朝陰君は呪われている!
詩村巴瑠
第1話 猫は誘う縁のもとへ
桜が散り始めた頃、クラスに転校生はやってきた。
「矢野城町から来ました
堂々とした、それでいてどこか影のある雰囲気を
桐山には霊感がある。とはいっても、日常でしょっちゅう霊を見ているわけではない。心霊スポットや事故現場などで霊が見える程度だ。彼らはこっちを見てくるだけで近づいてきたりはしてこない。だから、桐山が霊感によって不都合を感じることはあまりなかった。
「桐山、帰ろーぜ!」
「あ、すまん。今日体育委員の係あるから先帰っといて。」
ホームルームを終えて、声をかけてくれた友人を帰らせて鞄を背負ってグラウンドに行く。グラウンドの横にある体育倉庫を放課後に整理整頓をするのが体育委員の仕事だった。
みゃぁあん。体育倉庫の扉を開けると声がして、桐山はびくりと肩を揺らす。黒い猫が積まれたマットの上に我が物顔で座っていた。こんなところに猫がいるなんて。あれ、この倉庫、俺が今開けるまで鍵閉まってたはずだよなぁ。黒猫の尾が分かれているのを見て、桐山ははっとした。みゃあ。もう一声、猫は鳴く。緑の瞳がまっすぐこっちを見つめてくる。
次の瞬間、猫はマットから飛び降りた。そのまま、倉庫から出ていこうとする。
「そこにいたんですね。」
倉庫の近くで声がして、桐山は倉庫の中から外を覗いた。声の主は、例の転校生、朝陰だった。屈んだ彼の足元にはじゃれるように黒猫が纏わりついている。
「誰ですか。」
桐山の視線を感じたのか、朝陰は視線を倉庫のほうへ向ける。反射的に奥の方に隠れた後、桐山は少し
「それって、お前の猫?」
「僕の猫ではないですね。あれ、君この猫が見えるんですね。何もない虚空に話しかけている変な奴って思われたってどうやって弁解しようか考えてたんですけど。」
その必要がなくなりました、と清々しい笑顔を見せて、朝陰は言う。
「今日、自己紹介した後にもいただろ?」
「あの時も見てたんですか?気づきませんでした。本当に僕の猫ではないですよ。昨日からなんか
「猫に懐かれることが?」
朝陰は静かに首を振った。
「いえ、魑魅魍魎の類に。」
彼の手は、黒猫の頭を優しく撫でた。撫でられた猫は、その手にうっとりとしたように頭を擦り付けている。しかし、桐山は見てしまった。その仕草とは裏腹に、朝陰を映す猫の瞳は、獲物を前にした時のように鋭くぎらついているのを。
「僕は呪われているんです。」
風が吹いて、地面に落ちた桜の花びらが舞い上がる。さらり、と揺れた前髪に隠れた朝陰の瞳は、静かに凪いでいて少し不気味さを感じた。
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