ブログ書込裁判 2009~2010

与方藤士朗

第1話 訴状

平成21年(ハ)第 **** 号 損害賠償等請求事件


                訴    状


                         平成21年12月 7日


岡山簡易裁判所 民事X係 御中


                  原 告 〒略

                  住 所 岡山市中央区北中町~

                  氏 名 米 河  某

                  被 告 〒略

                  住 所 S県S市~

                  氏 名 自称 中松 某


損害賠償請求事件

 訴訟物価代金 金 300,000円

 貼用印紙額  金    3,000円


               第一 請 求 の 趣 旨


1 被告は原告に対し、金30万円及びこれに対する平成21年5月6日から支払済まで年5%の利息を合算した金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。



             第二 請求の原因たる事実


1 被告中松某(以下「被告」)は、O大学歯学部卒業後、頭書住所に居住し、「****歯科医院」という屋号のもと歯科医院を経営する者である。

 原告米河某(以下「原告」)は、O大学法学部に昭和63年入学、平成5年卒業の者であり、頭書の住所に居住する者である。また、大学卒業後、主として学習塾・家庭教師等による受験・学習指導等に携わっている(なお、以上につき甲第1号証)。


2 原告は、株式会社サイバーエージェントの提供する役務であるアメーバブログ(以下「アメブロ」)を利用し、「やくも少年」と名乗り、自己のブログ(以下「当ブログ」、甲第2号証及び甲第5号証)を開設している。       

  * ブログアドレスは略

 当ブログは平成18年12月頃より開設しているものであるが、開設当初より平成21年5月下旬頃までコメント欄を設定していた(現在は閉鎖中)。

 被告は、「中松」というハンドルネームを用い、原告運営のブログへの書込を開設初期よりしばしば行っていた。被告は同学部在学中、原告が以前勤務していた岡山市の学習塾某に非常勤講師として原告と同時期に出講した経験があり、両者は各々面識のある人物同士であった。


2の2 しかし、ブログ上においてはもとより他の手段においても、被告は原告が身元を突き止めるまで自己の身元を原告に明かすことは一切しなかった。


3 被告は、平成21年5月6日(祝日)より翌7日(木)、原告が上記ブログにて以前居住していたO市立X小学校の学区に関する記事を記したことにかこつけ(甲第2号証他)、本件記事とは全く関係のない質問をした後、原告の出自等に関する名誉を毀損する書込を多数なし、もって、原告はもとより原告の亡父及び原告母の名誉を著しく毀損した(甲第2号証-2、なお、証拠文書中の下線及び太字等は筆者注)。 なお、当該書込みは、翌日の別記事まで続いた。


4 その後原告は、同年5月27日(水)、被告の書込対策としてコメント欄を閉鎖したが、被告はその前後より、今度は当該ブログへの書込み「だけ」を目的にアメブロを開設した(アドレスは略)。

 当初被告は、自己のブログへの記事は一切書かず、ひたすら原告の運営するブログのメッセージ欄に対し書込みを多数した(なお、書込み内容はメッセージが既に消去されているため再現不能)。

 なお、後に被告の書込み日時を精査したところ、平日の日中のような、おおよそ歯科医院の診察時間こそないものの、休憩時間や診察前の早朝の時間帯としか思えないような時間の書込みさえ散見された。

 そればかりか被告は「偽者に鉄槌を」という題を自己のブログにつけていたが、これは、他に被告のブログの存在を知る者が原告以外にないことが容易に推測できる状況にあった故、実質原告に対するメッセージであるとみなさざるを得なかった(後に題名は変更された)。


5 原告は被告に対する更なる対策として、メッセージ欄を通して関与禁止の通告を同年9月23日付で発信した(既に消去されたため再現不能)。また、被告に対する警告記事を再三にわたり自己のブログ上に掲載したが、同人はアメブロのプレゼント欄を利用して謝罪のようなことをなし、その謝罪文と思しき文面上に「退会処理をした」旨の記述をしていたものの、後の調査において、それは虚偽であったことが判明した。

 なお、その後の謝罪記事及び原告に対する機嫌伺いと取れるメッセージは、それらの記事を送付する目的だけのために新たに開設されたブログであった。


6 上記5の事実を原告が自己のブログ記事上においてその旨を記したところ被告は、突如として当該ブログへの書込みを始め、さらには、原告に対して「手紙」「追伸」と称してメッセージを発信したが(削除済)、それには、原告の名誉を毀損したことに対する反省の意思や社会福祉に対する理解、弱者に対する思いやりといったものはかけらも見られず、むしろ、原告の「心の傷」の問題として矮小化した=公共の問題になすべきものを個人の問題にすりかえただけのもので、さらには、自らの身元を名乗っていないにも関らず、

「岡山に伺った際には、一杯おごらせてもらいます」

という旨の記述さえなしていた。


7 その後しばらくの間膠着状態が続いたが、同年11月7日(土)、原告が自己のブログ上に設置している発信先都道府県の特定できる機能(ジオターゲティング)にS県からのアクセスが不自然に多いことをかねてより疑問視していたところ、被告の同年5月の書込み時のIPアドレスの発信先を複数媒体を用いて調査し、さらに過去のコメント欄における同人の書込み内容を精査したところ、中松を名乗る人物による一連の書込みの正体は被告ではないかとの心証が形成されるに至った。

