第3章 続・通常運転
Ver.6/第28話
翌日、自宅で〈ウッドベース〉を作ってから出かけたのは、水の大陸マァグラセ地方であった。初期エリアの隣であるためか、レベル上げにも熟練度上げにも適さないらしく、プレイヤーの影はほとんどない。
「どの辺だったかなあ?」
ここに来た目的は、炎雷石を見つけることだ。
クエスト専用の素材であるこのアイテムは、ゴーレムが稀に落とすことがわかっている。同じようなレベル帯のエリアであれば、比較的見つけやすいモンスターであるのだが、わざわざマァグラセを選んだのは、狭い範囲で複数見つけることができるのが、今のところ、ここだけだったからである。
ゲームを始めたばかりの頃は、素材採取のために、初期エリアに近い所は、比較的丹念に散策を行っていた。むろん、全てを把握するのは面倒なため、ある程度時間が経ってからは、攻略サイトで採取できる素材を調べて、自分なりに効率の良いエリアでだけ素材採取は行うようにしている。それもあって、新規エリアを開拓する必要性はあまり感じていなかった。
マァグラセでは、長らく採取はやっていない。
それでも、クエストやイベントで訪れることも少なくないため、ある程度は記憶に残っている。
ハルマは、おぼろげな記憶を頼りに、ゴーレムの密集するエリアに向けて移動を始めた。
「……雨か」
シャムに乗って移動しているうちに、雨が降り出した。
ただ、アバターの体であるため、濡れる感覚はないので気にはならない。それでも、今回、特別気になったのは、いつもと違う点があったからである。
「カミナリは珍しいなあ」
隣で、マリーが「ひゃぁ!」と、かわいい悲鳴を上げるのを横目に、のんびりと空を見上げる。豪雨というほどでもない雨量の中、空に稲光が走るようになったのだ。
この世界でカミナリは、非常に珍しい。霧が出ることも珍しいが、おそらくカミナリの方が稀有であろう。ハルマも、遭遇するのは数カ月ぶりのことである。
「もしかしたら、〈レア運上昇〉が関係してたりして? ふふっ、まさかね」
現実世界とは違い、カミナリが身近に落ちても危険はない。カミナリ系のスキルや魔法は存在するが、フィールドで自然発生するカミナリがプレイヤーに落ちたという話は聞いたことがないので、おそらくダメージもないだろう。
危険がないとなれば、キレイなエフェクトにすぎない。
ハルマも、目的地へと向かいながら、珍しい光景に見入るばかりであった。
目的の場所は、マァグラセの南東、エリアの端に位置する小さな泉が中心にある盆地だ。ここを通りすぎれば、海も見えてくる。
泉の周囲には、鬱蒼と茂る、というよりはちょっとした景観の変化をもたらす小さな茂みが点在する。
ゴーレムは、盆地の至る所で瓦礫の山みたいな姿でプレイヤーを待ち構えている。
相変わらずゴロゴロとカミナリの轟く中、ハルマは早速ゴーレム討伐を開始した。
「こいつ、大して強くないけど、格下のクレイゴーレムが必ず一緒に出てくるのが、ちょっと面倒なんだよな」
昨日戦ったゲンコツトレントよりも、更にランクが下のモンスター。ゲーム開始直後の頃は、ひとつの壁としてプレイヤーの前に立ち塞がっていたが、すでに難なく倒せるほどになっている。
「こんなに楽に勝てるようになってたか」
〈ギターソロ〉の状態異常は、演奏によって発生する音色や、演奏中の腕や指の動きによってもたらされる。これらは、モンスターに知性があって初めて効果が発揮されるはずである。そういう意味で、物質系のモンスターに〈ギターソロ〉の効果があるのか不安だったのだが、ゲンコツトレントほどではないにせよ、状態異常はそれなりに入るようである。
ただ、ゴーレムは完全に土属性のモンスターということもあり、状態異常が入らずとも、風属性の継続ダメージだけで勝利することが可能であったのだ。
ゴーレムですら問題ないのだから、その劣化ゴーレムが何体一緒に出てきても、経験値のエサになるだけであった。
途中から、状態異常を入れることは無視して、ダメージのみを優先するようになり、作業効率は益々上がった。
「クエスト用のアイテムなのに、全然ドロップしないなあ」
すでに20回ほど戦闘を終わらせているが、肝心の炎雷石は入手できていない。しかも、この素材、左右のランプで必要になるため、2つ入手しなければならないのだ。
「もうちょっと経験値が美味しければ、苦にならないのに……」
むしろ、レベル上げという観点から言えば、非常に効率が悪い。
それでも諦めることなく討伐を続け、30体目を過ぎた頃に、ようやく1つ目の炎雷石を手に入れた。
直後のことだった。
バシュン! と、閃光が走ったかと思ったら、近くの泉に何かが落ちたのか、水柱が立ち昇る。何事かと目を丸くしていると、刹那の間を置いて、ドンガラピッシャーン!! と、よくわからない爆音が破裂した。
「ひゃあああああ!!!!」
マリーの悲鳴が響き渡る中、ハルマもさすがにびっくりして動きを止めてしまった。
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