Ver.7.1/第39話

 テスタプラス陣営によって大規模な作戦が実行されつつある中、ハルマ達はこれまで通り桃の実を探していた。

 そんな中、昨晩モカがダルクパラズを攻略してきた報告を受けることになった。


「キビ団子のレシピですか。これ、わたしも貰っちゃって構わないんですか?」

 ハルマとマカリナに比べて、ダルクパラズ攻略に貢献できていないと思っているネマキは、申し訳なさそうに告げる。

「良いんじゃない? どの道、うちだけじゃ挑戦すらできなかっただろうし、資格ありって認められたから人数分貰えたんだろうし」

「そういうことでしたら、ありがたく頂くとしますね。それで、大事な話とは?」

「まあ、まずは、そのレシピ覚えてよ。そしたら、だいたいわかってもらえると思うからさ」

 ニッシッシといった笑みを浮かべ促す様に、他の3人は小首を傾げるも、素直に従う。直後、モカの期待通りの反応が返ってきた。

「「「!?」」」

 パッと3人とも大きく目が見開かれ、互いに視線を交差させたかと思ったら、そのままの表情でモカに顔を向ける。

「にゃっはっは。そういうわけだよ。自分で作ったキビ団子じゃないと戦闘中は使えないみたいだから、気をつけてね」

 そのまま説明を受ける。

 フェンリルは戦闘エリアを縦横無尽に駆け回り、物理系の攻撃を仕掛けるのと同時に、ATKとDEFにデバフを与える。

 セイテンタイセイは分身を作ってプレイヤーへの攻撃を大幅にカットしてくれる盾となる。

 フェニックスは火属性の範囲ブレスによって相手にはダメージを、味方には蘇生と回復を行ってくれる。

 フェンリルは決まった行動が終わるまでは所狭しと動き続けるが、それでも滞在時間は短く、セイテンタイセイとフェニックスに至っては、役割を果たすとすぐに帰ってしまうようである。

「使いどころは限定的ですけど、相当使えますね。特に、フェニックスは属性を気にしないといけませんが、範囲蘇生だけでもかなり強力ですよ」

 簡単なレクチャーを受けると、ネマキはすぐにそれぞれの活用方法を思い浮かべているようである。

「だよね! うちは基本ソロだから、コナの回復やら蘇生やらにまで気を使えない時は、引っ込めて独りで戦うこともあったから、だいぶ助かる」

 モカも嬉しそうに使い道を口にする。

「でも、何でフェンリルとセイテンタイセイとフェニックスなんです? 神話の系統もバラバラですよ? 日本のRPGっぽいっていや、っぽいですけど」

 おそらく4人の中で、もっともキビ団子を使った際の恩恵が大きいであろうハルマが疑問を口にする。

「そうそう。それもあって、集まってもらったんだよ」

 モカはすでに犬猿キジの正体を知っているが、他の3人にはまだ伝えていなかった。合わせて、普通に呪浄の鏡を使ってしまっていいのか判断に迷っていたのだ。


「この子達がフェンリルとセイテンタイセイとフェニックスなんですか!? にしても、面白いギミックのバトルだったんですねえ」

 マカリナはモカの攻略話を聞き終えると、素直に驚きの声を上げた。

「ホントに大変だったよ。いや、別に苦労したってわけじゃないんだけど、突然、桃だからね。びっくりしすぎてしばらく何が起こってるのか理解できなかったもん」

「で、その赤鬼が使ったギミックと同じ鏡がドロップで出てきた、と」

「そうなんだよ。呪浄の鏡っていうんだけどね。たぶん、これ使ったら、この子達の呪いが解けると思うんだけど、どう思う? 使っちゃっていいかな?」

 赤鬼の討伐が終わったというのに、律儀に付き従ったままのお供3匹に視線を向けながら尋ねる。

「魔界限定アイテムみたいなんで、他に使う相手もいなさそうですから、いいんじゃないですかね?」

「わたしも使ってしまって構わないと思いますよ? 魔物の砦の攻略でお役御免でしたら、とっくにいなくなっていると思いますから」

「なるほど。そういうもんなのか」

 モカは4人の中では断トツにゲーム慣れしていない人物である。だからこそ、お約束を無視したりセオリーから外れた行動がとれるのだが、進んで道を踏み外そうと思って行動しているわけではないのだ。なので、意外に思われるのだが、助言には素直に従うことが多い。

