Ver.7.0/第4話

 ゼレアム。火の大陸の森の守り神にして、自称世界一の音楽プロデューサー。

 そんな彼を目にしたノイジィファクトリーの3人は、驚きの表情を作り出した。

「「「プロデューサー!?」」」

 自称だけでなく、ちゃんとプロデューサーとして認識されていたようだ。

 3人は、先ほどまでの不満そうな表情を引っ込め、嬉々として駆け寄ってきた。

「どうしたのデースか? 何やら、揉めていたみたいデースが」

「うむ。それがのお……」

 

 3人の話を聞いてみた結果。

 ナルカミは、ここに来る前に聞いた太鼓の音が、自分の出す音よりもすごかったことで物足りなさを感じている。

 コンバスは、ここに来る前にやった人間とのセッションと比べ、物足りなさを感じている。

 ジェイは、そんなふたりの出す音に合わせることができずに困惑している。


「だいたい俺のせいじゃねーか」

 身に覚えがありすぎて、他に原因が思い当たらない。

 そんなことを考えていると、ようやくハルマに気づいたらしく、3人がハルマに視線を向けてきた。

「君は!?」

「お前さんは!?」

「やあ、いらっしゃい」

 向けられた視線はしかし、それぞれ違った種類に感じられた。

 興奮、歓喜、歓迎といったところか。

「ど……どうも」

 この後、どういう流れになるのかドキドキしながら挨拶する。

「もう知っているみたいデースが、こちら、ハルマちゃんなのデース。ミーが今後、プロデュースする新人ちゃんなのデース!」

「そういう扱いなの!?」

 突然の紹介というか宣言に、ゼレアムに思わず視線を向ける。しかし、驚いている余裕はなかった。何しろ、直後にコンバスとナルカミに詰め寄られ、演奏することを懇願されてしまったからだ。

「落ち着くのデース。ハルマちゃんもビックリしちゃってるのデース」

「ビックリしてるのは、ゼレアムにもだけどな?」

 抗議の視線を向けるも、どうにもゼレアムはマイペースなキャラらしく、あっさりスルーされてしまう。

「ッンフー! 話は粗方把握したのデース。とりあえず、ハルマちゃんの演奏を大人しく聴くのデース!」

 ずいぶん強引だなと思っていると、勝手にロックギターが取り出されてしまった。どうやら、強制イベントの類らしい。

 ただ、そのまま様子を見ていても、勝手に演奏まではスタートさせてはくれないようだ。

 そんなハルマに対して、NPC達の期待の眼差しだけが圧をかけてくる。

「わ、わかったよ。やるよ。ちょっと待って」

 ただ黙って見つめられているだけだというのに、相手もNPCだというのに、妙に焦らされてしまう。この1年で、すっかりNPCに対する考えが変化した結果だ。

 もはや、無機質なデータだけの存在とは、とてもじゃないが思えない。

「何を演奏すればイイんだ?」

 ロックギターは勝手に取り出されたが、選曲まではやってくれていない。通常の〈演奏〉と同じく、視界の中に曲の一覧が表示されているだけである。この中から曲を選び、タップして決めた後に、演奏体勢をとって弦を弾けば、それ以降はスキルのアシストで勝手に曲を奏でてくれる。

 何を求められているのかハッキリしないが、ゼレアムを仲間に入れることになったキッカケの曲で問題なかろうと、最高難易度のものを選択することにした。


 演奏が鳴り止み、しばしの静寂が訪れた。

 そうかと思ったら、再びゼレアムが全身から火を吹き出し、〈ファイアーワークス〉を戦闘中でもないのに展開させてしまう。

 どうやら、満足してもらえたようだ。

 他の面々はどうかというと、ゼレアム以外の仲間NPC達も、にこやかな表情を浮かべているので、好評だったことが窺える。

 ただ、問題のノイジィファクトリーの3人は、円陣を組むように集まって討論を始めてしまっていた。

 どことなく深刻そうな話し合いをしているため、喜んでもらえたのかも不明であるが、そこはゼレアムの出番であった。

「どうデースか!? ハルマちゃんの演奏、ハンパないのデース!」

 ゼレアムの呼びかけに、3人はおずおずと視線を向けてくる。

「私が伝授したというのに、悔しいが、すでに私よりも腕は上だと認めざるを得ないようです。ふたりが、私の腕が落ちたと感じたのも、納得です」

 ジェイが物憂げな雰囲気で告げてきた。どことなく悲壮感の漂う姿に、スキルに頼り切りの演奏をしている身としては、申し訳ない気分の方が強くなる。

 

 ……が。


「安心するのデース! ポテンシャルは3人ともハルマちゃんに勝るとも劣らないのデース! これから修行すればイイだけなのデース。ミーは、世界一の音楽プロデューサーなのデース。お任せなのデース」

 ミラーボールのようにキラキラしたかと思ったら、今度は勝手に〈ライティング〉で3人にスポットライトを当ててしまう。本来は単体しか対象にできないはずなのだが、イベントだからだろう、3人まとめて光の輪の中に照らし出された。

「良いデースか!? 今後、ミーが呼び出したら、どんな時でも、どんな所でも現れて、演奏するのデース! どんな状況でもゲリラライブを成功させることで、ノイジィファクトリーは更に進化するのデース!」

「「「ゲリラライブ……」」」

「は?」

 一体どんな結末を迎えるのかと思っていたが、予想とは違う方向に進み始めていた。どうするんだ? と、思っていると、視界の中にアナウンスが表示された。


『EXクエスト/プロデューサーにお任せをクリアしました』

『ゼレアムがEXスキル〈ゲリラライブ〉を取得しました』


「あん……? そういう感じ、かあ……」

 ここ数日振り回されたクエストの連なりは、こうしてひとつの結末を迎えたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る