Ver.7.1/第45話

「「「「「「「「「「どうなった!?」」」」」」」」」」


 最終ラウンドの最終日、最後の集計結果が出るのを固唾を飲んで見守るプレイヤーは多かった。

 それは、多くのサーバーでも同様だったのだが、ハルマ達のサーバーでは特に緊張感のあるものとなっていた。

 魔界の戦いを制するつもりはないと公言してきたとはいえ、最後の白熱した戦いをやり切ったことで、ハルマ達も肩で息をするほどの興奮状態にあった。

 最後の最後、指揮能力の高さを発揮したのは、普段はダラけた雰囲気しか垂れ流していないネマキであった。

 安穏としたキャラを演じながらも、業火の大魔導士と評される人物なのだ。緻密な計算ができないはずがない。テスタプラスですらコントロールを失った混沌とした状況でありながら、彼女のおかげで何とか耐え抜くことに成功していた。

 ……のだが。

 濁流となった混乱はそう簡単に治まってはくれなかった。

 ハルマ、テスタプラス両陣営とも最後の最後まで手を抜くことなく走り抜けた結果、残り10分を切ったタイミングでは完全に互角の状況になり、秒単位で1位と2位が入れ替わるまでに競り合うまでになってしまったのである。

 追い越そうとする者、逃げ切ろうとする者、そこに割って入ろうとする者、攻勢に出たかと思えば守勢に回らざるを得なくなり、ただの賑やかしで乱入してきた陣営に掻き回される。様々な思惑が入り乱れ、最終ラウンド開始時には想像もできなかった大混戦となっていた。

 しかし、この心臓に悪いわちゃわちゃとした状況となった時間帯こそが魔界での戦いにおける醍醐味であり、全ての陣営、プレイヤーにとってこの上なく楽しい時間となっていた。

 そうやって時間ギリギリに決着がついた戦いが全ての陣営で展開されるほどの白熱した戦いとなっていたために、最終結果が出るまで息の詰まる時間が続いていた。


 ……と。


「出た!」

 ランキングの最終集計結果が発表されるのと同時に、各地でどよめきが起こった。同じ場所に全員がそろっていたら、地が揺れるほどのものになっていたかもしれない。ハルマ達も、テスタプラス達も、チップ達も、スズコ達も、その他、この時間にログインしていたプレイヤー全員が、同じような顔をしていたことだろう。

「これって、どうなるんだ?」

 あちこちで、同じセリフが呟かれた。

 何しろ、ランキング1位のところには、ハルマ陣営だけでなく、テスタプラス陣営も同じポイントで並んでいたのだから……。


「おつかれさまー」

 魔界を後にし、ノーサイドとなった面々がスタンプの村に集まった。

 全員、やりきった充実感と蓄積された疲労感が溢れ、笑みとなってこぼれている。

「いやー。まさか、両陣営1位で〈魔界の覇者〉認定されるとはね」

 魔界での戦いが終わり、同じ陣営として奮闘してきた仲間達と最後の挨拶を交わしていると、だいぶ時間が経ってからアナウンスが表示された。

 ハルマ達、総大将パーティには〈魔界の覇者〉の称号が与えられ、それを支えたプレイヤーにも同じ陣営として過ごした期間や活躍具合によって〈覇者の忠臣〉や〈覇者の先兵〉などいくつかの称号の中からひとつ与えられたようである。

 また、この称号の種類によって、後日獲得できる報酬も変わってくるようだ。

 スタンプの村に集まった面々はそれぞれ健闘を称え合うと、話は自然とハルマ達のこれまでの動向に移っていった。

「あれって、NPCの反乱だったのかよ」

 チップは封魔の一族を取り込んだ方法を知り、呆れたように声を上げる。

「そのために桃太郎を探してたってこと?」

 コヤも真相を知ってゲンナリした表情になっている。

「いやー。結果的につながりましたけど、桃太郎を探してたのは魔物の砦にあったダンジョンの攻略に必要だっただけですよ?」

「「「「「「ちょっと待て」」」」」」

 さも当然のように口から飛び出た、聞いたこともない情報に、テスタプラス陣営だった者がそろって声を上げた。

 そこからしばらく、水の中では魔瘴の影響がないことから始まり、封魔の一族のエリアに侵入した経緯、それに伴って魔物の砦にも向かうことになり、その過程で見つかった様々な仕掛けを語ることになるのだった。