 そこで、原告が同年同月同日21時57分、自己の所有する携帯電話より被告宅の固定電話に架電し、応対した同人に原告のブログの件をそれとなく問いただしたところ、被告は一連の書込みが自身の手によるものであると認めた。

 そのとき同人には一連の書込みにおいて原告を激怒させたことに対する遺憾の意に相当する言は見られないわけではなかった。さらに、謝罪の一環としてか、エビスビール2ダースを当方に後ほど送付してきた(甲第1号証)。


8 原告としては対応に苦慮するところであったが、かかる精神的苦痛はそのようなもので慰謝されるものではないとの結論に達したため、平成21年11月30日、被告に対し内容証明郵便を用いて裁判外和解の申入れをした(甲第3号証)。これに対し被告は自己のブログ上の記事利用して、その和解案を拒否した(甲第4号証)。


9 そればかりか被告は、原告が自己のブログに書き込んだ記事を暇に任せてか読み続けているばかりにとどまらず、自己のブログを原告がチェックしていることを知っていることを奇貨としてか、12月5日付の原告のブログ上の記事に対し、自己のブログ上にて性懲りもなく原告へのメッセージであることが明白な記事を書き連ねている(甲第5号証-2)。



       第三 請求の原因たる事実に対する原告の主張


1 被告はインターネットの匿名性を奇貨として、「中松」たるハンドルネームを利用して原告の運営するブログに書込みをしていたが、そのこと自体とやかく言うことではない。しかし、甲第2号証-2における一連の書込み記事は明らかに、本記事とは関係なきものと言わざるを得ない。

 確かに、O市立X小学校の学区内に原告の在籍した児童養護施設が過去に存在したことは事実であり、そのことを現に本記事において指摘もしているのだが、本件記事は原告の成育歴とはさして関係のないものであり、そのようなデリケートな問題を公開のコメント欄において行ったことについては、いかに原告がそれに対して反応したとはいえ、被告の一連の言動は、不穏当なものと言わざるを得ない。


2 被告は、上記書込みをはじめとする一連の「中松」としての言動につき、「行き違いのようなものが云々」と、かかる書込みが勢いのもと行われたかの旨の釈明を上記第二 1 7 における架電時に原告に対してなした。同時に被告は、かかる一連の主張は自己のものであると原告の前ではっきりと明言した。

 これは、被告が甲第2号証-2で挙げた自己の記述が、「中松」というブログキャラだけでなく、被告本人の社会福祉、とりわけ児童福祉全般に対する見解であると自白したものとみなさざるを得ない。かかる言動はおおよそ歯科医師という立場に立つ者として公の場において行うべきものではないばかりか、他者のブログに立ち入って書き連ねるべきものでは断じてない。

 

3 本件において被告は、原告に対し、謝罪と思しき言葉は連ねており、原告に対し謝罪の意を込めてか、ビール2ダースほどを数日後贈ってきたものの、上記2 において述べたとおり、書込みは自己の主張であると自白さえしており、自己の主張に対する反省の念はまったく見受けられない(甲第5号証)。

    


                第四 結   語


1 被告は歯科医師にして医院経営者という立場にあるにもかかわらず、旧知の者である原告のブログに匿名という卑劣な形において原告を不快にさせる言辞を散々なした。そればかりか、関与を原告が禁じた現在においてさえ、自己のブログを活用して原告にしつこくメッセージを送り続けている。さらに、被告は自己の言動が公共の問題であるという認識は全くないばかりか、他者の名誉を毀損した事実に対する反省の色は全くなく、「意見の違い」と居直ってさえいる(甲第4号証)。


2 一連の被告による書込みによって生じた原告の苦痛は金200万円を下るものではないが、原告は、そのうちの30万円について被告に請求すべく、本件訴訟に及んだものである。


3 なお、本件訴訟は不法行為に対する慰謝料請求である。被害者である原告が居住するのは岡山県岡山市であるため、民事訴訟法第5条第9項に基づき、同県同市を管轄する岡山簡易裁判所に対し本件訴訟を提起するものである。


4 本件における被告の一連の書込みは、単に原告個人の問題ではない。児童養護施設に携わるすべての者、過去に在籍した者、現在在籍している者に対する愚弄嘲笑であり、決して社会的に看過できるものではない。

 被告はこれを「あくまで個人に対するメッセージであり、行間を読めば決して他者をけなしているわけではない」などと主張をなすかもしれないが、かかる文面からそのような反論をなせる余地はない。


5 よって原告は、被告の一連の主張を広く公共の問題として捉え、今後とも児童福祉に対する理解不足の一例として広く社会に問いかけていくための反面教師としてとことん利用させていただく所存である。

 なお、本件書込みがなされた原告のブログは、原告の実物を知る者と知らない者とを問わず不特定多数の者が閲覧しており、公然性のあることは論を待たない。



                第五 証 拠 の 方 法


 別紙証拠説明書のとおり。


                                 以上

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