Ver.6/第22話
予定外のスキル取得で、この日のレベル上げは更に後回しになった。
次に向かうは、〈演奏〉のスキルを取得できるファイアールの街である。
このスキルを取得するのは、難しいことではない。というか、〈料理の心得〉と一緒で、頼めば簡単なクエスト、というよりもチュートリアルをクリアするだけで誰でも取得できる類のものだ。
クエストを受注すると、楽器を選択し実際に演奏することになる。
演奏するといっても、楽器を、今回は〈ロックギター〉に合わせ、アコースティックギターを選択し、構えるだけだ。後は、スキルのアシストによって、勝手に体が動いてくれる。多少、腕を動かそうと意識する必要があるようだが、コード進行であるとか、リズムといったものは、勝手にやってくれる。
教えてくれた音楽家NPCの台詞が大仰なものだったのは、ハルマのDEXが基準を大きく上回っていたことが原因であろう。
『スキル〈演奏の心得〉を取得しました』
『楽器を使い、演奏ができます。DEXによって、演奏できる曲は増加します。また、曲を選択せずとも、マニュアル操作によって演奏することも可能です。演奏方法は、各種楽器の説明書をお読みください』
『DEXが常時20増える』
【取得条件/専用クエストのクリア】
「後は、ロックギターを作れば使えるな」
クエストで使ったアコースティックギターは、クリア報酬としてもらうことができたが、今後使う機会は余りないだろう。
「ここからだったら、職人ギルドも遠くないな……。どうせ、この後はレベル上げに行くから、たまにはこっちで作るか」
ちなみに、各生産職の拠点も職人ギルドと呼ばれているが、クラスを追加するのは、商業組合が統括して行っている。プレイヤーの中には、各職人ギルドでも、何かクラスが見つかるのではないかと探している者もいるようだが、発見されたという報告はまだない。
ハルマは、〈演奏〉用のクエストを受注できる音楽家の屋敷から、鍛冶ギルドのある中心街の方へと歩き出す。
最近では、というよりも、初期の頃からスタンプの村を拠点としてきたので、街中をゆっくり歩くというのは、あまり経験がない。
ぞろぞろとNPCを引き連れて歩いても、あまりプレイヤーに遭遇しないのは、おそらくほとんどのプレイヤーが新クラスを育てるために奮闘しており、外に出ているからだろう。
ハルマも、そのことに気づき、何となく最短ルートではなく、目的があるわけでもない寄り道をしていくことにした。
狭い道に入り込み、日常生活を送るNPCをたまに見かける。ウィンドレッドにある、マリーの幼馴染ウィリアムが経営するカフェと同じ規模の飲食店を見つけ、少し覗いてみる。
そんな新規プレイヤーみたいなことを、気の向くままに行っていた。
これといったイベントが起こるわけでもないのに、何となく新鮮な感覚があって、面白く感じていたのだ。
そうやってのんびり歩いている内に、日が暮れ、辺りも暗くなっていた。
ハルマは暗闇無効のパッシブスキルを持っているとはいえ、夜の暗がりくらいは認識できる。
の、だが。
「何か、この辺だけ、妙に暗いな」
いつの間にか、街の外周に近い通りを歩いていた。
店や主要施設も何もない通りで、暗くなくとも寂れて感じる場所である。当然プレイヤーは、ハルマ以外いない。それどころか、近くにNPCも見当たらない。
「何だ……。この街灯、壊れてるのか?」
ぽつりぽつりと等間隔に立てられている街灯のひとつだけ、明かりが灯っていなかったのだ。おかげで、その周囲だけ、暗くなっていたのである。
「ん? ってか、これだけ位置、ズレてるな」
等間隔だと思った矢先、問題の街灯だけが変な位置にあることに気づき、思わず近寄って確かめていた。
他の街灯との距離を歩幅を使って計ってみると、やはり、この街灯だけが大きくズレて設置されていた。
「なーんで、これだけズラしてんだろ?」
不思議に思って、壊れている街灯を触った直後だった。
視界の中に、クエスト発生を知らせるアナウンスが表示されたのだった。
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