第7話 原告準備書面(2)

平成21年(ハ)第 **** 号 損害賠償請求事件

原 告  米 河  某

被 告  自称 中松某



            原 告 準 備 書 面(2)


 上記当事者間の頭書事件について、原告は、下記のとおり弁論を準備する。


                          平成22年 1月20日


岡山簡易裁判所 民事X係 御中



                     当事者記載及び送達先は略



          第一 被告提出答弁書に対する認否等


1 被告提出の答弁書によれば、被告が名誉毀損をした事実はないと主張し、あわせて原告に対し「求釈明」を求めている。

 しかし、原告は平成21年12月23日付にて請求の趣旨拡張の申立(1)とともに原告準備書面(1)を提出し、すでに被告の求釈明のうち1 については被告の言動につき主張をしている。さらに、被告本人は同年12月29日付にて代理人らと本件訴訟に関する委任状を交わしている。

 よって、被告にあっては、当該準備書面に対する認否についてもなしうるだけの時間はあったはずである。被告にあっては、この期に及んで不毛な求釈明などせず、直ちに原告の主張に対し反論せよ。


2 また、被告は求釈明2 として、書込みの全文を示せと述べているが、原告は平成22年1月19日付にて原告ブログ上のコメント欄を復活させ、同時に被告の書込みをウェブサイト上に再掲載した。

 なお、被告の発言(甲第2号証-2)については、本件において必要な部分を抜き出し、ワード文書にて処理しているが、原告側で内容につき手を加えたわけではない。ウェブサイト上の文書が原本か否かは、原告は既に御庁に対し上申書にて、第一回口頭弁論時に御庁にて自己のノートパソコンを持参し、訴外株式会社イーモバイル社の提供するインターネット接続サービスを用いて当該文書の原本性を証明することを予告している(他の記事についても同じ)。

 もし、原告の主張やその他被告の主張が、被告側の主張の上で必要であるなら、被告より本件記事その他の書込みを乙号証証拠として提出し、原告に対し然るべき反論・主張をされたい。なお、本コメント欄は、掲載見合せの他、削除以外の手段による書込み内容の改変は不可能であることを付記しておく。


3 さらに被告は名誉毀損に絞って答弁書にて云々しているようであるが、侮辱もまた、民事上の不法行為を構成するものの一である。名誉毀損の要件に当てはまりさえしなければ、相手に何を述べても許されるというものではない。既に原告は、被告書込みの原告その他に対する侮辱に該当する部分、原告ブログ運営に対する一種の業務妨害に該当しうる部分についてもすでに提出済の原告準備書面(1)ないし(1の2)及び本書面にて陳述準備をしていることを付記しておく。



        第二 被告ブログ記事における新たな不法行為


1 原告が去る平成21年12月23日付にて御庁に提出した「請求の趣旨拡張の申立(1)」、「原告準備書面(1)」及び証拠一式の送達を受領したほぼ直後である平成21年12月29日18時16分40秒付にて、被告は新たに被告ブログ内において、甲第10号証記事(以下「本記事」)を執筆した。なお、その後被告は、同記事の歌詞全文につき、平成22年1月4日もしくは同5日未明の間に消去した(以上、原告準備書面(1の2)第二 1ないし 2の2 迄参照)。


2 本記事(以下、歌詞全文の削除前の記事のことを指すものとする)における被告の言辞において、Y君こと原告や被告ブログを読んでいる他者に対するメッセージの内容如何、被告の個々の表記云々については、大した問題ではない。


3 本記事における一番の問題は、被告が他者である仲山の作詞による同曲の歌詞すべてにわたり、音楽著作権者もしくはその著作権を管理する法人等の許可を得ることなしに、仮に得ていたとしてもその旨を一切明記せずに、被告をして自己のブログ内に余すところなく引用したことである。


4 もし被告がJASRACこと社団法人日本音楽著作権協会(以下「Jasrac」)をはじめとする著作権管理団体等を通して本記事における当該歌詞の全文につき引用許可を得ているのであれば、被告は本記事の歌詞全文を消去する必要もなかったし、また、引用許諾を示す記述を失念していればそれを当該記事に付記すればよかったはずである。しかし、当該引用許諾の表示がなく、しかも、突如として本件記事の歌詞部分を削除したということは、著作権者等に無断でおおむね7日間にわたり著作権法違反を犯す記事を掲載していたことが第三者をして強く推定されるものである。

 以下、被告が著作権者に無断で当該歌詞全文を本記事に掲載したことを前提に原告は陳述するものとする。


4の2 ちなみに、被告が同曲の歌詞を被告ブログに掲載していた時期は、12月29日から1月4日までの年末年始期間であるが、この時期はその故に、一部のサービス業をのぞき、社会全体の業務が大幅に停止する時期であることは公知の事実である。当然、著作権者や、JASRACをはじめとする著作権管理団体の業務についても例外ではない。その時期であることを奇貨として、被告が故意に同曲の全文引用をブログにて行っていたとすれば、きわめて悪質な著作権の侵害であると言わざるを得ない。仮にそうでなかったとしても、おおむね7日という長期間にわたって著作権を不当に侵害したわけである。

 なお、本件において、被告をして本記事における歌詞の全文掲載時期の長短及び主観、並びに既に当該歌詞を(誰にであれ指摘を受けたと受けないとに関わらず)削除したことは主争点足りえない瑣末事項である。いずれにしても、被告にあっては訴外仲山に対する著作権侵害の責を免れうるものではない。


