創造主たちと神々の争い

京高

創造主たちと神々の争い

「ダイトーリョー!ヘンタイ、じゃなかった。タイヘンでごんす!」


 複数の人影が円卓を囲むその部屋に、ドタドタと大きな音を立てながら一人の男が飛び込んでくる。


「何事だべ!?」


「クァンサイ帝国に潜入しているニンジャー部隊の一人から『スーパー・スッゴク・ランボー兵器』、通称『SSR』に指定されている兵器を大量に発見したということでごんす!」


「それは本当なりか!?」


「別の者からは、すでに我がカントゥー共和国に向けて発射準備が整っているとの情報も上がっているでごんす!」


「おのれ、クァンサイめ!和平条約を結ぼうなどと言いながら、裏では『SSR』の開発を進めていたとはだべ!」


「しかも発射準備までしているなり!?」


 次々と報告される危機的な状況に、集まっていた者たちは怒りを露わにしたり、苦々しい表情を浮かべたりしていた。


「ダイトーリョー!もはや一刻の猶予もないだべ!こちらもこっそりちゃっかり開発していた『SSR』を、やられる前にクァンサイに撃ち込むべきだべ!」


「そうでごんす!我々が生き残るためには、それしかないでごんす!」


「分かったじゃん!こうなればもう、やるしかないじゃん!」


 こうして、数十年ぶりの和平交渉に向けての会議は中止されることになった。


 彼らは知らない。世界を二分しているもう一つの大国でも、ほぼ同じやり取りがなされていたことに。


 そして……、


「「ポチっとな!」」


 世界は消滅した。






◇■〇△ ◇■〇△ ◇■〇△ ◇■〇△ ◇■〇△






「だーーーー!!「ポチっとな」じゃ、ねえええええええ!!!!」


 その様子を見ていた四つの中の一体が、怒り心頭といった調子で叫んでいる。


「……残存知的生命体、ゼロ。その他の生命体、単純生物まで含めて生存情報なし。よってこの世界『A-おr899754』の消滅を認定する」


 その隣で淡々と世界の終わりゲームオーバーを告げる一体。


「まあ、生物どころか世界そのものが吹っ飛びましたからねー。近年まれに見る豪快な消滅っぷりでしたよー」


 更に別の一体は面白いものが見られたとニコニコ顔である。


「……高次元存在への進化どころか、確認すらできていなかった世界だからそれも当然」


「あれー?ですがあなたの作った前回の世界『C-おr899753』は、その高次元への進化が元で滅んだのだったような……?」


 その世界では、ある人物が高次元への進化の切欠を求めて数々の禁断の技に手を出したことで様々な勢力と敵対し、やがては世界戦争へと突き進んでしまったのだった。


「……少し急ぎ過ぎていただけ。時間さえかけて進化していれば、いずれは私たちに次ぐ存在にも至れたはず」


「はんっ!その結果が今回の集団引きこもりとは、ざまあないな!」


 進化の切欠探しを内向きに求めさせたがゆえに、当時頂点に立っていた種は生存するための生産活動まで停止してしまう。


 その後に代替わりが行われたものの、極端にバランスを崩した世界は立て直しを図る事もできずに脆くも崩れ去ってしまったのだった。


「……毎回同じパターンで世界崩壊を迎えさせている単純に言われる筋合いはない」


「なんだと、コラ!」


「まあまあ。私は好きですけどねー。あの終末の迎え方」


 睨み合う二体の間に割って入ったそれは、相変わらずの微笑みを浮かべていた。


