4 キリクside





「…そういえば、君は一体誰だ?」


私は彼女が示した男を見て、見たことのない人物だという事に気が付いた。



「今、その女が言っただろう。まさしく神の遣いだ。」


そう言うと、男の背中に黒い翼が大きく現れた。



「その翼は…まさか、」


私は彼の背中に広がる漆黒の翼を見て神話を思い出していた。



この国の建国記でもあるそれは、人が大好きで、人と共に国を築いた魔王陛下のお伽噺。



自身の子供が立派に育ち、

その子供が良い国になるようそのまま王位を引き継がせ、

そして、孫、曾孫まで育ちきるのを見届けた後、

聖女であった最愛の王妃と共にこの世を去った。


その魔王陛下には常に付き従っていた黒翼の男がいたという__





「そう、そのまさかだな。」



「…だが、それが本当なら、神の遣いというのはまた違うのではないかな?」



「いいや、あながち間違ってはいない。魔王陛下は、ただの魔王ではなかったという事だ。」



「……」



「__それで、証人だったか?」


どういう意味かと問いかけようとしたら、男が先ほどの話をぶり返したので出鼻を挫かれてしまった。



「お前はどう思う?」



「どうとは?」



「本物かどうかはともかく、この俺の存在で、多少なりともあの女の言ってることが全くの嘘とは思えなくなってはいないか?」



「君の事に関しては別として。

そもそも、ユリーナは私の腕の中に居るし、全くの別の人間として存在している彼女が本当はユリーナなのだと言われてもわかるはずがない。」



「そりゃそうだ。」



「…それに、私はユリーナがフェリス公爵家うちに養子で来る前からユリーナを見てきた。

その上で、もし本当にユリーナが彼女だったとしても、そのユリーナと、そこの彼女を入れ換えるような事は認めない。」



「くくっ、だそうだ。残念だったな、女。」



「なっ、どうして!その女は偽物なのに!!」


お兄様はあたしのお兄様でしょ!?


そう叫ぶ目の前の女。


証明云々以前に、もう私の事をずっと自分の兄だと思い込み、私を兄と呼ぶ彼女に嫌悪が湧く。




今まで散々人を、周りを害しておいて、己は悪くない、悪いのは今私が腕に抱くユリーナなのだと喚く。


そんな女が私の本当の妹だと?



嗤わせる。



例え、万が一、億が一にもユリーナがユリーナでないとしよう。


だから何だと言うのだ。



そんなことは些細な事。



私にとってユリーナは、私の愛するただ1人の女性ひとであり、彼女は彼女でしかないのだから。







もう私にすがる事は出来ないと悟ったのか、呪術を発動させようとしていることに気付く。




私は目が覚める直前、ユリーナによって聖女の力で傷を治してもらったが、

血を流しすぎたせいで思うように体が動かない。




だが、心配はしていない。





さあ、ユリーナ。時間だよ、目を覚まして____……







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