Ver.5/第62話
トラップを解除しながら、襲い掛かってくるモンスターを対処していると、戦況に変化が現れた。
「第2段階に進んだみたいだね」
周囲の反応は、襲ってくるモンスターの変化によるものだ。
ガストファングが群れで現れたかと思ったら、大きな羽音も聞こえてきた。
「エルダーハーピー!?」
第2エリアの森の中で、多くのプレイヤーを八つ裂きにしているBランクモンスターである。ただ、すぐには襲い掛かってくる様子はなく、こちらからの攻撃も届かない場所から見下ろしている。
「何か、嫌な予感がする! 急いでガストファングを始末しましょう! ハル君達も解除を急いで!」
ユキチの提案に、周囲は即座に肯定の意を示す。ハルマも同意するが、作業は思うように進まない。というのも、解除するペースとイタズラ妖精が新たに仕掛けて回るペースに、大きな差がないからである。
マリーとエルシアに頼めば追い払えないかと思ったが、さすがにイベント戦だけあって、対処できそうにない。
ガストファングの群れも、第2エリアで見た数よりもずっと多い。
ただ、ここもアグラとヤチのコンビが良い仕事をする。
「ほい。今度はワシの番ですぞ、と」
物理攻撃から闇属性の魔法に切り替え、暗闇やマヒ、眠りといった状態異常で無力化していく。チイもこの辺は教わっているとみえて、アグラの魔法が届かない範囲に同様の魔法を向けている。
数で押されるからこそ怖い相手であるので、ガストファングの殲滅は順調だ。
おかげで、トラップの解除は間に合わなかったが、エルダーハーピーが動き出すまでにモンスターの群れは排除が完了する。
「お? イタズラ妖精が消えていく」
どうやら、エルダーハーピーの行動開始がトリガーであったらしい。これによって、中盤の山場を迎えることになる。
「うひゃー。呼ぶねえ」
誰かの愉快気な声とは裏腹に、顔は引き攣る。
もともとハーピーを呼び寄せることは知られていたのだが、呼び寄せる数の桁が違う。フィールドでは一度に多くても3匹なのに対し、一気に12匹も呼び出してしまったからだ。
「これ、呼び出すの1回ってことは、ないよな?」
肝心のエルダーハーピーは動き出したものの、未だ攻撃の届く位置まで下りてこない。ハルマであれば、〈覆面〉でワーウルフになることで攻撃可能なのだが、トラップ解除が終わっていないため断念する。
どちらを優先するかを考えた結果だ。
エルダーハーピーはBランクのモンスターで、呼び出すハーピーはDランクに位置する。ガストファングと同格であるのだが、その強さは雲泥の差である。
数が多いだけで、特殊な攻撃をしてくるわけでもないガストファングに対し、ハーピーは素早い動きによる物理攻撃だけでなく、魔法も使ってくるからだ。風属性の攻撃魔法だけでなく、闇属性の状態異常系の魔法も得意とするため、これだけ数が多いと、Cランクのモンスターを相手にするより、よっぽど厄介だ。
「もう少しでトラップの解除も終わるから、何とか踏ん張ってください!」
〈発見〉が育っていないせいで、足止めされているプレイヤーに我慢を促しながら、前線で戦う仲間に呼びかける。
とはいえ、足止めされているプレイヤーに対しても、ハーピーは容赦なく攻撃を仕掛けてくるので、狭い範囲で何とか応戦している状況だ。
そうやって、最初に呼び出されたハーピーの数が半分になったところで、満を持してエルダーハーピーが攻撃に参加し始めた。
Bランクにしては弱い部類とはいえ、格が違う。
同じような攻撃パターンながらも、ひとつひとつが上位のスキルや魔法であるため、徐々に押され始める。それだけなら、こちらも手数を使って押し返せるのだが、合間にハーピーを呼び出し補充していく。
「こっち、解除終わりました!」
「こっちも、後ひとつ!」
「俺も、もう終わります!」
目まぐるしく変化を続ける戦場で、何とかトラップの解除が終わったところで、ようやく全員一丸となって戦闘に参加できるようになった。
「エルダーに状態異常は入らんっぽいが、ノーマルの方には暗闇が効くぞい」
魔法攻撃にはヤチも弱いらしく、チイとコイモの所まで下がってアイテムで状態異常に陥っている仲間の支援に回っている中、アグラは同じ位置まで下がりながらも自分の役割を全うしていた。それによって、徐々に戦況が好転し始める。
「ラフとトワネも〈ダークネスカーテン〉で妨害に回ってくれ! 他は、数を減らすのに集中だ」
邪魔だったトラップがなくなったことで、戦闘職の足枷もなくなり、前線を維持する戦力も厚みを増した。
ハルマも魔法攻撃を受けないように位置取りしながら戦い続ける。途中、〈パラレルコンタクト〉を再使用し、MPポーションで全体を回復させることも忘れない。これには、仲間達から歓声が上がるほど感謝された。
こうして、何とかエルダーハーピーの討伐に成功したのだった。
しかし。戦いは、まだ終わりそうにない。
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