Ver.7.0/第18話

 城下町エリアは広い。

 プレオープンの時は、ゴールドを払って拡張しなければならなかったが、正式オープン後は最初から全てのスペースが解放されているので、AGIの低いハルマでは端から端へ移動するにも数十分を要するほどだ。

 その分、エリアのほとんどが瓦礫の山で埋め尽くされているため、撤去した上で使えるスペースを確保するのは、なかなか骨の折れる作業となりそうだと思っていた。

「モカさん達が先に更地にしておいてくれたのか。助かる」

 通常サーバーで建物類を撤去するには〈大工〉スキルの要となる〈大きな木づち〉系統の専用アイテムが必要なのだが、魔界では戦闘と同じように攻撃することで撤去できる。この方法だと素材への再利用や建材の回収ができないので、一度作った建物を移動させるのには向かないが、まだ手付かずの状態だったので、問題ないだろう。

「ん? いや、完全に更地にしてるわけじゃなくて、あちこち瓦礫が残ってるな。っていうか、特定の場所だけ更地にしてないか? そういや、やりすぎないように加減したっぽいこと言ってたな」

 パッと見、キレイに整地されて見えたが、それは中心地付近だけで、少し移動してみると違和感を覚えるようになった。

 魔界の拠点内に転移地点は4か所用意されており、本城の玉座の間、城下町の中心地、城下町の南門と東門にある。

 見てみると、中心地の転移地点から南門と東門に向けて一直線に更地になっている。これはわかる。自分達がフィールドに向かうには、どちらかの転移地点へと飛べば良いだけなので道は必要ないが、町を作るとなると門から延びる大通りを基本にするのが自然だろう。

 なので、とっかかりとして門に向かって一直線に突き進んだのは理解できる。その延長で、北と西へ向かい、中心地から十字に道が出来上がっているのも、自然な流れだろう。それに、北へのルートは本城につながるので、最初にラヴァンドラに案内された道があったので、幅を広げた程度である。

 マカリナは道が整備されていないと話していたが、それだけ職人設備が置かれている場所は点在しているということなのだろう。

 問題は、ここからだ。

「なんで、あそこの一角だけぽっかり空き地になってるんだ?」

 城下町にひとつだけ用意されている湖に隣接する場所だけが広く開けた場所になっている。

 どういうことだろうかとしばらく考え込んでしまったが、答えはシンプルなものにたどり着く。

「あそこにリゾートホテル作りたいって主張、か?」

 城下町に海は隣接していない。水場の景観を確保したいと思ったら、あそこしかなかったのだろう。

 このことに思い至り、微苦笑を浮かべてしまう。

「にしては、欲張りすぎじゃないか?」

 大型商業施設を完全再現してもかなり余ってしまう広さだ。ハルマでも、この広さを使い切ろうと思ったら、かなりの時間と労力を必要とするだろう。

 反面、一体どんなものを作り上げるのか、楽しみでもあった。

 ネマキが確保している範囲が分かる程度に柵で囲い、残るエリアを見て回る。あちこちに職人用の設備や数少ない住人が暮らす家屋が残っている所もあるが、やはり使い勝手は悪そうだ。

「やっぱり、まずは生産工房からだな。それにしても、ネマキさんが場所を確保してるのはわかるとして、あそこはモカさんだよな? それとも、リナの方か?」

 湖とは別の場所にも大きな空き地ができていたが、こちらはこれといった特殊な目印も何もない。作業の途中で飽きたのかという雰囲気もあるのだが、わざわざ足を運んで空き地にしたとしか思えないほど、周囲の瓦礫の山はそのままにしてあったのだ。

「どちらかと言えばリナの方だろうけど、何も言ってなかったもんなあ」

 大雑把に城下町エリアを見て回った後で中心地に転移で戻る。すぐ近くに立派とは呼べない建物があるが、魔界に来た直後に目にしたもので、使っている雰囲気がなかったものだ。しかし、本城で城主を登録した後に向かうと、少しだけ手が加えられており、町長NPCのムルチが滞在するようになっていた。

 こちらは、場所こそ移動させられないが、手を加えて立派なものに変更できるらしい。

「生産工房は転移場所の近くに欲しいから、町長の家の隣で良いか?」

 城下町の全体像をぼんやりと考えながら、欠かせない設備である職人作業ができる場所をどこにするか決める。この辺りは整地もほとんど終わっているので、すぐに建てられるのも大きい。

「うーん。生産工房以外に、何か必要なものあるのかなあ? これだけ広ければ、けっこうな種類の施設作れそうだけど……。プレオープンの時は何作ったら変化あったっけなあ? テキトーに色々作ったから、あんまり覚えてないんだよな。町長にでも相談してみるか? 確か、色々教えてくれるって話だったよな」

 NPCから情報を引き出すのではなく、相談するという発想がナチュラルに浮かぶのは、やはりハルマの稀有な特徴のひとつといえるだろう。

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