Ver.5/第51話

「第2エリアは、どうしたって少人数だと突破が厳しいな」

 テゲテゲ達だけでなく、ナイショ、ニコランダ、チョコットの動画配信者の知り合い達もハルマの支援作戦を支援してくれることになった。

 ただ、残念ながら、3人ともサーバーが違うらしく、直接的な手伝いは難しい状況だ。そのため、情報交換という形で協力してもらうことになっている。

 それに対して、「くっそー! オレもリスタートしまくって、ハルマさんと同じサーバーに入り直そうかなあ」などと、チョコットは半分以上は本気で愚痴っていたが、どう答えていいものかわからなかったのでスルーした。

「ハルマは、どうやって第2エリア抜けたんだ?」

 全員の共通の意見として最初に上がったのが、第2エリアの難易度の高さだった。

 テゲテゲからの質問に、ハルマは正直に話す。


「なるほど。〈クライミング〉取ってるなら、そっちのルートの方が安全か。でも、ビッグイヤーは、回避できそうにないんだよね?」

 ナイショは、すでに第3エリアに進んでおり、ピラミッドを攻略中らしい。ただ、他のプレイヤー同様、アイテム不足とピラミッド内のトラップに苦戦しているようである。

 ナイショだけでなく、ニコランダとチョコットも進行具合は似たようなものだ。この辺は、配信者の利点で、他のパーティと連携を取りやすいため、第2エリアも人海戦術で切り抜けていた。

「ある程度時間をかければ、迂回できなくもないでしょうけど、自力で迂回路を開拓するとなると、難しいんじゃないですかね? 時間をかけて調べたわけじゃないので、断言はできませんけど……」

 カルデラ地帯は、山脈ルートのハブみたいな位置にある。尾根を進み、カルデラを抜け、また尾根を進む。そういったルート選択を強いられるのだ。

 それでも、しっかりと調査をしたわけではないので、迂回に使える要素が隠されている可能性はあった。

 尾根ルートは、少人数で攻略する時には選択したい。特に、生産職を連れていく場合には、有効活用したい案である。しかし、それを邪魔するのが、ビッグイヤーだった。

 ハルマが単独でも倒せる強さとはいえ、この場合は、ハルマだから倒せた、というべき相手だ。できることなら、複数のパーティで向かい、持ち回りで相手をしながら短時間でカルデラを突破したい。

 しかし、複数のパーティで挑めるのなら、平地に下りて、モンスターの群れを相手にした方が時間はかからない。

 と、ここで、チョコットが、思い出したみたいに尋ねてきた。

「あ、そうだ。話変わりますけど、ハルマさんって、〈調合〉もいけますよね? 状態異常系のアイテムも、作れますか?」

「作れますけど、サーバー違うと取引できないですよ? 初級レシピなんで、〈調合〉スキル取っている人なら、誰でも作れるはずなので、現地で探した方がいいんじゃないですか?」

「ああ、いや。オレが欲しいんじゃなくて、第2エリア抜ける時に、たまたま一緒になった人が、状態異常系の魔法使ってモンスターを足止めしていたのを思い出したんですよ。けっこう成功率高かったから、もしかしたら、その辺があのエリアの攻略方法なんじゃないかと、ふと思い出して」

「え? マジ?」

 これには、ハルマだけでなく、他の面々も興味津々だ。特に、これから本格的に攻略しようと思っているテゲテゲ達は真剣な顔つきになっている。

「なるほど……」

 状態異常系の魔法は、一部を除き、闇属性に集中している。そのため、使える者は、あまり多くない。どうしても、ダメージを出せる魔法を選択したくなるからだ。加えて、INTを上げないと成功率も低いため、魔法職以外のプレイヤーが選択することもあまりないのだ。

 ハルマにとっては、ラフとトワネが使えるため、身近な魔法であるが、一般的には、マイナーな部類である。

 ただ、魔法としてはマイナーだが、消費アイテムとなると話が変わる。

 こちらは、使用者のステータスによって効果に差はなく、一定の効果が期待できるからだ。とはいえ、所詮は消費アイテムなので、レジストされる可能性の方が高いことに変わりはない。

「もしかしたら、そのために〈謎の果実〉は多めに採れるようになってるのかもしれないですね」

「どういことだ?」

「状態異常系のアイテムって、もともとが食材としても使える素材を使うんですよ。俺も〈料理〉を取ってから知ったんですけど、使う毒入り食材によって、効果が変わるだけで、作り方は全部一緒なんです。中級になると、ちょっと変わってきますけど」

「ってことは、ポズの実を使えば、毒の状態異常薬になって、パラの実を使えば、麻痺の状態異常薬になるってことか?」

「そういうことです」

「それ以外の素材は、何を使うんですかい?」

「簡単に言えば、ポーションと同じです」

「そっかー。それは、悩ましいところだな」

 ニコランダの問いに答えると、他の面々は悩み始めた。

「そうですか? 攻略に使えるなら、状態異常薬を作った方が良さそうですけど」

「そうなんだろうけど、イベントエリアで蘇生薬が見つかってないから、回復アイテムは生命線なんだよ。採取ポイントで拾えるやつは、質が悪いからね。できれば、高性能なものを持っておきたい」

「あー。確かに、蘇生薬は欲しいですよね。……そういえば、皆さん、どこかでミノタウロス見てないですか?」

「ん? 見たことあるよ?」

 何とはなしに尋ねてみたら、思いがけない答えがナイショから返ってきた。

「え!? ホントですか!? どこでですか?」

「おれ達が攻略中のピラミッドの最下層付近だったかな? トラップで転移させられた場所だから、すぐに全滅しちゃって、正確にはわからないけど」

「ピラミッドかあ。もしかしたら、蘇生薬の素材、見つかるかもしれないです」

「何!? ホントか!?」

 今度は、ナイショ達が驚く番となった。

「ミノタウロスのドロップが〈雨降りの迷宮〉と同じなら、ですけどね」

「ちょっと、待った。ハルマ君。〈雨降りの迷宮〉攻略してるのか? ってことは、〈トラップ〉だけじゃなくて、〈トラップ解除〉の方も持ってたのか……。どうりで、あっさりピラミッド抜けてるわけだ」

 ナイショの驚いた視線を受けて、ハルマも苦笑いを浮かべてしまう。そういえば、あの迷宮は、未だに攻略者がほとんどいない高難易度ダンジョンのままであったと。

「ま、まあ。その話は、置いといて、俺はピラミッドの調査に行ってみますね」

「ははは……。わかった。そっちは任せる。ただ、その前に、おれたちに状態異常薬を準備してくれるか? 攻略に使えるのか、検証してみる」

 こうして、テゲテゲの提案を受けて、状態異常薬を準備すると、ハルマは第3エリアの砂漠地帯に向かうことにしたのだった。

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