*キリク・フェリス*

ここからキリクルートに入ります。



___________________








「……っぐ、カハッ……」





………え……?



お、にい、さま………?



新たに来るだろう痛みに備えて気を引き締めていたが、

それは来ることはなく、


代わりに聞こえて来た苦しむお兄様の声。




閉じていた瞼を開いた目に映ったのは、

私に刺す筈だった剣を己の腹に刺しているお兄様の姿だった。





「………ハッ、ユ、リー…ナ…ご……めんよ。助け……られな……」



「__っ!~~!!」




口から血を吐き、必死に言葉を紡ぐお兄様は、震える手で私の頬に触れた。



どうして、どうして!?


本当は……私が死ぬ筈だった。


このままではお兄様が……お兄様が……死ぬ……?



っ!そうだ、エリアナに_


彼女に聖女の魔力でお兄様を治して貰えれば……!



そう思ってエリアナを見れば、

彼女もまさかこんな事になるとは思ってなかったのか、狼狽えているのがわかる。



とにかく治して欲しい……そう思いを込めてエリアナに視線を送るも、彼女は嫌々と首を振った。



「そんな男、もういらないわよ、もう術も効かないだろうし。」


だからそのまま返してあげる。


そのエリアナの言葉に、私は怒りと絶望を抱いた。



人を散々操り、術に反発すればもういらないと切り捨てる。


人を何だと思っているのか。



そして、お兄様を治して貰えないという事は間違いない。



嫌だ、嫌だ、嫌だ!!



「…私の、事は……もう……いい……んだよ、ユリーナ…。」



泣きながら首を振る私に、お兄様は困ったように微笑む。


「…私は、ユリーナを、……殺さずに…すんだ。」


それだけでも私は救われたんだ。そう言うお兄様の目からも、涙が流れた。




私の体にある魔獣に襲われた傷に目を向け、お兄様はまた私の顔に視線を戻した。



「君を、……助ける……事は、出来ない…けれど…、君と、一緒に……逝く事はできる…」



確かに私自身も限界だった。



でも……



「ユリーナ……愛しているよ。……私の……唯一の…愛しいひと

……」





私自身も意識がなくなっていく……



私を抱き締めたまま、事切れたように動かなくなったお兄様……。



私もそのまま力が無くなり、自然に瞼が閉じていった。
































____________________







「お兄様~!今日は何処に行きますか!?」



「そうだね~、じゃあ、今日は北の方へ行ってみようか。」



「はい!」




この世界は万年常春のようだ。


まるで、桃源郷かと思わせる程の安らかで、心地よい世界。


お兄様と、私、二人しかいない。



あぁ、幸せだ………


大好きな人と、ずっと一緒にいられる。


これ以上の幸せはないのではないか。





でも、何か忘れているような………




「ユリー、どうしたんだい?」



考え込んでいた私を抱き寄せ、お兄様が優しく問いかける。



何でもありません。と首を振ると、そうか。と返事が返ってくる。



「お兄様といられて、幸せだなぁって思ってたんです」



「……あぁ、私も幸せだ。愛しているよ、ユリー。」




お兄様に体を委ね、私達はゆっくりキスを繰り返した。








___ねえ、本当にそれでいいの?




どこかで聞いた事のある声は、私達には聞こえはしない………









__________________


まるでバッドエンドみたいな話ですが、まだ続きます。

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