Ver.7.0/第19話
「城下町に欲しいものですか……」
町長NPCであるムルチを訪ね、率直に何が欲しいを尋ねてみると、思っていた以上にリクエストとして返ってきた。
「何もかも不足しているというのが正直なところですが、町の発展に合わせて移住してくる者もいるでしょうから、移住者用の家屋は必要になりますかね。ただ、我ら一族はそういった作業には慣れていますので、場所を指定していただけたら、後はこちらでやりますよ。そうだ。これを渡しておきますね」
そう言って渡してきたのは、〈木の立て札〉だった。
受け取った直後に、レシピも覚える。当然のことながら、魔界専用のレシピだ。
「なるほど。〈木の立て札〉に必要事項を入力してから素材入れて空き地に立てておけば、後は勝手に作ってくれるのか。便利だな。って、立て札なのに素材を入れられるってどういうこと? 楽だからイイけど……。ボックス付きの立て札なのか?」
ただし、この方法で作れるのは、小さいサイズの家屋だけであるようだ。それでも、作られた家屋は住居以外に酒場やレストラン、商店として使うことができるらしい。シンプルなアイテムの割に、面倒な作業はだいぶ簡略化できそうだ。
「最初は、住民を増やすために住居が必要になってくるでしょうが、兵士の住み家として大型の宿舎も欲しいですね。あとは、各地を巡る行商人のための宿屋、住民や兵士のための病院、憩いの場となる公園などもゆくゆくは欲しいところですな。それとは別に、兵士の種族によって好みの環境も変わってきますので、兵士の強化のために環境を整えるのも良いかもしれません」
これを受けて、次々と施設として認定される条件を覚えていく。
「懐かしいな。宿屋として認定させる方法は、スタンプの村の時と同じだ」
宿舎に必要な条件は大サイズの建物に10以上の部屋を作り、各部屋に寝床と棚を準備し、看板を設置。
宿屋に必要な条件も宿舎と同じようなもので、こちらの方が中サイズで済むため少し簡単だ。ただ、宿舎と違い、受付となるスペースと専用のアイテムをいくつか用意する必要がある。
病院に必要となるのは、治療に使う部屋と、安静にしておくためのベッドが置かれた個室、そして、回復アイテムを保管しておく部屋。この3つがひとつの建物の中にそろっていることだった。
公園に必要な条件は、大サイズの建物が立てられる空き地にベンチを5つ、花壇を3つ、噴水を1つ設置すること。この花壇と噴水のレシピも、同時に覚える。
教えられた内容をひとつずつ確認するも、兵士の種族による好みにかんしては触れられていないことに気づく。
「好みの環境……か。生息エリアに似た環境でいいのか?」
虫系などは森を作れば良さそうだとイメージできるが、草原や平原で暮らす亜人系や獣系はいまいちイメージできない。そもそも、町中に森を作れるのかも不明なため、頭を悩ますことになってしまった。
「で? 何、これ?」
マカリナが再び魔界に戻ってくると、目の前の景色が一変していたことに目を丸くする。
町長の執務室がある建物が豪華になっているのは、何となく理解できる。確かに、これだけの広さの城下町を総べる者が暮らすにしては貧相なものだった上に、転移してくるたびに目に入るので、気にはなっていた。
問題は、その隣に建てられた巨大な建造物だった。確かに土地は有り余っている状態なので、城と見間違うサイズの建物を作っても構わないのだが、おかげで、せっかく改装した町長宅の豪華さが陰に隠れてしまっていた。
「何って、リナがリクエストしたんじゃないか」
「え!? ってことは、これ工房なの?」
中央に大きな建物があり、左右にすこし小ぶりの建物が併設されている。ただ、小ぶりとはいっても、中央のものに比べたら、という意味で、実際には郊外にあるコンビニ3店舗くらいの大きさがある。
「素材置き場に出来上がったものの保管庫、休憩室も一緒に作ったら、この大きさになっちゃったんだよ。俺達とNPC用の作業場も分けないとだし」
「倉庫と保管庫が必要なのはわかるけど、休憩室?」
「忘れたのか? ここで主に作業するのは、俺達じゃなくてNPCだぞ?」
「ああ、そっか。それで、この大きさなのね」
マカリナもようやく意図を理解した。
職人スキルがなくとも武器や防具を作ることができるとはいっても、兵士の数は万を超える。さすがにプレイヤーだけでは賄いきれない。
そのため、移住してきたNPCに手伝ってもらうのだが、そうなると小さな建物では作業効率が落ちてしまうことを、プレオープンの時に学んでいた。
……しかし。
「いや。それでも、NPCって休憩とったっけ?」
「え? ああ、まあ、そこは……、何となくNPCも休みが欲しいんじゃないかって勝手に思っただけだけど……」
ハルマの返答にジト目を向けるマカリナだったが、実際、この休憩所が併設されていることで、NPCの作業効率が上がる効果があることを知る由もなかった。
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