5 アーティスト各位の著作権を管理している団体の一であるJASRACは、近年、かなり厳しく著作権管理をしており、それについてはさすがに権利の濫用ではないかと思われる事例も幾分見られないではない。

 もっとも、そう解釈すべき余地が出てくる事案というのは、あくまでも著作権法第32条の正当な引用として社会慣行上認められるべき要件を備えていることはもとより、JASRACが著作権侵害の損害に対しあまりに過大な請求を表現者に対し行ったと言いうる状況であることが前提である。


5の2 ところが本件において、被告は、同曲歌詞のすべてを余すところなく引用した。本記事は実質、仲山の作詞した曲が記事内容のすべてであるといっても過言ではない。かかる「引用」は、著作権法の解釈・運用云々の問題以前の行為であり、社会慣行上許容される範囲をはるかに超えている。その点において本記事における被告の同曲歌詞の紹介は、正当な引用として許容されるものとは到底認められるものではなく、訴外JASRACをして、あるいは作詞者である訴外仲山をして、被告またはその代理人より逆に権利の濫用を云々される余地はない。


5の3 仮にこれは被告から原告個人に向けたメッセージであり、著作権法上の私的利用に該当するものであり、なおかつ、掲載により金銭等対価を得たものではないと被告本人やその代理人が主張したとしても、本件記事はウェブログという公開性の高いツールを用いてなされたものであり、また、原告以外の第三者も現に閲覧していることを被告をして既に認識していることは、「皆さま」と本件記事に明記していることより、明白である。

 よって、かかる引用は、著作権法上認められた個人利用に因るもので、金銭等対価を得たものではない故に違法ではないとの主張は著作権侵害の違法性を阻却するものでは断じてない。


6 加えて被告は、同曲が仲山の作詞によるものであることを明記してはいるものの、その歌詞すべてを旧友=Y君こと原告に対し「自己の主張」として表現している以上、仲山の同曲歌詞はすべて、本件記事における限り、原告に対する被告の主張であると、原告はじめ閲覧した者としては思料せざるを得ない。


7 原告の調査によれば、本来同曲は、いわゆるリストラにあって会社を退職せざるを得なくなった者同士の状況下のことを想定して同曲の作詞に及んだものであると、仲山はマスコミ等様々な媒体にて語っているようである。


8 しかし本件については、既に係争を開始した民事訴訟の原告と被告という関係になっている者同士の話であり、これは仲山をして同曲の作詞に及んだ背景はもとより、同人をして歌曲として表現するにふさわしい状況下ではとうていない。


9 仮に上記6 を前提として本曲のメッセージがすべて被告より原告に対するものである考えると、被告は原告に対し、裁判を提起されたこの期に及んでもなお、「一杯飲んで機嫌を直せ」「一杯おごるから「乾杯しよう」」「一連の言動は悪気はない。水に流してくれ」とでも主張しているようにさえ思われる。

 だが、事態はもはや、かかるほどもおめでたい状況下になど決してない。

 なお、個々のフレーズが被告より原告に向けられたものだとするなら、それによる問題点も多々あるが、それはすべて、同曲の趣旨が本件の原告被告間の置かれた状況にまったく見合わないことに起因する。


10 かかる場面において、本曲を民事裁判の相手方となった、それも、名誉毀損等のかどで損害賠償請求訴訟を御庁に提起した原告に対するメッセージとして、他者に広く公開されているにもかかわらず、また、そうであることを重々認識しつつも(甲第10号証記事のほか、甲第7号証-2記事内における「なぜかオーディエンスが多い」との記述に被告ブログを他者が閲覧していることを認識していることがはっきりと伺われる記述がある)、被告ブログ内において他者の作詞による歌詞すべてを「自己のメッセージ」として披露に及んだ被告の一連の言動は著作権侵害の事例としても、きわめて悪質性の高いものである。


11 よって原告は、JASRACこと社団法人日本音楽著作権協会に対し、被告執筆の甲第10号証・本件記事につき通報し、民事訴訟法第53条に基づき、当事件につき訴訟告知をなす所存である。


12 最後に、原告の主観を述べておくが、被告の如き人物より、かかる歌曲を送られたところで、何のありがたみもない。

 むしろ、違法文書を送りつけられたとの印象しか持ちえず、ますます原告の心証を害して余りあるものである。

 原告にしてみれば、著作権法違反の片棒を無理矢理、否応なく被告より担がされているとの印象さえ持つものであり、迷惑千万以外の何物でもない。

  


        第四 本件記事に関わる一連の事実に対する総括


 ところで被告にあっては、O大学歯学部に入学する前に、T大学法学部に入学・卒業していて、司法試験の受験経験さえあると、原告はお聞きしている。

 それほどの人物が、なぜ、中学生の研修旅行における冊子の記事の如き稚拙な本記事を公にしたのか?

 中学生程度の年少者が自己のノートなどに歌謡曲の歌詞をそのまま写す行為は、それはむしろ文章を深く学ぶことの一助となることであり、大いに勧められて然るべきものである。しかし、歯科医院経営者で、なおかつ旧帝国大学の一にして戦前より法学課程を有しているT大学で法学を学んだ者である被告が、ブログ機能を利用して不特定多数の他者の既に見ている、また、見ることのできる公開の場所において記述して広く公開することを許容されるべき性質の行為ではない。

                                   以上

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