第12話 お誘い2
「あっ!いたいた~!」
校舎本館から出て外のブースを適当に回ろうとしていたオレたちを誰かが陽気な声で呼び止める。二人で声のする方を見てみると、
「いやぁ~探しましたよ。三島さん」
「あっ!さっきの!」
そう言って手を振りながら小走りに少女が近づいてくる。それに三島が反応し・・・オレもようやく理解が追い付く。
「仮装大会の司会の人ですよね。お世話になりました。えっと、私に何か?」
軽く会釈をする三島。呼び止められたのはオレたちではなく三島だけだったね。
「結構探したんだけどな。こんな近くにいたとは。灯台下暗しってやつなのかな?」
三島を見つけたうれしさのあまりハイテンションで話す司会さん。結果三島の話を聞いてない。
黒縁メガネにショートボブの司会さん。おそらく上級生だろう。学年まではわからないが。
「さっきまで着替えてたんですよ。余計な手間をかけちゃいましたね。すいません。・・・で、私に何か?」
「うんうん。やっぱ三島さんだねぇ。えっと、私が三島さんを探してたのは優勝商品を渡すためなんですよ!」
司会さんはビシッと人差し指を立て腕を突き出す。敬語で話す三島だが、その口調はどこか砕けたもので対等な関係のように感じられる。
「えっ⁉そんなのもらえるんですか!」
目を輝かせる三島。
「もちろん。ということでこっちに来てください!豪華ですよ~」
手招きに誘われて司会さんの後をついていく。
「はい。こちらでーす」
司会さんが両手で示した先にはおしゃれな紙袋があった。なんか馬鹿でかいけど何が入ってんだ?
「優勝賞品はコスメセットですね。優勝者なら絶対にかっこいいかかわいいはず!ということでどんどんおしゃれになってください」
「おお!こんなにいっぱいもらっちゃっていいんですか?」
「もちろん。優勝者の特権ね」
「ありがとうございます!」
目をキラキラと輝かせてお礼を言うと早速中身を確認しだす三島。女の子がもらったらうれしいけどこれ男子がもらってもあんまうれしくないよな。コスメ男子とか超希少種だろ。ていうか優勝賞品の裏が企画者たちの私利私欲にまみれている。
一歩距離を置いたところで待っていたオレのもとへ司会さんが寄ってくる。そして小声で、
「ねえねえ、三島さん可愛いですよね。彼氏さんはおしゃれとかしないんですか?」
「いやオレ彼氏じゃないですよ」
「えっ?違うの?」
「友達・・・のはずです」
最近は仲良くしてもらってるし友達って認識でいいよな?えっ?大丈夫だよね?
「ふーん。怪しいなぁ」
司会さんが疑うように目を細める。あっこれ変な誤解されたやつだ。
「最近仲良くしてもらい始めただけなんで。知り合いか友達かみたいなとこです」
「ほほーん。そういうことかぁ。頑張れよ少年」
「はあ」
今度は面白がるように目を細める。さらに変な誤解されたぞ。どうしてくれんだ3秒前のオレ。
「ならちゃんと釣り合うようにかっこよくならなきゃだめですよ?ワックスとか付けないんですか?ちょっと試してみます?」
「だからそういうのじゃないんで。まあでも中学の頃は普通にヘアセットしてましたね。一応付けたことはあります」
「中学生でって早いね。もしかして実はおしゃれさん?」
「それは知りませんけど」
そこまで聞くと一呼吸置いた後、三島に聞こえる声で司会さんがしゃべる。
「えっ⁉是非ヘアセット後を見てみたいですね!メンズワックス一緒に入ってるんで今から早速つけてきちゃいましょうよ!ね!三島さんも見たいでしょ?」
「うん。すごいみてみたい」
あーあ。余計なことしてくれたな司会さん。三島も乗り気になっちゃったよ。この先二度と会うことは無いと思って普通に話してたらこれだよ。なんてこったい。もう断れる雰囲気じゃないじゃん。
キャラが掴めないうちにあれこれ話すもんじゃないな。ちくせう。
オレは二人に促され紙袋の中から必要なものを取っていく。中身は小さな紙袋でさらに分けられており、男もの女もの関係なくたくさんのコスメグッズが入っていた。一目見るだけでとても豪華なことがわかる。ヘアセット系以外にもスキンケアなりメイク用品なりといろいろありすぎる。すげぇ…ていうかほんとに男女関係なく優勝者にコスメグッズあげるつもりだったんだな。
オレは別の紙袋に手早く詰めていく。たぶん関係ないものまではいっちゃってるけどどうせすぐまた戻すしいいか。
オレはヘアセットのためトイレに来ていた。
女子トイレは三島の情報通り混んでいるようだったが、逆に男子トイレはすいてるどころか誰もいなかった。誰かいるところでやるとか恥ずかしいから助かったね。
鏡の前でオレは持ってきたワックスを髪になじませていく。流石にドライヤーなどの電化製品は入っていなかったので今のまま進めていくしかない。気合いで何とかしよう。
でかい紙袋の中にはいくつもの種類のコスメが入っていたので昔使っていたやつをそのまま持ってきたため、下手にてこずることはないだろう。
よし、完成。右サイドをバックにしたダウンバングのアシメ。普段は髪に隠れて見えないこめかみ上部が色っぽく覗き、オレのまとう雰囲気に凛々しさが芽生え始める。
最後にあれこれと必要な作業を終わらせると鏡に映る自分を見ながら、よし、とうなずきトイレを後にする。
外を一人で歩いていると突然誰かに呼び止められる。
「あっ!久しぶり!」
そこには嬉しそうに手を振る懐かしい顔があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます