Ver.7.1/第2話

『フィールドを掘るって、どうすればイイんですか? 武器で地面叩けば掘れるんですかね?』

 どうやらハルマ達が語る内容は冗談ではなく、本気のアドバイスであるぞ? と、じわじわ浸透し始めたところで、再度質問が寄せられる。

 ハルマやマカリナにとっては、ツルハシで〈採掘〉することが当たり前になっているので、掘るという作業は馴染みのある行為である。それでも、マカリナでもフィールドの地面を掘るという発想に思い至ることはなかったほどだ。

 通常のフィールドでは、多くのプレイヤーが同時に冒険していることもあり、個人の都合で勝手に変化させることは許されない。道端の小石を蹴飛ばすことすらできないのだ。

 Greenhorn-onlineというゲームでは、そもそも地形を変化させることはできないというのが前提であるので、魔界のフィールドに手を加えられると思う方がどうかしている。

 ただし、水の張られていない外堀と、近くを流れる川を目にすれば、つなげれば良いのではないか? と、思いつくのは珍しい反応ではないはずだ。

 思いついても、フィールドに影響を及ぼすアイテムを見つけられず、断念している者がほとんどなだけである。

 マカリナも、城壁の上から外堀と川の位置関係を目にしていたら、おそらくハルマと同じような行動に移ったことだろう。

 要は、穴を掘れるアイテムを持っているか持っていないか、という問題でしかない。

『もっと良い道具を持っていたら代用も可能ですが、NPCから教えてもらえる花壇のレシピの中にスコップがあるので、それが使えます。ただ、サイズが小さいので効率は良くなくて、人手と時間が必要になるとは思います』

 魔界で教えてもらえるスコップのレシピは、実用品としてのアイテムではなく、ただの飾りであると思われている。

 何しろ、花壇はレシピによって作られ、エクステリアの鉢植えの扱いに近い。部屋の中でベッドやソファーを動かすように、一度配置しても、好きな位置に移動させることができるのだ。

 花壇に咲く花もいくつかパターンが決められており、景観や好みに合わせてプレイヤーが選択できる。つまりは、スコップを使ってタネを植え、育てる必要はないのだ。よって、スコップの主な役割は、花壇の脇に置くなどして雰囲気作りに使われる程度であるはずだった。これを使って、実際に穴が掘れることに気づいているプレイヤーが少ないのも無理はない。

 とはいえ、ハルマの話す通り、効率はあまり良くなく、ツルハシと同程度だ。これは、ハルマも試しているので間違いない。

『やってみた感じだと、まずは最短ルート上にある木を伐採してから、水路にしていくのが良いと思います。ちなみに、小さめの木の場合は、スコップを使ってそのままインベントリに入れられるので、城下町に植樹もできますよ』

 ハルマは知らない。

 良かれと思って追記した内容を読んだ多くのプレイヤーが、同じことを思い浮かべていることを。


 同じゲームをしてるんだよな?


 という、素朴な感情が駆け巡っていることを。

 そういうわけで、またしても変な間が生まれ、ハルマ達は頭上にクエスチョンマークを浮かべることになる。

『えっと……。伐採は、どうすれば……?』

 辛うじて反応できたプレイヤーが、絞り出すように問いかけてきた。しかし、これに答えたのはハルマではなかった。

『あ!? 俺、斧使いなんですけど、森の中で戦った時、伐採できましたよ! あれって、そういうことだったのか。他の武器使ってる仲間は、そんなことなかったから、変だとは思ってたんですよね』

 Greenhorn-onlineの武器種は様々だ。初期装備でも両手剣、片手剣、短剣、両手斧、片手斧、短槍、長槍、弓、ブーメラン、ツメ、ムチ、杖、魔法書とある上に、レシピによって細分化や発展もされるので、更に増えている。

 ハンゾウもデフォルトで所持していた短剣と投擲の複合武器である円月輪に加え、投擲、短剣、ムチの複合武器であるくさりがまも使うようになっている。プレイヤーも、様々に発展細分化された武器を活用するようになっているのだ。

 ごりっごりの前衛アタッカーは多い方とはいえ、剣、斧、槍など武器の選択肢も多いので、純粋な斧使いとなると数は限られてくる。

 ハルマが斧を持っていたのも、蘇生薬の素材集めで副次的に手に入れていたからに過ぎない。まあ、そんなことを他の陣営のプレイヤーが知るはずもないので、ハルマが斧も使いこなすプレイヤーなのか? と、変な勘繰りをされることになるのだが、それはまた別の話である。

 森林エリアでの戦闘は、状態異常攻撃が主体の厄介な虫系モンスターが多い上に見通しも悪いことで嫌厭されがちだ。しかも、戦闘になったとしても、森林エリアに入ってすぐということはあまりないため、同じ場所を何度も通るということも少ないのだろう。

 伐採を経験したプレイヤーも、再度同じ場所を通ることは稀なため、フィールドへの影響が永続的なことに気づかないのも仕方がない。

『ですね。斧が使えるなら斧で伐採した方が良いと思います。一部の風魔法でも可能なんですが、1本1本だとMP消費半端ないですし、範囲魔法使うと、魔界の仕様のせいで大惨事になるのでオススメしません』

 ハルマの書き込みに、ネマキが音の出ない口笛を吹きながら視線を逸らす。

 モカの情報を元に、フィールドに人工の洞くつを掘ることになったのだが、森林エリアだと虫系モンスターの巣穴にしかならないだろうと、平原エリアまで向かうことになった。

 その際、南門から真っ直ぐ森を抜けた場所に掘ることにしたのだが、森をいちいち抜けるのも面倒だからと、人工の街道も作ることになったのだ。

 その際、たまたま風魔法でも伐採が可能なことは判明したのだが、その後が悪かった。

 ネマキが覚えたての風魔法を使って一気に道を切り開いたのだが、覚えたてとは言え、業火の大魔導士と称される人物である。しかも、魔界では通常の範囲を超えて魔法の影響が出る仕様だ。

 そーれ! と放たれた最低ランクの風魔法であっても、ぽっかり森に空白地帯が生まれる結果になってしまったのだ。

 その際、「てへっ」と、かわいく舌を出して笑顔を浮かべていたが、本人も大失敗という認識はあったようである。

 ともあれ、こうしてハルマ陣営に新たに加わった仲間達の拠点も、1ランク上の防衛力を得ることになるのであった。

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