Ver.7.0/第5話

「3人まとめて召喚って……。強すぎないか?」

 ゼレアムが新たに取得したEXスキル〈ゲリラライブ〉とは、話していた通り、いつでもどこでも駆けつけてライブをさせるスキルであった。

 ジェイは〈ロックギター〉による〈ギターソロ〉と〈クラッシュ〉を行い、コンバスは〈ウッドベース〉による〈重震〉と〈癒しの音色〉を行ってくれる。このふたりの行動は、ハルマもスキルとして取得して経験済なので、効果はわかりやすい。

 問題は、本物の雷神であるナルカミもメンバーにいることだ。

 ジェイとコンバスの演奏に合わせて、ナルカミもドラムを演奏するのだが、彼の攻撃もなかなかに強力である。

 雷神の神器〈雷太鼓〉を駆使した〈放電〉と〈暴風〉なのだ。

 それぞれ風&闇属性と風&水属性の範囲技。〈放電〉の方は中確率で麻痺の状態異常も入るらしい。雷神だけあって、雷系の攻撃の方が強力であるようだ。

 ハルマも〈ギターソロ〉や〈重震〉を使って戦ったことがあるからわかるが、演奏系のスキルの範囲はけっこう広い。街中で演奏が聞こえる範囲よりは狭いが、それでも通常の戦闘エリアのほぼ8割をカバーできる。

 そんなスキルを3人が同時に使うのである。

 強力でないはずもない。

「ああ、でも、一応制限もあるんだな。って、オーディエンスの数?」

 ゼレアムを仲間にできたクエストが、どういうフラグを元に発生したのかも不明だが、他の森の守り神のクエストを振り返っても、そう簡単に見つかるものではなかったはずだ。

 そんなNPCのEXスキルであるので、なおのこと取得できる可能性は低かったはずである。

 当然、レアなスキルであるからには、見返りも大きい。

 結果、〈ゲリラライブ〉の説明文は長かった。

 そんな説明文の最後の方にあったのが、ノイジィファクトリーの滞在時間は、オーディエンスの数に比例するというものだった。

「オーディエンスって対戦相手、要はモンスターのことか。つまりは……、相手の数が多ければ多いほど演奏時間が長くなるってことね。ってことは、そんなに使いどころないな」

 通常の戦闘では多くても5体くらいのものである。追加で増えることはあっても、最初から大軍勢に囲まれることはイベントやモンスターハウスみたいな状況でもない限りそうあるものではない。

 ボス戦で頼ろうとしても、ボスはたいてい1体か2体しか出てこないため、これまた余り役に立ってくれなさそうだった。役に立つシチュエーションがあるとすれば、ボスが大量に眷属系のモンスターを召喚した場合くらいだろう。

「うーん。ここぞってタイミングはあるだろうけど、ズキンの〈大天狗召喚〉と一緒で、そんなに使う機会なさそうだな」

 カルラを呼び出す〈大天狗召喚〉は、1日1回とはいえ使い勝手は悪くないのだろうが、〈不思議なサクランボ〉みたいな使いどころが限られるレアアイテムは使えるくせに、エリクサーみたいな、いざという時まで取っておきたいタイプのレアアイテムになると、もっと適したタイミングがあるのではないかと、もったいなくて使えない性格であるため、切羽詰まった状況にでもならないと、使うことはないだろうと思っていた。

 ゼレアムの加入に伴って、称号やスキルが増強されたことは間違いないのだが、ハルマの耐性が強固になった以上の強みは、思ったよりは少ないようである。


 ……と、思っていたのだが。


「水狼、強っ」

 積み上げたつもりはなかったが、気づけば山積していたクエストも片付いた。これで、ようやくレベル上げに戻れると火の大陸フラムフエゴのPVPエリアに向かい、新スキルを試した結果、相性もあったのだろうがヤタジャオース以上の強さを発揮していた。

 通常、属性耐性を装備で得ようと思うと、最大でも50%である。アクセサリー類を搔き集めても、合わせて65%にできれば称賛されるレベルだ。これは、状態異常の耐性についてもほぼ同様で、完全耐性を備えようと思っても、現状、よほどのレア物をもっていない限り、装備品だけでは不可能なのだ。

 しかも、こんな偏った装備にしてしまっては、対策した属性や状態異常以外の攻撃を受けた時、無防備に近いダメージを受けてしまう。何しろ、耐性の最高値を目指すには、〈魔加術〉に頼らずとも耐性が素で付属されている装備品を選ばなければならない上に、耐性があるせいで物理系の防御力は低い傾向にあるのだ。

 第一、最高値の耐性が付いた装備品は、非常に高額なので、1種類でも購入できるプレイヤーは数が限られている。

 テスタプラス達が〈大魔王決定戦〉の時、ネマキの火属性魔法から耐えるために使っていたが、そういった狙いでもなければ、まず採用されない。

 ネマキもあの敗戦から対策をとり、火属性と相性の良い風属性も育て始めている。これもあって、彼女は業火の大魔導士と呼ばれるようになっているのだ。彼女の風魔法がじゅうぶんに育っていたなら、ハルマと並んで2大会連続の無敗もあり得たことだろう。

 かように耐性をそろえるのは難易度が高い。

 称号の効果で20%が与えられるとはいえ、60%にできれば、かなり優秀なはずなのだ。

 だというのに、ハルマはそういった装備をひとつも身につけずに、水属性の耐性が100%に達してしまっている。

 つまりは、水狼のレベルも100に達しているということだ。弱いわけがない。

 しかし、ここで止まらないのも、ハルマであった。

「これって……。レベルのマックスって100なのか? 水属性の耐性が付いた防具を装備したら、100以上になるのかなあ?」

 レベルの上限は明言されていない。過去の安藤作品の多くがレベルマックスが100であるため、最低でも100であろうことは多くのプレイヤーも予想しているが、それ以上となると難しい。何しろ、MMORPGとは常に成長してくものなので、上限もあっさり更新されるものだからだ。

 何はともあれ、すぐに行動に移すつもりはないのだが、開発運営陣は戦々恐々としているとか、いないとか……。

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