 しかし、早速、呪浄の鏡を取り出し、使おうとしたところでピタリと止まる。

「どうしたんですか? 対象に選べないんです?」

 マカリナが不思議そうに声をかける。

「いや。赤鬼に使われた時にこの子達の呪い解けたけど、代わりにうちは桃になっちゃったでしょ? みんなも桃になっちゃうのかな? って思って。それはそれで、見てみたいけど」

「「「ああ……」」」

 どうしたものかと膝を付き合わせて議論した結果、モカ以外の3人とも、戦闘中でもないので桃になってみるのも面白そうだということになり、そのまま使うことになった。

「さて、魔界を揺るがすとんでもないお宝で、何が起こりますかねえ?」

 ハルマも、その瞬間をドキドキしながら待っていた。

「いくよー」

 掛け声に合わせて、その場の3人と3匹が煙に包まれた。

「おおう!」

 三者三様の反応を見せながら、3つの桃がその場にポフンと転がった。

 代わりに、犬猿キジの愛らしい姿は消え、フェンリル、セイテンタイセイ、フェニックスの神々しくも頼もしい姿へと変貌を遂げ、威風堂々とその場にたたずむ。


『我ら三神獣、ついに永き封印から解放された』

『新たなる桃太郎に祝福と感謝を贈る』

『ついては、我らにできる範囲で望みを叶えよう』

『さあ、何が望みだ?』

『魔界を征する優秀な指揮官か?』

『大軍を退ける兵器か?』

『頑強な居城か?』


「え? これ、うちが決めないといけない感じ?」

 急な展開にオロオロと転がっている桃に視線を向けてくるモカ。

「あらあら。何やら7つのボールを集めると願いが叶う的なことになりましたねえ」

「この3択って、かなり重要ですよね?」

 ネマキのユルイ感想と違い、マカリナは深刻そうな声で呟く。

「でも、指揮官はマーシラさんのままで十分じゃない? 最終ラウンドに入っても、城門すら突破されたことないんだから」

「それを言ってしまえば、頑強な居城も大軍を退ける兵器も必要ありませんよ? 城門すら突破されてない実績があるんですから。今の戦力のままでも他の陣営からしたら不気味の一言らしいですし」

「あれ? そう考えたら、どれも要らない?」

 マカリナもふたりの話を聞くうちに、気が抜けてきた。

「え? どれでもイイは、困るんだけど……」

 判断を委ねられそうになり、モカは困惑気味に助けを求める。

 この選択で得られるものは魔界での戦いを一変させる可能性があるものだ。少なくとも、簡単に条件をクリアできるものではないことを知っている上に、桃によって若返ったマーシラの件もある。

 ここの運営は、バランスを崩壊させることを簡単にやってしまうことが時々あることも、身に染みて理解しているつもりだ。

 逆に、下手な選択をすると大崩壊を招いてしまうかもしれないということも、重々承知しているわけである。

 今回の魔界での戦いのさいちゅうも、NPCの反乱という形で実際に反動が観測されている以上、ここで安易な選択は慎むべきだろう。

「そうは言いましてもねえ。強いて選ぶなら指揮官ですかねえ? でも、防御タイプだとマーシラさん以上になったとしても大差ないでしょうし、攻撃タイプの指揮官だとしても、今さらって感じなんですよねえ。明日には終わっちゃうし」

「だねー。しかも、明日は学校ある上に夜の10時までだから、実質今日までだもんね。最後の追い込みで、一波乱あるかな?」

「兵士もゴーレムを中心にした守りの編成しか使ってきていませんから、攻城向きの編成は勝手がわかりませんものね。他の陣営の方々に訊いたところで、似たようなものでしょうし」

 桃の姿のままであることも気にせず真剣に話し込むも、どれも自分達の陣営では上手いこと活用できないように感じていた。

「じゃあ、今まで通り守りに徹するとして、兵器か居城にして、更に防衛力を高めますか?」

 この4人にしては、無難過ぎる選択として些か物足りなく感じるが、最終的には落ち着くところに落ち着くかと思われた。

 そんな時だった。

「ところでモカさん。確認したいことがあるんですけど、いいですか?」

 どこか上の空になっていたマカリナが、ふと何かに気づき、声を上げたのだ。

「ん? 何?」

「いえ。ちょっとだけ気になったことがあるんですけどね……」

 この問いをキッカケに、流れは大きく変わることになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る