「は……。はははは。やっぱり、まともに相手しなくて良かった。こんなの、誰が予想できるんだよ」

 テスタプラスは引き攣った顔で、乾いた笑い声を上げてしまう。

「テスピー。誇りなさい。これを相手に肩を並べられたんだから。これは、もう、実質勝ったって言っても良いんじゃない?」

 スズコも同じような顔でテスタプラスを労う。実際、普通のプレイヤーでは、手も足も出なかったことであろう。

「でも、これだけがんばって、特別な報酬は〈魔界の覇者〉の称号ひとつだけって、ちょっと寂しいわねえ」

 すると、このコヤの言葉に対して首を傾げる人物が4人いた。

「〈魔界の覇者〉の称号ひとつだけ? 〈魔界を総べる者〉の称号は? あれって、みんなもらえたの?」

 4人を代表して、モカが問いかける。

「「「〈魔界を総べる者〉?」」」

 今度はこれに対してテスタプラス達が首を傾げる番となった。

「「「「あれ?」」」」

 話が噛み合わないことに互いに疑問符を頭上に浮かべるも、答えを見つけるのに時間はかからなかった。

「おい、ハルマ。ちょっと、その〈魔界を総べる者〉って称号の詳細を教えてくれないか?」

 チップの問いに、ハルマも意図をくみ取り、すぐに反応する。

「えーと? 人心を掌握し、魔界に安定をもたらした者に贈られる、らしいぞ?」

「そうか……。そういうことか」

 ハルマが説明文を読み上げると、すぐに納得したような声を上げたのは、テスタプラスだった。

「どういうこと?」

「僕達は、勘違いさせられていたんですよ。いやー。やられたなあ」

 スズコの問いかけに、テスタプラスは嘆息を吐き出しながら呟いた。

「勘違い?」

「〈魔界の覇者〉は、称号の説明にある通り、あくまでも『跋扈する英雄の頂点に立った者』にすぎないってことですよ。ラヴァンドラに依頼されていたのは、魔界の安定だというのにね。僕らは魔王同士の争いに終始してしまって、魔界で暮らす封魔の一族のことを失念してしまっていたんです」

「なるほど……。〈魔界の覇者〉は、言葉の通り覇者であり、〈魔界を総べる者〉は、王者といったところですね。確かに、わたし達、暴力的な覇道を極めたというよりも、仁徳による王道を突き進んだ結果って感じですからねえ。まあ、主にハルマ様のおかげですけど」

 ネマキは、人差し指を頬に当て、うんうんと満足そうに口にした。

「マジかよ。こんなの、ハルマ達以外、誰も獲れてないじゃないか?」

 チップも、ふたりの考察を聞いて、羨ましそうに親友に目を向ける。

「間違いなくそうでしょうね。封魔の一族がプレイヤーの陣営に加わったなんて情報、ハル君のところ以外はないもん」

 スズコも半ば呆れながら、この4人を組ませた判断は間違っていなかったと苦笑いを浮かべる。

 王者として認められた4人組が、最初は勝ち残るつもりがなかったことを知る者など、数少ない。

 どことなくのほほんとしたこの4人こそ、魔王の中でも王者に相応しいと言われても、異論が出ることはないかもしれない。そして、魔界で彼らほど存分に遊んだ者がいないのは間違いないだろう。そんなことを考えながら、テスタプラス陣営だった10人はどこか遠い目で自分達が相手していた4人の異質さを改めて実感しながら、そのまま夜が更けていくのだった。

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