Ver.7.1/第22話
「うへぇ。テスピー達いるじゃん」
組合せが決まり、サーバーが決まった直後にゲンナリとした声を上げたのは、ハルマ陣営も同じようなものだった。
モカが思わず声を出してしまったのも、彼の才能を高く評価してのことである。
しかも、テスタプラスだけでなく、その配下にはスズコとチップという、こちらもできることなら対戦したくないと思っている面子がそろっているのだ。
自分達の陣営にも、名の知れた魔王経験者が複数人含まれているとはいえ、指揮官としての能力は自分達が劣ることを承知している。
「さすがに、本城のランク上げましょうか」
ハルマも苦笑いを浮かべながら提案する。
実は、第2ラウンドに入る前にも一度議題に上がったことがあるのだ。
しかし、その時は、敢えてランクを低くしておくことで狙い目であると思わせ、囮となって味方陣営を守ろうという作戦に落ち着いていた。
何しろ、第1ラウンドの最終盤に4万を超える陣営を相手にして完封してみせた堅牢さを誇る。
この作戦が功を奏したのかは定かではないが、ある程度は攻撃をハルマ陣営の本拠地に集めることができていた。
ところが、今回は何をしてくるのかわからない相手だ。
どんな想像もつかない手段でもって、こちらの戦力が無力化されるかわかったものではない。
そう。テスタプラスがハルマ達を恐れるように、ハルマ達もテスタプラスのことを恐れている。ただ、何をしてくるのかわからないという根本にあるものは、真逆といえるものだ。
ハルマの意識の外側から繰り出される予測不能の行動に対し、テスタプラスの場合は、無限にある選択肢の中からどんな緻密な計算によって導き出されたのか理解不能な行動にある。片や目的地を目指さずに遊び惚けているように見えて、気づけば誰よりも早くゴールにたどり着いている奇想天外さがあり、片や一見すると目的地とは別の場所を目指しているように見えて、誰よりも効率的にゴールにたどり着いている聡明さを見せつけるのだ。
やっていることもアプローチの方法も全く異なるというのに、第三者からは何をやっているのか理解できないということだけは共通している。
「そうですねえ。別に今のままでも簡単には攻め落とされないとは思いますが、わたしもモカ姉様もテスピーにはやられてますからねえ。今回は手堅く勝ちを目指すのも良いかもしれません」
実のところ、最終ラウンドを直前にしても、最高ランクまで耐久値を上げている陣営は少ない。城門だけ、城壁だけ、本城だけ、という陣営ですら数えるほどだ。
魔界限定の素材が集まり切らないということもあるが、単純に資金面で高いハードルが設けられているというのが最大の問題点である。この辺の仕様は、先々のことも考えての設定になっているらしく、個人の資産では簡単に到達できない金額を消費しなければならない。
勝ち上がってきている陣営は、多くが3人から4人のパーティだ。
何かひとつでも最高ランクに上げるには、それぞれ100万から120万ゴールドの支払いが必要になる。つまりは、それだけでもひとり30万ゴールド前後が消えてしまう。そうでなくとも、ランク2まで上げるのに総額で300万ゴールド以上が消えてしまっているのだ。
日に一度、NPCの納税分から一定の額が戻ってくるとはいっても、配信で寄付を集められるプレイヤーでもない限り、簡単に支払える額ではない。
それでも、総大将を守るために配下から寄付が集まりそうなものなのだが、たかだか2週間程度の付き合いしかない相手に、そこまでの信頼を寄せられるものではない。少額の寄付は集まるものの、本城エリア全体を強化させるには程遠い陣営がほとんどなのだ。
魔界の戦いが期間限定でないのなら、もう少し話も変わるのだろうが、次回に持ち越されないことはすでに説明されている上に、1週間も経たずに魔界も閉鎖されてしまう。今後の活動も考慮すれば、気前よく所持金の大半を使えるプレイヤーはほとんどいないのが現状である。
その点、ハルマ陣営を支える味方からは、最初のうちは次から次に寄付の申し出が届いていたのだが、全て断っていた。
ハルマ陣営が本城エリアを強化していないのは、資金不足だと思っていた者が多かったというのが原因だが、実際はそんなことはなく、かなり余裕があった。
単純に、施設の耐久値を上げるよりも、モンスターの強化に素材を回した方が手軽であるだけだ。そもそも、モンスターの強化に貴重な素材を使ってしまっているので、本城エリアのランクを上げるために必要な数が足りていない。このことにハルマ達の城下町を訪れ、ゴーレムの秘密に気づいた者から順に思い至ることになり、次第に申し出もなくなっていったという経緯がある。
「じゃあ、一応ランク2までは上げるとして、後は今まで通り? テスピーが相手じゃ、それ以上対策しても無駄っぽいもんね」
「忌々しいですが、こちらが気づいた時にはすでに手遅れでしょうからねえ。勝ちを目指すなら、無視を決め込むくらいじゃないと気が持たないかもしれませんね。あの人のことだから、こっちが何か仕掛けたのに合わせて華麗なカウンターを仕込んでると考えた方が賢明でしょうし」
モカもネマキも、直接対決では勝負を決めにいったタイミングで完璧に無力化された経験がある。そういう潮目を読む能力もずば抜けていると感じていた。
こうして、奇しくも両陣営とも互いに意識し合いながらも手を出し合わないという構図が出来上がってしまう。
「チップなんかは、俺達にテスタプラスさん達を倒して欲しいと思ってそうですけど、さすがに守るので精一杯でしょうね」
「そうだねえ。テスピーだけ相手にしていれば良いわけでもないもんね。それに、ハルちゃんはまだ桃太郎探すんでしょ? 戦況に合わせて設定変えてる暇はなさそうだよね」
「そうですね。桃太郎も気になってますけど、あっちの城下町も色々と手がかかって面白いんですよねえ。残り時間もあんまりないから、どこまでできるのか? って感じではありますけど」
「最終ラウンドが始まってしまえば、残りは5日ですもんね。リナさんも序盤は忙しいでしょうから、モカ姉様も行かれますか? こちらのことはわたしに任せていただければ、問題ないでしょうから。本当は、わたしも行きたいところですが、わたしのAGIではどうも間に合わなさそうですので、大人しくお留守番してますね」
「あー、そうだね。うちもそろそろ行ってみるよ。始まっちゃえば、あっという間だもんね」
「じゃあ、お願いしましょうかね? 前に、俺が調べたところは教えてありますけど、あんまり気にせず、好きにやってください」
「ほい。テキトーに動き回って大丈夫?」
「そうですね。けっこう制限あるんで、どこまでやれるのかわかりませんけど」
「オッケー。じゃあ、リナちゃんに頼まれてること終わらせたら、行ってみるね」
「はい。お願いします。あ! 制限時間あるんで、そこは忘れないでくださいね」
「ほーい」
これを第三者が聞いていたら、何か不穏なことが起こっていると戦々恐々となっていたことであろう。
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