「あまり聞きたくはないが、その理由は?」


「だって、花火みたいで綺麗じゃないですかー」


「……やっぱり碌な理由じゃなかった」


「終末の刻ときこそ最も美しい瞬間だと思うんですけどねー」


 どうして分かってもらえないんだろう、口ではそう言いながらも、気にした様子は見られない。諦めているというよりも、理解されないことを喜んでいるようにも見受けられた。


 余談だが終末の美学を語る割に、その一体が作り出す世界では意地汚く見える程、生に執着している存在が多いという側面があった。


 そしてそれが続く限り、それの意見に賛同者が現れることはないだろう。


「さてと、敗者の皆様方。その辺りで傷の舐め合いは済んだかしら?」


 残る最後の一体から嘲笑じみた言葉を浴びせられて、やいのやいのと騒いでいた三体は押し黙ってしまった。


 その間には、勝者と敗者という歴然とした、しかし絶対に超えることのできない差があった。


 なぜなら、最後の一体の横にはそれが作り出した世界が未だ潰ついえることなく残っていたからである。


 もっとも、こちらは各地で異常気象が頻発しており、途切れることなく度重なるように発生する災害を受けて、生物たちはもはや虫の息という有り様となってはいたのだが。


「ちっ!しょせんは運よく生き残っていただけじゃねえか」


 後少しで勝利に手が届きそうだったこともあってか、つい先程自身の世界を消滅させてしまった一人が忌々しそうに吐き捨てる。


「それでも勝ちは勝ちでしょう。そう言ったのは確かあなたではなかったかしら?」


「正解。三億飛んで二百七十七回目の勝負の後に言った。勝ったからってかなり調子に乗っていた。ムカつく」


「うぐ……!?」


 が、すぐさま反撃されて沈黙することになってしまう。


 仲間内からは単純だの単細胞だの脳筋だのと散々に言われているそれだったが、さすがに過去に自分が発した言葉は忘れてはいなかったようである。


「だけど、今から思えばあの時ほどの接戦はなかった」


「そうでしたねー。百年足らずの差しかなかったのはあの時だけでしたから」


 勝者である一位の者と最下位の者との間には、大抵は良くても万単位の年月がその差となって現れていたからである。


 酷い時ともなると、億の単位すら超えて兆単位で差がつくことすらあった。


「誰かの余計な茶々のお陰ですっかり話がそれてしまったわね」


 勝者の皮肉めいた言い回しに苛立ちを覚えるも、同じことの繰り返しになると察して口出しは控える敗者一同であった。


「それでは勝者の権利を行使させてもらうわ。……と、言いたいところだけれど、いい加減特別な縛りをすることにも飽きてきたのよね。かと言って有利な条件を設定すれば勝負にすらならないし……」


 せっかくの勝者の権利なのだからと自らが得意な方向で条件を付けてしまうと、一方的な展開となってしまうのだ。


 これは想像や推測ではなく実体験に基づく事柄であったため、誰も反対をすることはなかった。


 いくら何度でも繰り返し挑戦できるとしても、一万回連続で勝利されるという面白くない展開を再び発生させるような真似はしたくはない。


「おいおい。まさかペナルティを復活させようって言い出すんじゃないだろうな?」


 その一言に場に緊張が走る。敗者へのペナルティはそれら自身の喧嘩に発展しそうだったために、一度は導入されたもののすぐに廃止となり、以降『触れてはいけない禁断の手』扱いされていたためである。


