第15話 思い込み
interlude
実は、私は今日達成したい目標のようなものがある。きっかけは昨日。
普段、普通の人からしてみれば大したことじゃない当たり前のことだけど、私には自分にもよくわからないけど何とも言えない不安みたいな思いがある。私もいつもなら簡単にできているような気はするけど今回はそのいつもと少し違う。今の私をきれい
に伝えられるほどの力を持っていない。だから難しく考えずとりあえず頑張ってみようと思う。
今日は6月2日、文化祭二日目である。
湧き上がる熱気、ほとばしる感情、響き渡るサウンド、交差する色とりどりの照明、そしてそれをまとめ上げる強烈な一体感。今オレはそのすべてを肌で感じ取っている。要約するとオレは体育館で軽音部たちによるライブを聴いている。まるで非日常だ。
とは言え、観客たちが盛り上がるなか、オレはその渦中にいるのではなく後ろのすみっこで眺めているだけなのだが。
昨日は三島と周れたものの、さすがに二日も付き合ってもらうのは悪い。加藤たちと回っていないということが分かれば三島のことだから誰かしら誘われたりしていることだろう。そんなわけでオレは一人でいても平気そうなライブ会場を運よく見つけることができたので今はここにいるってわけだ。
こういった空気感は意外と好きだったりするのだが、情けないオレにはその輪に積極的に入っていこうと思えるほどの自信はない。眺めているだけで十分というのは許してほしい。
「・・・にしても人が多いな」
思わず独り言を言ってしまうほどの多さ。あと数歩でも踏み出せばごった返して出れなくなってしまいそうだ。こうやって無秩序に整備されてない空間にちょっとした良さを感じる。ボッチにしてみれば苦しい環境だが、みんなの中にいると感じられる光景でもある。
人ごみに軽くつかれた俺は壁に寄りかかりのんびりステージを見る。必死な顔で叫ぶボーカルの表情が目に留まる。楽しそうだなぁ。というのがオレの最初の感想だ。何もすることなくだらだらと過ごすのも楽しが、何かに一生懸命になるのもまた違った楽しさがある。まあ、今の生活に不満があるわけではないのだが。隣の芝生は青く見えるだけなのかもしれない。
そのまましばらく壁に寄りかかって過ごしているとスッ、スッ、と裾を引っ張られる。なんだろうと振り向くと驚くことに三島がいた。しかも不機嫌そうにムッとしている。
「どうしたんだ?」
「なんでどっか行っちゃうの」
「ん?悪い。なんかオレに用か?シフトはまだだったはずだし」
「なんでそうゆうことになっちゃうの」
「・・・んんん?話が全く見えてこないんだが」
これ、数々の男子を苦しめてきたいわゆる「私がどうして起こってるかわかる?」問題だよな。まったくわからないんだが。オレはどうすればいいんだ。とりあえず謝る以外に選択肢が見つからないのだが。
オレはんん!とにらみつけてくる三島を前に、んん?と首を傾げ懸命に糸口を探しているオレ。
「すまん。考えてみたが全くわからない」
そんなオレの答えを聞いた三島は不満たっぷりに眉間にしわを寄せ、
「・・・約束。昨日またねって言ったじゃん」
「ああ、たしか言ったなそんなこと。でもそれがどう・・・あ、」
オレは言いながら考えをめぐらすとある一つの推察が導き出された。ほんとですかそれ。これで間違ってたらめっちゃ恥ずかしいんですけどオレ。
「たしか言ったなってそんな適当にしか覚えてないの?もう。普通昨日一緒に周ったなら今日も一緒に周ろうと思ってるに決まってるじゃん」
「あー、たしかに。言われてみればたしかに。たしかに。」
うんうんとうなずきながら反省をするオレ。高校ボッチがデフォルト過ぎて全く気付かなかった。言われてみればぐうの音も出ないほど当たり前のことだ。
なんでわからないかなぁ、と小声でこぼした愚痴は音楽にかき消されてオレには聞こえなかった。
「・・・それで浅間くんはどうなの」
そんなの底辺人種のオレが断れるわけがない。むしろ土下座でもして頼みたいくらいだ。
「むしろオレの方からお願いします。今日も一緒に周っていただけないでしょうか」
オレは深々とお辞儀をする。土下座は状況的に無理でした。すいません。
「えっ、あっ、そんなにならなくても・・・うん。こちらこそ」
オレの行動が予想外だったのかおろおろとする三島。ううっ、申し訳ねぇ。そして三島いい子!
「んふふ。やっぱりなんか変だよね!浅間くんって」
突然上機嫌になった三島が嬉しそうにオレをからかう。
「えぇ・・・またその話するのか。ご容赦を・・・」
オレのお辞儀がそんなにうれしかったのか、結局のところ三島が上機嫌になった理由はよくわからないが、今日も誰かと文化祭を周れることになったのはとてもありがたい。
そんなこんなでオレたちはライブを少し後ろから楽しむのだった。
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