Ver.5/第60話

「42人か……」

 ハルマに通知が来たタイミングではログインしていなかったプレイヤーも駆けつけたにもかかわらず、微妙な人数になってしまった。

 このまま15分ギリギリまで待つという案もあったが、辞退する者が続出したため、議論は紛糾した。

 ハルマも後はお任せしますという立場だったのだが、許してもらえそうな雰囲気ではなかった。

 自分は生産職なので、戦闘はちょっと、という言い訳も通用しそうにない。

 何しろ、集まったプレイヤーの多くが、大なり小なり生産職だったからである。

 ニャル、チイ、コイモの3人も、辞退するつもりだったのだが、余剰人員が2人ということで、互いにけん制し合っている。これに、アグラとヤチが、ちょうど2人組だからと立ち去ろうとするものだから、なおのことカオスな状況になっていく。

 しかし。

「え? ハルマさんの知り合いなんですよね? ちょうど8人組になるから、そこは確定でしょ?」

 先ほどまでハルマと親し気に話していたことを多くの者に見られていたせいで、そうすることが自然であるかのように決められてしまった。

 最終的に、追加で2人駆けつけたことで、パーティメンバーがそろわないという理由で4人組が辞退することになった。

 この後、フルレイドの5パーティを決める作業が、また時間を取られたが、3人から5人組が多かったことで、キリの良い組合せにすることはできた。


「ちょっと、火力不足、かな?」

 ユキチが全体を把握したところでつぶやく。

 2組ほど、戦闘特化のパーティもいたが、ここにたどり着くまで一緒だった生産職のプレイヤーも、ハルマのように全てを賄えるわけではなく、準備が万全とは言えない。

 ただ、ソロで入り、イベントエリア内で知り合ってパーティを組んだプレイヤー達なので、持込アイテムはそろっており、装備品は比較的そろっているようだ。

 それ以外は、何かしら生産職として活動している者ばかりで、その多くが今回のイベントで最終決戦の第1陣に参加することになるとは考えてもいなかったプレイヤーばかりだ。

 それだけ、今回の〈ドアーズ〉というイベントは、生産職の支援が必要とされていたものだったということだ。

「リナちゃん達がいてくれたら、けっこうバランス良くなったのにね」

 サエラも、ユキチの意見に頷き、ハルマに並ぶ戦闘力を保有する生産職プレイヤーであるマカリナが未到達であることを嘆く。

「リナさん達も、もうすぐ着きそうな所まで来てるらしいですけどね。まあ、いないものは、仕方ない。ぼく達で、何とかしちゃおう!」

 ユキチは、楽しそうに装備を整える。

「ま、そうだわな。ワシらも、やれるだけやってみるとしよう」

「たまには、若い人に混ざってワイワイするのも、良いものですよ。何だか、本当に若返ったみたいで、わくわくしちゃう」

 アグラはメニューを操作して準備を整えているのに対し、ヤチは穏やかに微笑みを浮かべるばかりだ。

「アタシら、3人で一人前っていうのは、割と本当だから、ハルマ君、足らない部分はヨロシクね!」

「「ヨロシクね!」」

 主婦3人組の、このあっけらかんとした態度は、不快感を抱かせない。こういう変に遠慮しないところが、アグラとヤチにも気に入られたのだろう。

「ハハハ……。やれるだけ、やってみます」


 全員の準備が整うのを待ってくれることもなく、時間がくる。

 やり残したことがあるのではないか。足らないアイテムがあるのではないか。別の装備に切り替えた方が良いのではないか。どれだけ考えても、これから何と戦うのか、情報はない。正解がわかるはずもない。

 大きな不安が、胸の中にもやもやと重く圧し掛かる。

 しかし、同時に、初めて体験するワクワクとした感情も確かにある。

 程よい緊張感。

 そんな方向性の違う感情が、アンバランスながらも体の中に充満している。

 ハルマだけではない。

 この場に集まった40人のプレイヤーが、年齢も性別も関係なしに、同じような表情でその時を待っていた。

「始まる!」

 誰が告げたのかわからないが、コロシアムに用意された舞台の上は、モザイクがかかるように変化を始め、戦いの時がやってきた。

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