「それこそ本当にまさか、よ。あなたたちと本気で喧嘩なんかすれば、どうなるか分かったものではないもの。まあ、負けはしないだろうけれどね」


「なんだと、こら!やるってんならいつでも受けて立つぞ!」


「これだから脳筋は。すぐに安っぽい挑発に乗る。やるなら私に迷惑にならない他所でやって」


「私も御免ですねー。作った世界が滅びるくらいならともかく、自分が痛い思いをするような真似はしたくありませんからー」


 付け加えられた一言に激昂して立ち上がった一体に、残る者たちが冷ややかな眼差しを向ける。


「ふふふ。私もそんなことをするつもりはないから安心してちょうだい。それに、最初に言ったでしょう、「どうなるか分かったものではない」と。これは紛れもない本音よ」


「ちっ!だったら余計なことを言うんじゃねえ」


 勝者の一体からも事態を沈静化させるような言葉が発せられたことで、激高していたそれも悪態を吐きならも席へと着くことにしたのだった。


「ところで、勝者の権利はどうしますかー?」


「それが悩みどころなのよね」


 そう言って本気で悩み始める。


 それもそのはずで、それらがこれまでに行ってきた勝負の回数は、いわゆる天文学的な数字となっていたからだ。


 あの手この手でバランス調整を行ってはきたが、そろそろお互いの手の打ち方や性格、思考などが分かってしまい、勝負としての面白さが薄れてきつつあったのだった。

 それに加えて、


「そろそろ外から見ているだけというのも飽きてきたわ」


 毎回自分たちが手ずから創り出し、時には陰から導くこともあった世界だが、やはり見ているだけでは物足りなくなってきていた。


「そんなこと言っても、俺たちが暴れ回ることができるような世界なんて創ることができないだろうが」


 創造の力という類いまれのない能力をもってしても、創造主である自らを越えるようなことはできないのである。


「それに、それぞれがそれぞれの創った世界に入り込むとなると、客観性がなくなるから不正し放題になる」


「ではー、私たち全員で一つの世界を創り上げるというのはどうでしょう。その上で極限まで力を抑えてやれば、私たちでもその中でそれなりに活躍することができるのではないでしょうか」


 一体の提案に残りの三体が目を輝かせ始める。


「力を抑えなくちゃならんところに不満はあるが、面白そうではあるな」


「なかなか興味深い。内側からだとまた違ったものが見えるかもしれない」


「そうね。私たちも好きに動き回れるってところが気に入ったわ」


 こうして四体合同の新たな世界が創り上げられた。


 創造主たちは意識と世界を壊さないよう極限まで小さく切り詰めた能力だけを持って新たな世界へと入り込むと、時に表立ってぶつかり合い、時に暗躍し合っては、己とその配下の被造物の優劣を競い合うのだった。






◇■〇△ ◇■〇△ ◇■〇△ ◇■〇△ ◇■〇△






 そして、創造主たちでさえ気の遠くなるほどの時間が流れた。


 世界は三度の生命消滅の危機を迎え、八回までもの文明の消失を経験しながらも、奇跡的に存在を続けていた。


 ある日、周囲には何もない荒れ地で久方ぶりに創造主四体が顔を合わせていた。


「ここまでの戦績は全員が二勝ずつか。横並びになっちまったな」


 そう。直接的か間接的かの違いはあれど、八回の文明消失は全て創造主たちの競争が原因となって引き起こされた事だったのである。


「造ることができるものが弱過ぎ。全員で世界を創ったから、生き物を造るのにも制限が掛かってる」


「そうですねー。思っていた以上に思ったよりも使い物にならない手駒が多かったですねー」


「あら、そういう制限があるから面白いんじゃない」


「チッ!そう言いながら手前てめえは、制限の隙間をかいくぐったようなもんばっかり造り出しているじゃねえか」


「だから、そういう粗探しをするのが楽しいのよ」


 毎度ルール違反ギリギリのグレーゾーンを狙ってくるようなやり方をする一体に、別の一体が苦言と文句を叩きつけるも、どこ吹く風という様相でかわされてしまう。


 もっともこのやり取り自体、それぞれが世界を創って競走させていた頃からそれこそ飽きるほど何度も行われていたものだったため、残る二体は我関せずという態度を貫いていた。


