13 エリアナside④

「__アナ、……エリアナ。」



う~ん、うるさいな~……もう少し寝かせてよ………



「……エリアナ。早く起きなさい」



…………エリアナ?誰それ?



「エリアナ!!」



「~~もう!うるさい!!あたしはエリアナじゃないわよ!!」



「はあ?何バカな事言ってんだい。いいから早く起きな。今日は試験のために勉強に行く日だろう?」



「は?試験?」



「……あんた、一体どうしたんだい。寝てる間に頭でも打ったのかい?

……はあ~、あんたは元々頭は良い方じゃないのに、これじゃあ益々悪くなっちまうじゃないか。」



「んな!!あたしはバカじゃないわよ!!」



何なのよ、このオバサン。バカはそっち何じゃないの?



「はい、はい。わかったからさっさと準備しな。早くしないと塾校に間に合わないよ。」


そう言ってオバサンはあたしの着ている服を無理やり脱がそうとしてきた。


「ちょ、ちょっとやめてよ!着替え位自分で出来るわよ!だから部屋から出てって!!」



「わかった、わかった。……んとにもう……じゃあ着替えたら下に降りて来るんだよ。朝食は出来てるからね。」



オバサンは大きな溜め息を吐いて部屋を出ていった。






「………一体これはどういうことなのよ……」



周りを見渡せば、其所は古ぼけた見知らぬ寝室のようだった。


部屋の中に鏡はなく、仕方なしに窓に自分を写して姿を確認する。




「……っ!!」



あたしはその写された姿を見て、一つの落胆と、やはりエリアナという人物ではないという安堵の気持ちになった。





あたしは、またユリーナに生まれ変わったのだと思っていたんだ。


だからあのオバサンにエリアナなんて呼ばれて、腹が立った。





自分の姿を確認して、エリアナなんかじゃないと、あたしはユリーナなのだと証明したかった。


………なのに。




「……あの自称神!嘘ツキじゃない!あたしの望みを叶えてくれるって言ってたのに!!」



ガラスの窓に写った自分の姿は、日本で生きていた頃の姿そのままだった。



っていうか、対価とかいうのでこの姿はなくなるんじゃなかったの?




「__神とは公言してはいなかったと思うが?」



「っ!?誰!!」



いきなり聞こえてきた声の方に振り向けば、


そこには黒髪黒目の、この世のモノとは思えない怪しげな雰囲気の男が立っていた。



「お前をに送り込んだヤツが言っていただろう。お前の協力者だ」



怪しい。……怪しすぎる。



黒………自分も同じ色彩だが、全く同じように思えない。


そして顔は恐ろしく整っている。



面食いのあたしが、この男だけは無理だと思った。


この男に深く関わるのはヤバイと、あたしの頭の中で警報がなっている。



だけど、この男は協力者。


ならそれ以上関わらなければいいのよ。





「……そんなに警戒しなくても、別に取って食べたりなんてしない。


お前は経験したのだろう?その経験を活かす為にも、力を貸してやろう」



そう言って男はにやりと嗤った。






◇◇◇◇





「……あんた、一体何者なのよ…」



協力者なのはわかったが、目の前の男が、あの神様の遣いにしては異様で。


むしろ悪魔の遣いだと言った方がしっくりくる出で立ちなのだ。



それを裏付けるかのように、男の背中には漆黒の翼が生えているのもそう思わせる要因だろう。



「__とりあえず、お前に今必要なのは情報だろう?」


あたしの質問には答えず、男は話を進める。



「一から説明するのは面倒だ…お前の記憶に直接流し込むとする。……受けとれ。」



「はっ!?ちょ、まっ、」



慌てるあたしをそのままに、男の右手があたしの頭をガシッと掴んだ。





「……っう、」


その瞬間、あたしの頭の中にの記憶のようなものが一気に流れ込み、


あまりの情報量に、あたしはそのまま今まで自分が寝ていたであろうベッドに倒れ込んだ。






「…………あたしは……エリアナ?………そんな、」



落ち着いた頃にはあたしは理解した。






此処はあたしの育った家だということ。



さっきのオバサンは、のあたしの母親だということ。




神様が此処にあたしを送り込んだ時、その神の力の反動なのか、あたしは記憶を失っていて、10歳若返っていたこと。



あのオバサン……母親が、この家の前に倒れていた幼いあたしを拾い、エリアナと名付け、今まで育ててくれたこと。





そして、強い魔力さえあれば平民でもタダで通えるという、学園の試験勉強をするために塾校に通っているということを__




「__思い出したか?」



「……思い出したけど、……どうして今頃?」



「………………お前がそのまま……____……。」



「え?」



「……いや。まあそう気にする事もないだろう。俺にはどうでもいいことだ。


とりあえず、お前は今日、これから塾校に行くわけだが…どうする?」



この様子だと、さっき男は最後に何て言ったのかちゃんと教えてくれなさそうだ。



気にはなるけど、確かに今はこれからどうするかの方が重要だと思う。



でも、

続けた男の言葉にあたしは意味がよくわからなくて怪訝な顔をした。



「俺がお前にとって何なのか、忘れたのか?」



「……あっ!」



そうだ、協力者。あたしの望みを叶えてくれるって!



「……言っとくが、お前を今ユリーナに生まれ変わらせろとかは無理だからな?__生憎、俺にそこまでの力はない。」



「っ、」



今まさに言おうとしていた事を先にダメ出しされたあたしは、

憎々しげに男を睨んだ。





「……っていうか、ユリーナはあたしがなるはずでしょ?何でダメなのよ!」




「………………………この世界のユリーナは、お前ではないからだ。」



………納得出来ない。……全然!納得出来ない!


……けど。実際、今のあたしは、ユリーナじゃなくてエリアナ。



「………………とりあえず、あたしの望みを言うわ」



今、ユリーナとして生きられないなら仕方ない。


エリアナとしてやってやるわよ!


神様も言ってたじゃない。上手く出来れば望みは叶うって。



「その前に、ヤツから預かった力を渡す。」


「そう言えば、力って……」


「まあ、簡単に言えば強力な闇魔法だな。それに妙な力も加わっているようだが……」



「…妙な力?」



「言われなかったか?使いようによって姿が変わると。」



「それが妙な力ってこと?」



「そうだ。お前の使い方で、その力は善にもなるし、悪にもなる。それに付随して姿も変わるってことだ。


そして、

変わる姿は、概ねお前の望む姿になるだろう。

まあ、実際やって見た方がわかりやすい、」



とりあえず、魔法を使ってみろ、と、

いきなり男は何もない場所に敵意を剥き出しにした野犬を出現させた。



「…え?…は?」


突然野犬を部屋に呼び出した事にも驚いたが、


急に魔法を使ってみろと言われて直ぐにできるわけがない。


戸惑っているあたしに男は溜め息をついたのを見て、あたしは腹が立った。



「………この犬を鎮めてみろ。考えるだけで使えるはずだ」



イラついてるあたしに気付いたのか、男は仕方ないという風に言葉を付け足した。



渋々あたしは言われた通りにやってみる。


目の前の、今にも飛びかからんとしている野犬を見つめ、あたしは心の中で願った。



早く大人しくなりなさいよ!!



……するとどうだろうか。

野犬はク~ンと鳴いて、伏せの状態で下顎を地面に擦りつけている。



やった!できた!と、喜ぶのも束の間、あたしの体が光に包まれた。








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