優しい天使は悪魔にかわる

@tomiusagi-momo

第1話

 私たちには、天使か悪魔のどちらかが憑いており、それぞれ本人にしか見えないという…因みに私は悪魔が見える。

 ある学者が言った。人には1体ずつ天使と悪魔がいて、見えるのはどちらか1体であり、他人のそれは見えない。自身に見えているそれは自分の道標であり、自身の悪行の表れだと。天使が見えている場合は善人で、天使は未来への幸運に手を差し伸べる。悪魔が見えている場合は悪人で、悪魔の囁きにより悪い行いをするものが多く、犯罪に手を染める者は悪魔が見えているのだと。

 学者は有名な人物だったようで、その発言はTVや新聞で取り上げられた。今まで自分にしか見えていない幻覚だと思っていた人が、学者の発言により騒ぎ始めた。

 世間は暫く天使と悪魔の話題で持ち切りだった。街中で取材された人達は「まさか自分以外の人にも見えていたなんて」「天使が見えているから自分は善人なんだ」「自分は悪魔が見えるんだがいつか罪を犯すんじゃないか」など驚く人、威張る人、少数だが不安がる人ばかりだった。

 取材で悪魔が見えると発言した人はSNSなどで批判され、そのことがニュースになったりもしていた。そのせいで自ら悪魔が見えると言う人はいなくなり、誰もが天使が見えると発言するようになったのだった。

 学者による天使と悪魔の話題は、一時的なものに過ぎなかった。

 自分に悪魔が見えている場合はどうしたら良いのかなんていう疑問には、誰も触れなかった。

 私には、悪魔が見えている。誰にも話したことのないこの存在は、どうしたら消えてくれるのだろうか。

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