「ですが、この世界での競争にも少し飽きてきましたねー」


「本来の一欠片も力を持っていない状態だから、少しの進化にも膨大な時間が必要になる」


 結果、わずか八度の競い合いをしただけにもかかわらず、この世界に降りてくるまでに近しいだけの時間が流れていた。


「そろそろ潮時かも知れないわね」


 一体の言葉に残る三体が頷く。


 これまでとは違った楽しみ方ができたのは僥倖だったが、そのために掛かる手間暇には全員が辟易していたのである。


「なら、次を最後の一勝負にして――」


『そうはさせません』


 突如、四体の会話に割り込む者が現れた。それだけではない。何かに絡め取られ、縛り上げられたかのように身体の自由が利かなくなっていた。


 想像主たる自分たちが、である。いくら極限まで力を切り詰めていたとしてもあり得ないはずのことに、四体はひたすらに混乱し驚愕していた。


 その間に周囲に三桁に迫ろうとする人型が現れていた。


「何者!?」


「私たちをこの世界の創造主と知っての狼藉ですかー!?」


『我らは神。この世界の意思が体現したもの』


 人型の一つが発した言葉に顔をしかめる四体。


「まさかこの世界が管理者を産み出せるほど成熟してたとはね」


「くそっ!俺たちがいるから、世界そのものの進化は抑制されていると思っていたぜ」


「逆に私たちの影響を受けて成長が加速されたとも考えられますねー。これは盲点でした」


「重要なのはそこじゃない。本来なら管理者程度が創造主を止めることなんてできないし、思いつきもしないはず。私たちに弓引くような愚かな進化や成長が起きたことの方が大問題」


 忌々しいという感情を隠そうともしないで、一体が目の前の人型を睨みつける。


 が、いつまで経っても何も起きないことに、徐々に顔を青ざめさせていく。


「何故?排除できない!?」


「なんだと!?」


 ここに至ってようやく創造主たちが慌て始める。


 身動きできなくされたのはあくまでも油断して奇襲を受けたからであり、本気になれば拘束を解いて蹴散らすことなど造作もないことだと、頭のどこかではそう楽観視していたからだ。


『あなたたちは確かに創造主です。しかし同時に、この世界の物を口にして取り込んだことで、この世界の中に存在するものと定義づけられ、支配を受ける存在になり果てていたのですよ』


 血の気を失った創造主たちの顔は、もはや青いを通り越して真っ白になっていた。


 その体の反応こそが、人型の告げた言葉を如実に肯定しているということにも気が付かないまま。


「お、俺たちをどうするつもりだ!?」


『二度と世界を創り出すことなどできないように、そして二度とこの世界を弄ぶことがないように封印を施します。永い時の果てに世界へと吸収されていく事になるでしょう』


「い、いや!こんな所で消えたくな――」


 聞く耳持たぬと言わんばかりに、悲鳴じみた叫び声を上げる一体を彫像のように封印してみせる人型たち。


「は、話し合いましょう。そうすればきっと――」


「ふざけるな!お前たちごときに――」


 次々に封印が施されていく。


「……覚えておくがいい。お前たちの思惑とは反対に、いつかきっと私たちはこの世界を喰らってみせる」


 その言葉を最後に、創造主たちの意識は消え失せた。


『……肝に銘じておきましょう。ですが、そうなったところであなたたちがこの世界から離れることはできません。そしていずれ来る世界の終末の刻、その時こそ真の消滅の瞬間となるでしょう。創造主として永遠に存在し続けるはずだったあなたたちに、果たしてその事実を耐えることができますか?』


 挑発じみた台詞を残して、人型たちがこの場から離れて行く。


 これからは彼らがこの世界をけん引していかなくてはならない。やらなくてはいけないことは山ほどあるのだ。


 そして……、世界の内側を舞台に、創造主と神々の戦いは始まったばかり。



終わり






◇■〇△ ◇■〇△ ◇■〇△ ◇■〇△ ◇■〇△






〇蛇足


 一方、残された創造主たちの本来の身体もまた、新たな世界の苗床となっていった。


 ある一体の身体は混沌へと変じ、そこから大地を始めとした世界を構成するものたちが生じていった。


 別の一体は三百六十五日をかけて天地とその間にある万物へと化していく。


 また別の一体は自身を模したのか万能の唯一神へと転じて世界を七日で創造した。


 最後の一体は巨人となり、その死体が世界の礎となる。


 こうして生まれた四つの世界だったが、世話をする者もなければ管理する者もいない。


 いつしか混ざり合って一つの大きな世界へと生まれ変わっていった。


 しかし元々が競い合っていた創造主たちの身体である。


 諍いが生まれ、争いを始めるのは自明の理だった。


 その世界は後に、『地球』と呼ばれるようになる。


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