19
休日、フェリス公爵家でお兄様と私、殿下とウェルミナ様とで話し合いが始まった。
ウェルミナ様の話もそうだったけど、殿下から聞いた話にも驚いた。
まさかこの世界にも呪い何てあったのか…なんて当事者にも拘わらずちょっとずれた事を考える。
それにしても、エリアナさんがねえ…まあ、度々嫌な嗤い方してるなとは思っていたけど、本当にそんな事に手を出しているとは思わなかった。
しかも私だけでなく殿下やウェルミナ様まで。
だが、呪いの解呪は今はできないらしい。
解呪することによってエリアナさんに呪い返しが起こるだろうということ。
それだけなら何も問題はないのだが、エリアナさんが一人で呪いをかけているのか、それとも背後に何かいるのかがまだ判っていない。
もし背後関係があった場合、呪い返しが起きた時点でエリアナさんは見捨てられ、背後が判らなくなってしまう可能性があるため、
うかつに解呪することができないということだった。
「そうだったのですね…」
「ん?ウェルミナ様はご存じだったのでは?」
ぽそりと呟いたウェルミナ様に聞けば、私も理由までは聞いていなかったのよ。という。
とりあえず、呪いの抵抗策として、宮廷魔術師から魔法抵抗をかけてもらうこと、抵抗魔法付与のついた魔道具が必要ならしいのだが、
どうやら私は倒れた日の医務室で、私が眠っている間に既に魔法を掛けてもらっているらしく、
魔道具に関しては翌日にお兄様から着けてもらったネックレスがそうだった。
自分の知らない所でそんな事になっていたなんて知らなかった。いつのまに。
因みに、呪いだと気付いたのは、同じ相手からの呪いを掛けられたせいで、その呪いが見えるようになるのだと言う。
それはともかく、私は一つ気になっていることがある。
殿下やウェルミナ様の話を聞く限り、私に起こって二人には起こらなかった事、二人に起こって私に起こらなかった事がわかった。
二人に起こったのは、呪いによる感情の起伏、所謂魅了の類による精神の操作。
でも私は感情が支配されるようなほどの起伏はなかった。夢のせいでネガティブにはなっていたが。
逆に私に起こったのは、魔力が急に激減したこと。
二人の話からはそのようなことが起こった風には何も聞き及んでいない。
つまり、二人には精神系のみだったということだった。
普通、この世界の常識では、元々持っている魔力が増えることはあっても、減るとか、無くなる事はありえないという。
なら呪いのせいだとしか思えない。
どうして彼女はこんな事をしたのだろう…殿下とウェルミナ様の精神支配、私の魔力…
「…彼女は…聖女になって、私を陥れようとしている…?」
「…その通りだ」
震えるような声で言えば、殿下はまるで自分の事の様に傷ついた表情に顔を歪め、肯定した。
「…そう、ですか…」
弱弱しく返事をする私に、隣に座っていたお兄様が、私の肩を抱きながら大丈夫だよ、ユリーナは私が守るから。と慰めてくれる。
とりあえず、今はまだエリアナさんを刺激することは危険だからと、今まで通り過ごしてほしいという。
学園では私が君を守ろう。と言った殿下に、勿論私も協力しますわ!と便乗してきたウェルミナ様。
ふふっ、この二人が味方なら、安心かな…?
そう思った私は、ありがとうございます。と、ふわりと微笑んだ。
ほんのちょっとだけ、守ると言ってくれた殿下を格好いいなんて思ったのは内緒だ。
前世含め、恋愛経験ゼロに等しい私には充分なときめき要素だったのではないか。
___________________________________________
あの話し合いから数日、エリアナさんからの影響もなく、普通に過ごしている。
「ユリーナ!準備はできました?生徒会室へ行きましょう!」
「うん、じゃあ、アマリア、また明日ね」
放課後、ウェルミナに声をかけられ、アマリアとおしゃべりをしていた私は、頑張ってね~と何時もの様に見送られて生徒会室へ向かう。
彼女に友達宣言を受けてから、私たちは順調に良い関係を築いている。
お互い、仲良くなりたいという気持ちが一緒なのだとわかって、それならまずは呼び方は呼び捨てよね!ということになり、今では相乗効果か大分仲良くなれた。
「ユリーナ嬢、私も一緒に構わないか?」
「殿下?はい、勿論。」
ウェルミナもいいよね?と、声をかけようと彼女に視線を移すと、あれ?殿下に対して黒い微笑顔を向けている。なんで?
「ウェルミナ?」
どうしたの?と聞けば、何でもないのよ。と返事が返ってくる。表情も元に戻っていた。
「もちろん私もご一緒で構いませんわ(私のユリーナは殿下には渡しませんわ)」
「そうか、ありがとうウェルミナ嬢。(ほう?いつから彼女は君のものになったのかな?)」
ん?ウェルミナ、また黒い表情になってる?というか殿下も?これは所謂、悪友みたいなものだろうか。
ひそひそ何を話しているのかはわからないけど、お互い何かを牽制しあっているように見える。まあ、”何か”は勿論私にはわからないが。
ケンカするほどなんとやら。ふふ、仲が良いですねえ~
「「仲良くない(ですわ)!!」」
おや、聞こえていたようだ。
「声も揃ってますね、本当に仲が良くて羨ましいです。」
「ユリーナ嬢、何か勘違いしていないか?私はウェルミナ嬢とは友人でしかない。」
「?えぇ、そうですね。ですから、私も殿下と仲の良い友人になれたら嬉しいなと思ったのですが。」
「……友人…そうか」
え?何か殿下落ち込んでる?何故。そんなに私と友人になるのが嫌なのだろうか…
「私は既に殿下とは友人だと思っていたのですが、殿下がそんなに嫌がるとは思っていませんでした。申し訳ありません」
「え!?いや、そういう訳ではない!!うん、そうだな、私もユリーナ嬢とは仲良くなりたいと思っている。よろしく頼む」
「?はい、こちらこそ、殿下。」
何故かめちゃめちゃ慌てている殿下に不思議に思いながらも、私もよろしくお願いします。とにっこり微笑み返した。
「…ふふっ…」
「…ウェルミナ?」
「いえ、何でもないの、ただ、殿下が不憫で…」
そう言いながらもウェルミナは肩を震わせながらまだ笑っている。不憫?何で?
