまた物騒だな……」


 たしかに、ビルの壁面に立つ少年なんて、誰かにみられたらスクープものだ。きっとSNSに投稿されてお祭りさわぎになることまちがいなし。


「俺はどうすればいいんだ?」

「ミカの手のひらに手をのせるだけでいいよ」といってミカは小さくて柔らかそうな手を彼にさしのべた。


 彼はいわれるがまま、ミカの手に自分の手を重ねた。神さまには普通に体温があった。このとき彼は、ミカも生きてることに気がついた。


 ミカと彼が手をつないだその瞬間、二人の手と手から淡い光が漏れだしていく。それは少しずつ大きくなって、やがて二人を包むくらいの大きさに変貌する。


「いくよ」


 ミカは優しくそういった。そしてミカの握りしめる力が強くなり、二人の手と手は固く結ばれる。


 彼は浮遊感に支配された。そう思ったときには、彼はもうこの場にはいなかった。


 今日は晴天だった。

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