第19話 リュージ編19

 夕食も終わり、俺はニーニャさんたち別の旅館に宿泊した組との相談に、足湯へやってきた。

 ちなみにユーナと雪の二人は部屋で寝ている。

 それにしても、夜風が心地良い。

 なんで温泉街の夜ってこんなに気持ちがいいんだろう? 

 ……謎だ。

 

「お待たせしました。リュージさん、宿は見つかりましたか?」

「はい、女将さんのお陰で俺とユーナ、雪ちゃんの三人で泊まれる所を見つけました」


 やっべぇぇぇ、ニーニャさんの浴衣姿かわえぇぇぇ!

 自然と顔が緩んでしまう。

 

「他の組のリーダーはまだみたいですね」

「そうですね」


 話が続かん!

 二人きりで話すのは初めてだし。

 ニーニャさんの好きなもの、趣味は何だ?

 あぁぁ、知らない!

 つまらないやつだと思われないだろうか?


「あの……リュージさん」

「はい」

「今回は、その……助けに来てくれて嬉しかったです」

「いえ、当然のことですよ! ニーニャさんが無事で良かったです! キラン」

「え、ええ。その……ドリアドの町まで、お願いしますね」

「任せてください。ニーニャさんの頼みなら例え魔王相手でもして見せますよ!」


 まさか、ニーニャさんから話しかけてきてくれるとは!

 俺のモテ期もキテるのか!?

 いや、単にお礼が言いたかっただけなのだろうか。

 違う!

 違うと思わないと駄目なんだ! 

 そうじゃないと俺が報われない!

 ……この考えはすでに負け組のような気がする。


「お待たせ――」

「ニーニャん、待った――」

「リュージさん、ニーニャさん、こんばんは」


 他の宿に泊まった人のリーダーだ。

 ニーニャん、その呼び方良いな。

 俺も機会があれば、呼んでみよう。

 

「みんな集まったようですね。リュージさん、明日からの方針何か考えていますか?」

「この温泉街って馬車は行商人くらいしか見ないですね。相談してから決めましょうか?」

「ニーニャん、乗合馬車って、この村に停車しなかった?」

「そうですね。確かあったような? 少し確認してきますね。あれば、乗合馬車にするとして、無い場合のことを決めておいてくれませんか?」


 乗合馬車? 

 バスみたいなものか?

 ま、そんなものがあるなら楽だし他の馬車を探す手間も無いし早いだろうな。

 無い場合か。

 さて、どうしたらいいのか迷うな。

 

「徒歩っていう方法もあるわよね。この先も町や村がいくつかあるはずだし」

「そうね。だけど、体力の無い人に合わせると、かなり日数かかっちゃうわね」

「早く町の復興もしないといけないのよね――」

「他の町の方たちはどうする?」

「ここで別れて、自分の町に帰るって人も何人かいるようね」


 うーん、考えてくれているが情報不足して決定打に欠けるな。

 

「皆さんの意見を組むと、出来る限り日数を短くし帰るべきって所は一致しているんですよね?」

「そうね」

「早く帰りたいわ」

「馬車以外で早く移動できる手段って存在しないのですか?」

「少数なら馬があるわね」

「あとはテレポートだけど、かなりの知力ポイントを振らないと無理なのよね」


 ふぁっ!?

 テレポートがある?

 ……ん、知力振りだと?

 

「そのテレポートっていうのは魔法ですか?」

「そうよ。知力180で覚えることが出来るの」

 

 おいおい、それって……。


「ちょっと心当たりがあるので、待っていてください」


 そう言って俺は宿に戻り、寝ているユーナにアナライズを掛けた。


・氏名 ユーナ・クロウド

・種族 ヒューマン

・レベル 38

・年齢 14

・職業 プリーステス

・HP 20

・MP 1870

・筋力 1

・体力 1

・知力 186

・精神力 1

・素早さ 1


 アホかぁぁぁ!

 覚えているなら、最初から言えってんだ!

 もしかしたら、助けに行く必要も無かったんじゃないのか!

 

「おいっ、ユーナ! 起きろ!」

「な、なにっ!? どうしたのよっ!」

「お前、テレポートの魔法覚えているだろ?」

「当たり前でしょ、私は女神よ! できないことは無いの! 全知全能なのよっ!」

「それで、そのテレポートを使ってドリアドの町に戻れるんだろうな?」

「当然でしょ、私を誰だと思ってるの? 町のみんなを戻すことぐらいお茶の子さいさいよ!」


 だったら、全知全能の力使って勇者(仮)に襲われたときに何とかしろよ。

 ま、すでに後の祭りか。

 急いで戻って報告しよう。

 足湯に戻る。


「あの……俺の連れがテレポートの魔法を使えるみたい……でした」

「え! それなら早く言って欲しかったわ!」

「そうですよね……すみません」

「ほんとよ! 一秒でも早く帰りたかったのに!」

「はい……すみません」

「まったく! とんだリーダーね!」

「す、すみません」


 ちくしょう! 

 ユーナのせいで赤っ恥かいた!

 あとでシメてやる!

 

「ま、まぁ……リュージさんも知らなかったことですし」


 ああ、さすがニーニャさん! 

 心が広いぜ。

 

「それじゃぁ、明日はユーナさんに任せて戻るってことで」

「はい、解散よ。解散」

「ニーニャん、おやすみ――」

「まったく、これだから男は!」

「はい、おやすみなさい」


 俺とニーニャさんだけが足湯に残り、暫し沈黙が続く。

 この気まずい空気を変えようとしてだろうか、ニーニャさんが口を開く。


「あ、あの……リュージさん。相手の魔法は自己申告しないとわからないですから、お気になさらないで下さいね」

「そうですよね。いや、それでも知力極振りのやつがいるのは知っていたので、本人に聞かなかった俺も……その……悪いんだと思います」

「そ……そうですか。でも助けに来てくれて嬉しかったですよ」


 ニーニャさんの優しさが痛い!

 あの女神(仮)め!

 絶対、シメてやる!


「では、明日の朝に村の門で」

「ええ、リュージさん。おやすみなさい」


 落ち込んだ気を紛らわすために風呂にでも入るか。

 早いとこ宿に戻るとしよう。

 あ、賢者がいるって話も聞いたんだったな。

 今はそんな気分じゃないし、明日の朝にでも聞いて回るか。

 そうして、いったん部屋に戻る。


「わぁい! 勝った――!」

「まだよ、もう一回やるわよ!」


 こいつらは何を呑気にトランプしてやがるんだ。

 

「あら、リュージ。早かったわね! 明日は私のテレポートで戻るの?」

「当たり前だろ! お前のせいで赤っ恥かいたぞ! この野郎!」

「まぁまぁ、そう怒んないで! ほら缶アワアワを買っておいてあげたわよ! 一緒に飲みましょう!」


 こいつ、まだ飲むつもりか!

 いや、待てよ。

 酔った後にすぅんごぉいことしてやるのも手か?

 いや、してやろう。


「女神ちゃん、お風呂いこ――!」

「え? そうね……先にお風呂に行くわ」


 おいおい、誘っておいてそれか!

 どこまで自由なんだ。

 でも、まぁ、俺も先に風呂に入るか。

 上がった後に飲んだ方が絶対旨いし。

 

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