殿下を見ればまた黒い表情になっていた。
良くわからないけど、そろそろ生徒会室へ向かった方がいいのではないか。
お二人とも、そろそろ行きましょう。
というと、二人とも大分時間が過ぎていることに気が付いたのか、お互い頷いてじゃあ行こうか。と出口に向かった…が、
__ドン!!
「わっ!?」
え?
カシャーン!
「きゃ!いったーい!ひどーい、ユリーナ様~私の事が嫌いだからって、突き飛ばさなくったっていいじゃないですか~」
「………………は?」
前にもこんなことあったような…
一番後ろを歩いていた私にエリアナさんが思いっきりぶつかってきたかと思うと、彼女はそのまま大袈裟に倒れ、私に文句を言ってきた。
いや、嫌いっていうか、寧ろ話したこともないと思うのだけど…
「…どうした?」
「…いえ、私にもよく…」
前を歩いていた殿下が振り向き私に何があったのかと聞くが、ここでそのままありのまま伝えてもいいのだろうかと悩む。
話し合いで言っていた、エリアナさんを余り刺激しないためには、穏便にするしかないのだろうが…
でも私を完全に悪者にしようとしている彼女の発言に思うところもあるのは確かで…
どうしようかと考えていると、殿下が心配いらない、と優しく微笑み、私の傍に落ちていた眼鏡を拾ってくれた。
「エリアナ嬢、言いがかりはいい加減にやめるんだ。彼女がそんなことをするはずがないだろう」
「そんな、私が嘘ついてるって言うんですか~?!本当にユリーナ様が突き飛ばしたのに…」
うぅ~ひどい、ユリーナ様~という彼女はウソ泣きまでしている。
よくやるな~なんて私はまるで人ごとの様に見ていたが、ふと周りの視線に気付く。数人ではあるが、エリアナさんを擁護しているような発言が聞こえてきた。
「ユリーナ様、そんなことする人だったなんて…」「幻滅した…」「最低だな…」等々、口々に言う。
良く見ると、彼らから黒い靄のような物が見えた。
「ひっ!!」
まさかあれが…?あまりの禍々しさに恐怖し、後ろに倒れこみそうになったが殿下に抱き留められた。
「大丈夫か?」
「…はい…」
何とか返事をするも恐ろしさで手が震えてしまい、無意識に殿下にしがみついてしまった。
「嘘も大概にしろ」
周りの声にも耳を貸さず、エリアナさんにきつく一言を告げ、殿下は私を抱きしめたまま、教室の外へと私とウェルミナを促した。
「大丈夫?」
「…うん、ありがとう。殿下も、ありがとうございました。」
心配してくれたウェルミナにお礼を言い、殿下にももう大丈夫ですから、と言外に離してほしいことを告げると、殿下は名残惜しそうに離してくれた。
「あの、よかったのですか?」
エリアナさんを刺激して…と言葉にしなくても伝わったようだった。
「あれくらいなら、大した刺激にもならない。今までにも同じようなことがあったからな。今更でもある。」
「今までもって…」
「あぁ、君に対してではなく、他の女生徒にもエリアナ嬢は先ほどのような事をしている時があったんだ。ちょうどその時私も偶々その場に居合わせてね。
その度に彼女には苦言をしてきたんだが…」
私以外にもしていた?本当に彼女は一体何をしているのか。殿下は偶々と言っているが、明らかに殿下に庇ってもらおうという魂胆が見え見えだ。
まあ彼女の思惑通りに殿下はなっていないようだが…
エリアナ嬢は全く聞き入れないようだ…そう呟く殿下は本当に疲れた顔をしていた。
とりあえず今日はそのまま生徒会室へ向かい、いつも通り業務を終え、帰ることになった。
帰り際、殿下が心配だからと公爵邸まで送ると言ってきた。邸までそんなに遠くないから大丈夫だと告げるも、殿下はどうしても心配だからと譲らなかった。
あまり断るのも失礼かと思い、殿下の厚意に甘えることにして、その日は一緒の馬車で送り届けてもらった。
馬車の中で殿下とは他愛もない話をし、普通に会話を楽しんでいた。
あんなに攻略対象者とは関わりたくないと思っていたのに、今では攻略筆頭である殿下が頼もしい存在に見えてしまっている。
まあ、逆ざまあのような、あんなひどい結末にならなければいいか。と、小さく独り言ちた。
あぁ、それにしても、明日、教室に入るのが憂鬱だな…
皆、呪いであんな風になっているのなら、呪いが解ければ元に戻るのだろう。
だけど、今は自分含め呪いを解くことはできない。
呪いだからと、本心ではないと分かっていても、あの非難するような眼は気持ちの良いものではない。
皆が早く元に戻ってくれると良いなと、切実に思いながら眠りについた。
そしてその日の夜、私はまた夢を見る________
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