第195話 ユキ編4

「その彼女っていうのが、せつ様なんですか?」


「うん……杏樹さんが言ってたわ。もう一人のあたし」


 杏樹さんが言うにはね、ホスピリパの大爆発より前のあたしの身体には二つの魂があったって言うのよ。

 何のことだか全然分からないでしょ?

 でも、あたしの身体にいるもう一人のあたしのせいで、あたしは普通の生活を送れなかったって言われれば納得できた。

 それが何かのきっかけで分かれたみたい。

 でも、その姿はあたしそっくり。

 パパやママから聞かされていたあたしの能力、パペットはあたし自身が持っていたものじゃ無かったみたい。

 

「パペット? 能力者?」


「こっちの世界でも少なからず存在するみたいよ。魔法みたいにMPを使わない、各個人によって違う固有能力。ダリアお姉ちゃんは向こうの世界でも凄く有名でトラベラーっていう能力なの。どこでも行けるのよ。時間や場所なんて関係無しに」


「時間移動までできるんですか? 凄い……」


「もし、ダリアお姉ちゃんが目覚めていて、今もリュージと愛輝の手から逃げている最中だと思うと気が気でないの。それは杏樹さんも同じみたいで……」


「だから聖女様は探しに?」


「うん……お話、もう少し聞いてくれる?」


「もちろん」


 パペットの能力はセツのものだった。

 あたしが半年間以上、目を覚まさなかったのもそれが原因みたい。

 そりゃ、そうよね。

 もともと、身体の中に二つあったものが一つになっちゃったんだもの。

 彼女との出会いは最悪だったわ。

 北の砦が突破され、初めてローウェルグリン城にまで侵攻されて、杏樹さんとあたし以外の居住者はすべて彼女の人形となった。

 あ、パペットの能力ってね相手の意思関係無しに隷属させる精神系能力なの。

 パパに初めてそのことを聞かされた時は何のことか、まったく分からなかったけど、彼女と相対した時にその能力の怖さを初めて知ったわ。

 今まで良くしてくれたゴブリンさんやオークさんが、敵意を向けて襲ってくる……あんな目はもう二度と御免だわ。

 それに加えて、あの暑苦しい男たちの猛攻。

 ある日、杏樹さんが停戦を呼びかけたの。


「え……負けたのですか?」


「うん。まだ、そのころは誰の仕業か分からなかったからそれを知る必要があるって言ってたわ」


 杏樹さんと一緒にお城の牢屋に閉じ込められて、半日も経たなかったかな?

 彼女が目の前に現れたの。

 

『へっ! こいつぁ驚いたぜ。まさか、あたいがいるなんてな』


『あたしと……同じ姿?』


ゆきの中にいた、せつちゃんじゃ無いか! 久しぶり――!』


『ああ!? 誰だよ、てめえのことなんて知らねえぞ!』


『覚えていない……だとっ!? あんなに……あんなに一緒だったのに!』


『……そうか、そう言うことか。やっと分かったぜ、あのクソババアめ!』


『何を言ってるの? 貴女は誰なの! なんで、あたしと同じ姿をしているの!』


『知りてぇか? お前はあたいだ』


『えっ? 何を言って……あたしが……貴女?』


『ここから出してやれ! こいつと二人で話したい!』


せつちゃん! 私も後で二人っきりになりたいぞ! ペロペロしてあげるから!』


『……この変態はてめえの何だ?』


『本当に覚えていないのか……今はゆきの母親兼師匠をしている! どうだ!? せ、せつちゃんもいろいろと教えてあげるぞ! ベッドの上でも!』


『いらんわ!』

 

「……えっと、何だが聖女様って思っていた感じとかなり違いそうですね」


「ふふっ……うん。多分、凄く驚くと思うわ」


 それであたしとせつは別室でいろいろと話したの。

 彼女とあたしが別れたのは勇者の住む城の地下にある研究所。

 彼女の身体はあたしのクローンなの。

 

「クローン!? それって姫様のコピーってことですか?」


「知ってるの? 物知りね、ドレイク」


 あたしも最初は信じられなかったけれど、彼女の連れてきたダリアお姉ちゃんと見間違うほどのそっくりさんを20人も見せられたときは、さすがに信じるしか無かったわ。


「20人も同じ姿の人が……なんか、想像したら怖いなぁ」


「今もメイドとして各砦に配置しているのよ。これから向かう所にも3人ほどいたはず。見かけたら驚くほど似ているから、間違わないようにね」


「へぇ、それは人違いしそうで怖いですね」


「似ているのは姿だけだし、無感情無能力だから掃除や手入れを黙々としているだけだから気にしなくていいわよ」


 それで彼女とある約束をしたの。

 それを破らない以上、彼女はあたしたちに協力すると言ってくれたわ。

 

「約束?」


「うん、他人に話してはいけないも約束の一つだから言えないけどね」


「でも、協力するって唐突過ぎませんか?」


「彼女も嫌々、勇者軍に協力していたそうよ。でも、逆らうと強制停止させられるように作られているみたい」


「それなら簡単に裏切れないのでは?」


「彼女を小隊長にしたのが勇者軍にとっての失策だったと言えば良いのかな? 彼女に任された部隊の連中はすでに人形化していたみたいなの。あとは勇者軍を離れる機会を窺っていたみたいよ」


 彼女はあたしたちによって跡も残らない程、惨殺されたことになっているの。

 それで彼女が持っていた部隊の一部だけ勇者軍のところに帰らせ報告させた。

 こんなの上手くいくはず無いと思うでしょ?

 でも、それから三年経った今でも何も起きていないし上手くいったのかな?

 杏樹さんが言うには奴らは馬鹿だから気付いていないって言うのだけれどね。


「はは……確かにあの手下たちは馬鹿っぽい恰好してますね」


「うん、それに男だし」


「いや……それは関係無いかも」


「ま、そんな訳で今に至るの。お話聞いてくれてありがとね。やっぱり、話せる相手がいるとスッキリするわ」


「話し相手くらいなら、いつでも相手になりますよ」


「うん、ドレイク。頼りにしてる。それにソウジも……」


「Zzz……」


「すみません、弟が……」


「ふふっ……でも、お姉ちゃんの小さい頃の写真にそっくり。大きくなったらお姉ちゃんみたいになるのかな?」

「なってくれたら嬉しいですね。目の保養にもなるし……」


「もしかして、お姉ちゃんのクローンだったりしてね。あっ、砦が見えて来たわ」




 




 


 



 



 


 


 

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