23
あの魔獣騒動が起きてから、驚くほど今まで通りに毎日が過ぎていった。
学園に行けば、必ずと言っていいほど殿下にすり寄っていたエリアナさんが、
殿下の婚約者になったのだ、絶対増長してかなり面倒になると思って身構えていたのだが、
あれからエリアナさんを見掛ける事はなかった。
本人の聖女宣言後、陛下と謁見し、陛下にも聖女の認定を受けた彼女は、
殿下の婚約者としてお妃教育と称し、学園を休学したらしい。しかもそのまま王宮に住み込みというおまけ付きで。
エリアナさんが居ない学園は、こう言っては何だが、平和そのものだった。
殿下といえば、初日に沢山の令嬢達に囲まれて大変そうであったが、
その後は何事もなく何時も通りだった。
エリアナさんが婚約者になった事を質問攻めにされていた殿下は、
苦虫を潰したような
殿下はエリアナさんを良くは思っていない。
陛下が聖女と認めたなら、婚約は王命なのかもしれない。
エリアナさんが王妃になる?
あの、我儘で周りも巻き込む姿に悪い未来しか浮かばない。
そう思っても、エリアナさんが婚約者であることが覆される事はなく、
そのまま月日は流れ、もう1学年は終わり、長期休日に入っていた。
本来なら1年に一度、必ずあった学園祭もあの魔獣騒動で、中止になっていた。
ウェルミナがゲームの内容と違う、と溢していた。
魔獣騒動も確かにあったが、時期が早すぎると。
居ない筈のもうひとりの聖女、エリアナさんの存在からも言える、
ゲームとはもうほとんどシナリオは変わっているのだろう。
ゲームとは違うという事は、本当は良い事かもしれない。
だけど、エリアナさんが殿下の婚約者となった事で、暗雲漂うようだ。
せめて彼女がお妃教育で改心してくれるならいいのに。と思わずにはいられない。
そんな事を考えつつも、せっかくの長期休日、私はウェルミナやアマリアと楽しく過ごした。
お兄様と穏やかな休日を楽しむ事もあり、なぜか休み中よく公爵家に遊びに?来るグランツアー先生も一緒になる。
先生、暇なの?
先生に対して元々苦手意識しかなかった私は、学園とは違う先生のフレンドリーな態度に少し困惑していた。
そんなこんなで、あっと言う間に長期休日は終わり、私達は2学年になった。
始業式、新入生を迎える入学式も滞りなく終えて、
新しい学年でのクラスへ向かう。
「ユリーナ~!」
「アマリア!」
「また同じクラスで嬉しい!」
教室へ向かう途中、廊下を歩いているとアマリアに呼び止められた。
2学年も私達は同じAクラスだ。
「お二人とも、私も仲間に入れてくれる?」
「ウェルミナ!」
「勿論!」
休日中に3人で過ごす事が多かった私達はもはや仲良し3人組と言っていいほどで、
この2人と一緒なら楽しく学園生活送れそうだと思う。
そのまま3人で仲良く教室へ入れば、
やはりAクラスの面子は1学年の時と変わらない顔ぶれに、
私達3人は笑い合った。
「ユリーナ嬢、君たちも同じクラスでよかった。またよろしく頼む」
「「「「!!」」」
殿下に挨拶しなければと思っていたら、
殿下の方から声がかかり
申し訳なくも私達は此方こそ、と慌てて返事をした。
そういえば、エリアナさんは…と視線をずらすと、
それに気が付いたのか殿下は、あぁ、エリアナ嬢なら…と話始めた時だった。
「エリアスさま~!置いてくなんて酷いですぅ~」
うげっ!と思って声の方をみれば、ちょうどその本人が教室へ来たところだった。
あぁ、エリアナさんは今年からはもう復学したんだ…
というか、彼女はお妃教育を受けていた筈では?
その割には以前と何も変わらない彼女を見て、
少しでも改心してくれていればという、私の願いは叶わない夢だったんだと落胆する。
彼女は殿下の側まで来ると、
私達の目の前で殿下の腕に抱きついた。
「もお、エリアスさま~、こんな人達の事なんて後にして、あたしと一緒にいましょうよ~」
そんなエリアナさんに殿下はわざとらしく大きな溜め息を吐き、
腕に巻き付いているエリアナさんの腕をやんわり外す。
「エリアナ嬢、いくら私の婚約者だからと、言って良い事と悪い事がある。
彼女達は私の大切な友人だ。その3人をこんな等と言うなら、
私の事を侮辱しているのと同じだ。」
そう言う殿下の表情は、己の婚約者に向けるような顔にはとても思えず、冷えきっていた。
そんな殿下の態度に狼狽えたエリアナさんは、そんなつもりじゃ…などと言っているが声は小さかった。
「それと、私達の婚約は王命だからという事を忘れるな」
暗に殿下自身はエリアナさんを全く想っていないと言う事、想い合ってなどいないのだと告げている。
が、エリアナさんは何を勘違いしたのか、別の方向に解釈した。
「ちゃんとわかってますよ~!王命。つまり、私達が想い合っていることをお義父さまが知って、
婚約を命じて下さったんですよね!」
「「「「……………」」」」
しーーーん。
正に今。私達の、いや、クラス全員の気持ちが一つになった気がした。
先生から、彼女の成績は良くないとは聞いていたが、
まさかここまでアホだとは(…こほん。失礼。)頭の中にお花が咲きすぎているとは思わなかった。
なんか、彼女を見ていると、ゲーム設定のヒロインの性格を思い出す…
本当にソックリにしか見えなくなって来た私は頭痛がする思いだった。
「…はあ、もう、この話はまた今度にしよう。」
君達も、先ほどはエリアナ嬢がすまなかった。という殿下に、
そんな気にしてないですから、と頭を下げようとする殿下を必死に留めた。
とりあえず、今日のところは授業がないらしく、担任の先生の話だけで終わり、
一応生徒会室に寄って業務の確認だけして帰ることにした。
「あ、ユリーナ嬢!生徒会室へ行くなら、ついでに隣の資料室へこれを片付けて貰えるかい?」
「わかりました。」
途中でグランツアー先生に用事を頼まれた私は、渡された資料を持って資料室へと向かう。
それにしても、これ、結構重たいな。
私が持っているのは自分の身長以上に大きな世界地図。
見た目、とても薄い紙質で出来ているため、あまり重そうには見えない。
実際、本当に凄い重たい等と言う事はないのだが、
これをずっと持ち続けているのは結構…いや、かなりつらいものがある。
先生も、大して重くないから私でも大丈夫だと思ったのだろうが……
はあ、はあ、と少し息が荒くなりつつも何とか資料室まで持って行き、
以外と高さのある資料室の扉を開け、そのまま縦に抱えたまま入れそうだなと思った瞬間、私は前のめりに倒れそうになった。
あぁ、倒れる…と思いながら来るであろう衝撃に身を構えていたが、
床にぶつかるであろう衝撃は来なかった。
代わりに誰かの腕に抱き留められていた。
え?と思って目の前の人物を見上げた私は、硬直した。
「平気か?」
「!!は、はい。ありがとうございます。」
声を掛けられすぐに正気に戻った私は、緊張しながらもお礼を告げる。
心配してもらっているのだろうが、相手は無表情であまりそうとは分かりづらい。
無事ならいい。とぶっきらぼうに言いながらも私を優しく立たせてくれた。
再度、ありがとうございます。と笑って返すと、彼の表情が少し緩んだ気がした。
私を助けてくれたのは、貴族名鑑で覚えていた、サディアス・クレーズ王弟殿下。その人だった。
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