Ver.7.0/第6話

「確か、ここのボスって、水系の範囲攻撃がメインって話だったよな」

 

 翌日、新たなレベル上げの場所を目指して、未開放エリアに向かうことにした。

 フラムフエゴのPVPエリアで続けても良かったのだが、クラス追加によって新規プレイヤーも増えたらしく、たった数日離れている内に再び賑わい始めていたのだ。

 確かに、ユキチなどは初日でレベル20を超えていたので、アプデ後に始めた新規プレイヤーが、クラス追加を目指すために向かうには手頃な場所だ。

 ただ、レベル40まで上げるとなると、獲得経験値の上限が解放されたとはいっても簡単な話ではない。

 今後も新規プレイヤーの数は増え続けることは容易に予想できたため、あまり気を張らずに過ごせるエリアに移りたくなったというわけである。

 加えて、せっかく水属性の耐性が100%に達したのだから、試してみたくなったというのも否定できない。


 向かっているのは、先日アクアに出会ったマァグラセの隣のエリア、ヴァッサイドである。ここは、土の大陸のロシャロカと同列のエリアなので、現在は人気のエリアだ。ただ、ここのエリアボスの攻撃が範囲の属性攻撃主体のため、物理攻撃主体だったロシャロカ入りを阻むエリアボスに比べて、難易度が高いと感じているプレイヤーも多かった。

 実のところ、ハルマもそんなプレイヤーのひとりだ。

 光の大陸のカサロストイと並んで、遅れて開放されたエリアとはいえ、ハルマが未だに足を延ばしていないのは、そういう理由もあった。

「結局、〈大天狗召喚〉も試せてないから、エリアボスで使ってみるかな。そういえば、クラーケン倒してるけど、そもそもボス出るのか?」

 この日は、エリアボスを抜けた後は、チップに聞いていた場所に向かって、レベル上げに専念するつもりである。熟練度上げには向かないが、レベル上げだったら良さそうな相手がいると、教えてもらっていたのだ。

 そのため、ログインしても、日課を済ませた以外は余計な散策はせず、脇目もふらずに出かけたほどだ。


『エリアボス〈アメフラシ〉の討伐に成功しました。ヴァッサイド地方に自由に進むことができるようになりました』


「しまった……」

 水属性の耐性を確認しようと様子見していたら、気づけば討伐してしまっていた。

 手加減を指示するのを忘れていたのだ。

 特殊な行動をとって欲しい時は指示を出すが、レベル上げが念頭にあったことで、討伐を優先する設定にしたままだったのである。そうでなくともハルマの連れているNPCはAIが優秀なので、かなり自立した行動をとってくれる。普段は倒すことを優先しているので何の問題もなかったのだが、いくつか検証したいと考えていた今回に限っては、些か頼もしすぎた。

 現実世界にも存在するアメフラシをデフォルメし、トワネ並みの大きさになったエリアボスは、名前の通りひっきりなしに雨を降らせた。もちろん、ただの雨ではなく、当たればダメージを受けるものだ。

 イシツブテならぬ、ミズツブテといったところだろうか。

 本来であれば、イシツブテと違ってガードできない攻撃として、ハルマに無数の多段攻撃によるダメージが入ったのだろうが、さすがは水耐性100%である。

 見事にアメフラシの攻撃を無効化してくれた。

 ただ、100%の耐性があるのはハルマ以外にはユララだけなので、ユララ以外のNPCは容易には近づけないと思っていたのだが、そうでもなかった。

 ヤタジャオースはアイスドラゴンとして高い水属性の耐性を有しているし、アクアもマーメイドなのでシャワーでも浴びているかのような振る舞いを見せる。

 シャムとバボンも比較的耐性は高いようだ。

 一番の驚きは、ハンゾウがぬるっとアクアに変化したことだった。

「アクアも人型に入るのかあ。そりゃ、そうか。人族って言ってたもんな」

 ハンゾウの変化の術で姿を変えられるのは、対象が人型に限られる。今までは、ハルマ、ズキン、ニノエだけだったのだが、アクアも対象に追加されていたらしい。

 むろん、アクア特有の魔法やスキルが使えるわけではないので、アイスゴーレムを作れるわけでもなければ、雷神の槍を使えるわけでもない。水魔法そのものは使えるとはいえ、アメフラシも水耐性は高く、あまり威力を発揮できなかった。それでも、マーメイドとなったことで、水属性への耐性は受け継いだらしく、得意の接近戦で威力を発揮してくれたのである。

 おかげで、ズキンに〈大天狗召喚〉を頼む暇もないまま、戦闘は終わってしまったのだ。


 結局、この日は、当初の予定通り、チップに紹介された場所でレベル上げに専念することにした。

 クラスの熟練度を上げるにはレベル上げ同様、ただ戦闘を繰り返すだけでは効率が悪く、クラス専用のスキルを駆使して戦う必要がある。その点、ハルマが紹介されたモンスターは、少々強すぎた。

 熟練度の上がっていないクラスのスキルでは効果が弱く、熟練度を上げるのには不向きなスキルや魔法を使わなければならないのだ。

 そのため、経験値は美味しいものの、クラスを追加したばかりのプレイヤーには不人気となっており、ハルマにとっては格好の相手となっていたのだ。

 ハルマもここでのレベル上げが気に入り、魔界が開放されるまで、しばらく通い続けることになるのだった。

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