第2章 三皇再び

Ver.7.0/第7話

 10月に入ってすぐ、宣言通りに魔界への道が開かれた。

 クラス追加に賑わい、追加したクラスの熟練度上げに勤しんできたプレイヤーの多くも、これからひと月ほどは魔界での活動にシフトを移すことになる。

 ただ、事前に知らされていたこともあり、PVPほど直接的なタイプではないものの、プレイヤー同士が競い合うコンテンツに対して、少なからず抵抗を感じている者もおり、ソロサーバーを選択する者も少なくない。ただ、短期決戦で第3ラウンドまで戦う中、中盤の第2ラウンドが始まってから発生する大規模襲撃イベントでは大量の経験値と熟練度を稼げることが匂わされているので、そこまで参加するかを迷っているプレイヤーも多いようだ。

 魔界での成績によっては〈魔王イベント〉への道が開かれるとはいっても、スタンプの村の住民は多くが実力で魔王を狙える、もしくは、最初から狙っていない者ばかりであるため、真剣に〈魔界の覇者〉を目指している様子はない。

 それでも、初めてのコンテンツに対して、存分に楽しもうと初日から魔界へと向かう者がほとんどであるようだ。


 魔界での話は、プレオープンの時と同じく、ラヴァンドラによって召喚されるところから始まる。

 プレオープンの時には勇者として召喚されたような雰囲気であったが、新たな魔王として召喚されたことが説明され、混沌とする魔界を統一してもらえないかと懇願されることで立ち上がるわけだ。

 ラヴァンドラは、先代魔王によって支配される以前から魔界で暮らす封魔の一族の研究者。本来であれば、封魔の一族として、魔界を取り戻すことを目標に生きてきたのだが、肝心の封魔の一族も結束が崩れ、各地で細々と勢力を維持するばかりとなっているらしい。

 このままでは、一族は魔物に蹂躙され、魔界を取り戻すどころか、滅亡の危機であると魔王召喚に踏み切った、という設定のようである。

 プレイヤーは、ラヴァンドラに賛同した封魔の一族とともに、限られたエリアと荒廃した拠点を頼りに、魔界の平定を目指すことになるわけだ。


 まずは準備期間が1週間設けられ、その間に荒廃した拠点の修復と強化を行い、兵士を集めることから始まる。

 この1週間は他のプレイヤーの拠点を攻めることはできないし、モンスターの勢力も封魔の一族の勢力も襲ってくることはない。

 ただし、魔界の滞在時間が12時間を超えた段階で、エリア所有者の証であるフラッグを獲得し、プレイヤー情報が公開されるようになり、同じサーバーにいる他のプレイヤーに、どこに誰がどれだけの規模の陣営を構えているのか開示されるようになる。この段階で、モンスターの勢力と封魔の一族の勢力も把握できるようになるようだ。

 また、制限が設けられると話していた通り、魔界での活動には色々と独自のルールが存在する。

 プレオープンの時も、フィールドではHPがじわじわと減少していたが、それは廃止され、明確な制限時間が設けられた。ただし、魔界に漂う魔瘴に適応できないためという部分は残っており、活動限界も魔瘴に耐えられる限界時間という意味合いであるようだ。そのため、〈ドアーズ〉で使用された満腹メーターと同じように魔瘴の蓄積メーターが存在し、1分に1メモリずつ増えていく。これが満タンになると耐えられなくなる。

 魔瘴メーターの最大メモリは180で、つまりは、フィールドでの活動限界は、連続3時間までということになる。

 3時間が経過し魔瘴メーターが満タンになった段階で警告が表示され、3分以内――戦闘中であっても――に拠点に戻らなければ、空腹システムと違い、即刻死亡となり死に戻りとなる。その際、フィールドにいた時に得られたものは、全てが消失する重いペナルティが発生する。

 魔界での戦いに必要になるのは、他のエリアを攻め落とすための戦力なのだが、兵士は魔界で捕獲したモンスターが当てられる。また、拠点や兵士の強化には、魔界で採取できる素材も必要なため、これら全てがデスペナルティで消えてしまうのは、可能な限り避けるべきだろう。

 当然、このデスペナルティには、経験値や熟練度といったものも含まれる。

 魔瘴メーターは、フィールドから戻ると徐々に回復するが、満タンの状態から魔瘴が完全に抜けるのには21時間を要する。つまるところ、1日の活動時間は、3時間が目安というわけだ。むろん、こまめに拠点に引き返すことでメーターを減らし、活動時間をある程度延長させることも可能だ。また、ログアウトの時間が長くなればなるほど回復も早まる仕組みになっている。


 プレオープンの時には、外部サーバーから素材や材料を持込むことができなかったが、正式オープンからは持ち込めるようになっている。

 ただし、魔界でしか採取できない素材もあることも知らされているので、魔界での採取を省くことは実質避けられない。

 また、生産分野にかんしては、大きな変更点があった。

 レシピは魔界専用のものに限定され、生産職系のスキルを持たないプレイヤーでも、魔界では職人作業が行えるようになっていたのだ。当然のことだが、生産職のスキルも魔界で使用可能なため、スキルの有無で差が生じることに変わりはない。

 このことから、魔界でも生産職の役割の大きさが窺える。

 とはいえ、生産職の役割が大きいからと安易にパーティメンバーを増やすのが得策かと言うと難しいところだ。

 パーティを組んで参加することもできるが、パーティ人数が増える毎に拠点、主に攻防戦の主戦場となる本城エリアの規模が小さくなるからである。

 本城エリアの大きさは、耐久度に直結するため、可能な限り少人数でのパーティで挑みたい。

 ……のだが、拠点の強化には素材を集めるだけでなく、一定額のゴールドも必要になる。その場合、パーティ人数が多い方が一人当たりの負担は軽くできる。何しろ、プレオープンの時と違い、消費したゴールドは、今回は返還されないのだ。

 そういったところから、すでに戦いは始まっていると言えよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る