第31話 リュージ編31

 よくよく見ると歩行者の多くはスマホらしきものを持っている。

 この町の中だけで利用できるものなのか?

 ドリアドの町や首都では見たこともないし、ユーナも俺のスマホを見たときにもの珍しそうにしていた。

 このスマホらしきものはどこかで購入できる可能性はありそうだ。

 スマホで情報取集ができるなら楽になるし。

 ちょうど、目の前で触っているこの美男子ヲタクに聞いてみるとするか。


「さて、リュージ殿! 吾輩、小腹がすいたのでミャックでハンバーガーでも食べようと考えているでござるが、一緒にどうでござるか?」


 ミャック? 

 ハンバーガーって言ってるし、店の名前だろうな。

 話もできるし、付き合ってもいいかな。


「わかりました。いいですよ」

「話が早くて助かるでござるよ。店でダリア嬢の素晴らしさをすべて伝授するでござる」


 いや、それはいらん。

 店に向かう途中で愛輝からダリアの話ばかりされた。

 まぁ、わかっていたけど。


「ここでござる」

「ミャクドナルド? どこかで聞いたことのあるような名前ですね」

「味もそっくりでござるよ! この世界にもあって助かったでござる!」


 味もそっくりなんだ。

 少し残念というか嬉しいというか複雑な気分だな。

 

「ささっ! リュージ殿も入るでござる」

「あ、はい」


 ここも自動ドアだ。

 この町はドリアドや首都に比べて全体的に現代っぽいよな。


「いらっしゃいませ――!」


 ふぁっ!?

 ユーナ? 

 奥では欽治がポテトを作っている。


「あれ、リュージじゃない。ちゃんと病院で寝ときなさいよね」

「お前こそ俺を置いて、こんな所で何をしてるんだよ」

「人手が足りないって、ここの店長さんが困ってたみたいだからね。少し手伝ってあげてるのよ。リュージ、困ってる人は見過ごしちゃいけないのよ! 特に女神の私はね! ま、この制服が可愛いのも理由の一つだけどね!」


 いや、絶対に制服を着てみたいっていう理由だけでだろうな。


「リュージ殿、知り合いでござるか?」

「え? ああ……はい。こいつの家で居候になってるんです」

「そうでござったか。それじゃ、奮発してあげないとでござるな」

「貴方、話がわかるじゃない! さ、何にする? チーズバーガーセット? ダブルバーガーセット? それとも、スマイル? あ、ちなみに私のスマイルはタダじゃないわよ!」


 お前のスマイルより欽治のスマイル下さい。


「フフフ、吾輩が注文するのはいつも同じでござるよ。パリピバーガーを100個でござる!」


 パリピだと!?

 どんなバーガーだよっ!

 それに100個も食ったら太るぞ。

 って、こいつ出会ったときは太っていたが、少し動いただけで激ヤセしていたな。

 代謝良すぎだろ! 

 羨ましい!

 

「パリピバーガー100個入りました――! あざまる水産で――す!」


 あざ? 

 パリピに汚染されたか?


「フフフ、店員さん。よいちょまるでござるな!」


 よい?

 えっと、意味を教えてください。


「ふぇぇ、女神様! 100個はすぐにはできませんよぉぉ!」

「欽治、しっかりしなさい! お客様は神様なのよっ! 私は女神様だけどね!」


 うまく言ったつもりだろうが、お前女神でもないからな。


「慌てなくていいでござるよ。待ってる間にリュージ殿にダリア嬢のすべてを布教するでござる」


 いや、結構でござる。

 とりあえず、空いている席に座り話をする。


「ダリア嬢の前にこっちから質問してもいいですか?」

「ん? 何でござるか?」

「いくつかあるんですが、まずはそのスマホってどこで購入するんですか?」

「これでござるか? この町の教会で普通に貰えるでござるよ」

「えっ? 無料なのっ!?」

 

 ユーナが食いついてきた。

 欲しがっていたからなぁ。

 ま、もの珍しさだけでなんだろうけど。


「それにこれは電波で通信してるわけではないようでござる。魔力を利用してるとシスターさんが言っていたでござるよ」


 魔力ってそんなこともできるのか。

 

