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「…ん…?」
朝方、朝日の眩しさに身を捩ろうとすると、身体が身動き出来ないことに気付く。
何かが自分の体に巻き付いているそれに、とても安心感を感じ、全身に感じる暖かな包容が心地よくて、無意識に目の前のぬくもりに顔を摺り寄せた。
あまりの気持ちよさに、まだ起きたくない、ずっとこうしていたい…このまま時が止まればいいのに。などと考えながら、ぬくもりを逃したくなくて、それにギュッと抱き着いた。
「ふふ、ユリーナ?…そろそろ時間だよ…?」
頭上から優しい声がする。んん、時間?と寝ぼけ眼で答えれば、今度はクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「ねえ、ユリー。こんなふうに抱き着くのも、そんな姿を見せるのも、とても可愛いけれど…」
"私以外の人には見せてはいけないよ"
「っ!」
いきなり耳元でダイレクトに聞こえたお兄様の声に、私の眠気はいっきに吹き飛んだ。そうだ、昨日、私はお兄様に…そこまで考えて、私は今頃恥ずかしさがでて身悶えた。
「お、お兄様、おはようございます…」
ああ、恥ずかしい。今きっと自分の顔は真っ赤に違いない。そう思いながら恐る恐るお兄様に視線を合わせると、おはよう。と、優しく返事が返ってくる。
「今日は休みではないけれど…、どうする?学園には行けるかい?」
キツイなら休んでも良いんだよ。と、お兄様は私の髪をさらさらと撫でながら心配そうに見つめてくる。
昨日の私の状態で過剰なくらい心配をかけてしまったらしい。
それにしても、寝起きのお兄様はやけに色っぽい気がする。
「大丈夫です、行けます。」
お兄様に申し訳ないやら、恥ずかしいやらでいっぱいにながらも、私はいつも通りに振る舞い、その後は朝食を食べて学園に向かった。
後から聞いたのだが、私がお兄様と一緒に寝たことは、あの時私が着替えている間に執事に伝えてあったらしく、侍女は私が朝部屋にいないことをすでに知っていたらしい。
いつの間に。
私の様子がおかしかったからと、朝はゆっくりさせてあげたいからと、お兄様は起こしに来なくてもいいとも言っていたそうだ。
本当に優しいお兄様。これで離れられなくなったらどうしてくれるのか。
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「エリアスさま~、ちょっと勉強で分からないことがあるんですけどぉ~」
教室に着くなり、媚びるような声が聞こえてきた。
話しかけられた当の本人、クレーズ殿下は眉間に皺を寄せ、相手に冷たい視線を送っている。
「エリアナ嬢、きみに私の名を呼ぶ許しは許可をしていない。それと、勉強ならもっと仲の良い君の友人に聞いた方がいいだろう」
「そんな、私たちクラスメイトだし名前で呼ぶくらいいいじゃないですか~それに私たちって名前も似てるし、これって運命みたいじゃないですか~?」
「…とにかく、勉強は他の者に頼んでくれるか」
え~?私はエリアスさまがいいんです~となおも続けるエリアナさんに、話が通じないとばかりに殿下は彼女を振り払っていた。
正直、私は殿下やウェルミナ様に会うのがちょっと怖かった。直接私に手を下されたわけではないのに、あの夢が鮮明過ぎて、二人に会ったら普通でいられるかがわからなかった。
だがそんな心配をよそに、朝からエリアナさんとの殿下の不毛なやり取りを見ていたら、逆にエリアナさんの言葉ですごくイライラしていることに気が付いたのだ。
夢の事など一瞬忘れるくらいには。何でイライラしたのかは、よくわからなかった。でもきっと彼女のあの鼻にかかった言葉遣いのせいだろう。
私は何も見ていません、今来ましたとばかりに、おはようございます、と席へと向かった。
そんな私に殿下は「ユリーナ嬢、おはよう。」と先ほどエリアナさんに冷たい表情を向けていたことのが嘘のように柔らかく微笑んだ。
ちょっと待ってほしい。ホントにそんな表情向ける相手間違ってるから!ウェルミナ様にまた睨まれちゃうじゃない!と思ってウェルミナ様を見ると、いつも通り…というか普通に微笑まれておはようと、返された。
え?何で?逆に怖いんだけど。エリアナさんには勿論睨まれている。でもウェルミナ様が寧ろ微笑むとか…
それに、昨日の殿下と私のやり取りでの噂もすでに耳に入っているはずで。
とりあえず、その日の授業はいつも通りに終わり、生徒会室でも変わらず。ウェルミナ様からのアクションもなかった。
今まできつく感じていたウェルミナ様の視線も、少し和らいでいるような気がするのは私の希望的観測かもしれない。
だけど、悪夢のようなことにはなりたくないから、そのうちまたウェルミナ様とは話をして、和解しよう。そう心に誓ったのだった。
何となく自分の心に芽生えた新たな気持ちに気付かないふりをして____________。
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