「後で教会に行くか、ユーナ」

「行く! もちろん欽治は強制よっ!」

「あと68個……ふぇぇぇん、女神様手伝ってくださ――い」


 スマホなら使い慣れてるしネットのようなものがあるのなら元の世界に戻る方法を検索してみたい。

 望みは薄いと思うが、やってみることに越したことは無い。

 簡単に検索できるなら使ってみるべきだろうし。


「他に何が聞きたいでござるか?」

「えっと、失礼かも知れませんが、そのステータスの極振りって何か意味があるとか……」

「フフフ、吾輩は精神力を鍛えることで何事にも動じない心を身に着けたでござるよ。強いて言えば、常時賢者タイム発動でござる」


 あのダリアとやらを追っかけてる時点で賢者じゃないような気がするが。

 内心ではユーナちゃん可愛ぇぇぇってアイドル以外の女の子にも思っているのじゃないのか。

 見た目が美男子だから、そこら辺の娘なら虜にできると思うがユーナは別の意味で次元が違うぞ、諦めとけ。

 それにチャラ男を倒したときみたいに愛輝の方が雪より素早さ極振りに適した人間はいないと思う。

 素早さ1なのに、あの速さはもう常人とは言えないしな。

 ステータスっていったい何なんだって思う。

 

「いろいろとわかりました」

「もう大丈夫でござるか? それなら、今からダリア嬢のすべてを伝授するでござるよ。最後に確認テストもするでござる」

「そうですね……えーと、はい」


 仕方ない。

 軽く聞き流していればいいだろ。

 だって、興味無いし。

 それから2時間ほど、ダリアのことで一方的に聞かされ続けた。

 100個あったハンバーガーは30分ほどで完食していたな。

 100個食い終わるころには、また小太りになってるし。

 いろんな意味で素早さが優れていそうだよ、あんたは。

 

「いやぁ、それにしてもダリア嬢は久々のヒットでござる」

「元の世界ではどのアイドルが好きだったんですか?」

「リュージ殿も知っておろう。あの超人気グループの引退、その後のアイドル暗黒時代が訪れてきたことを」


 アイドル暗黒時代?

 聞いたことないな。

 

「すみません。元の世界ではあまり興味がなかったもので」

「そうでござるか。仕方ないでござる。2035年で最高のアイドルはいないでござるからなぁ」


 ふぁっ!?

 2035年?

 え?

 貴方、未来少年ですか?

 どういうことだ?

 そういえば、病院で欽治が自動ドアを初めて見たとか変なこと言っていたが、まさか欽治も未来少年?

 自動ドアが無いことだけで考えると昭和以前ってこともありえるのか?

 欽治の所を見てみる。

 今は客もいないし、少し話を聞いてみようか。

 欽治にも元の世界のころの話、聞いていなかったし。


「欽治、ちょっと良いか?」

「あっ……はい」

「あの店員さん、かなり可愛い女子でござるな」


 いや、実はあれ男なんですよって言ったらどうなるんだろう?


「何ですか? リュージさん」

「欽治はこの世界に来る前のことを覚えているか?」

「ええ、もちろん」

「ちなみに生年月日って西暦何年だ?」

「セイレキ? ……って何ですか?」

「西暦を知らないのか? じゃ、日本の元号で聞いても良いが」

「生年月日は2月14日ですよ」


 あら、バレンタインデーじゃない! 

 素敵!

 って違うわ!

 

「2月の前は何だ?」

「AW2486年ですよ」


 ふぁっ?

 エーダブルって何だ?

 BCやADならわかるが、AWは聞いたことないぞ。

 

「欽治、エーダブルって何の略か知ってるか?」

「あはは、何を言ってるんですか? AWは宇宙世……」

「あ――! わかった! ありがとう!」


 ちょっと待て!

 宇宙の世紀ってあれだよな?

 え、欽治ってアニメの中の住人なのか?

 もしそうだとしてもAW2486年って何だよ。

 いや、違うものと考えるべきか。


「欽治、まさかとは思うが宇宙で人は住めるか?」

「え? 当たり前じゃないですか?」

「それは円筒形の……コロニーか?」

「コロニーですよ」


 キタ――!

 まさか、いや最後の確認をしなければならない。

 そして、叶うなら俺は欽治の世界に行ってみたい!



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