Ver.5/第50話

 テゲテゲ達も支援しながら、ハルマはハルマで別の作業に入る。

 素材の回収もテゲテゲ達が手伝ってくれることになったので、第1エリア内の各地に、支援物資を置いておく休息所を建てて回ることにした。

 ここで、思わぬアイテムが役に立った。

「まさか、全てのエリアで〈奇跡のコンパス〉が使えるとは思わなかった」

 自分で建てた場所をいちいち把握しておかないと、追加の物資を配って回れない。どうしたものかと悩んだ末に、物は試しと使ってみたら、ちゃんと座標を教えてくれたのである。

 この休息所に置いてある消費アイテムや食糧は、権限フリーで収納ボックスに入れてある。勝手に持ち去っても大丈夫だということを、スタンプの村の協力者や、テゲテゲ達に流布してもらう算段になっている。

 これで、第1エリアで食糧不足と消費アイテム不足を両方解決できる、とまではいかないものの、一助にはなるだろう。

 その内、テゲテゲ達に手伝ってもらって、ここへの配給も充実させていくつもりだが、オアシスのキャラバンの方を優先したいため、最後まで中途半端な支援で終わる可能性も高い。

 だが、それも織り込み済みだ。

 この休息所の本当の狙いは、このサーバーを進んでいけば、途中でキャラバンにたどり着き、生産職の支援を受けられることを前もって知ってもらうことだ。

 ハルマがこの活動を行う理由は、少しでも早く最終地点にたどり着いてもらい、クリアしてもらうことにある。別に、自分が戦闘に参加する必要はないと思っているが、自分も参加するとなったら、少しでも実力のある者と一緒になりたい。それこそ、自分は裏方に徹しても大丈夫なくらいの人達と。

 実のところ、戦闘力が必要になるのは、第3や第4エリアよりも、第1や第2エリアの方である。運営としても、早い段階でふるいにかけ、中盤で足止めをしつつ、装備の強化を図れるように仕向けている節がある。

 第5エリアは、総合力を求められるため、第1から第4エリアに戻って、しっかりと準備を整えなければ、何もできないうちに彷徨うだけで終わってしまうことになるだろう。

 そのため、第1と第2エリアは、それなりに自力で突破してもらわなければ、後々苦労するだけなのだ。下手に支援しすぎて、身動きが取れなくなってしまっては、元も子もない。

 ただ、生産職の支援さえ受けられれば、実力的に問題のないプレイヤーが、早い段階で足止めされているのが現状である。その辺をどう支援するかの匙加減が難しいところだろう。

「やっぱり、装備品は置かなくてもいいだろうな。何を用意すれば良いのか、俺にはサッパリだし。食糧とMPポーション、解毒薬や解痺薬なんかが多めにあれば良いかな?」

 困ったことに、謎の果実由来の食糧は、鑑定された後のものであっても、収納ボックスに入れると〈謎の果実〉として一括りに保管されることがわかった。これは、想定外だった。毒のないアプの実だけを入れても、取り出す者が〈鑑定〉できていなければ、〈謎の果実〉としてインベントリに入ってしまうのである。

 ハルマがせっかく安全なものを用意しても、持ち出した者が他の〈謎の果実〉に混ぜてしまっては、識別はできなくなってしまうのだ。

 これもあって、状態異常の回復薬は多めに準備することにした。

 時々、ハルマが家を建てるのを目撃されることもあったが、作業中はシャムの〈潜伏〉スキルを使って仲間の気配は消している上に、ハルマの格好も不落魔王とも〈大魔王決定戦〉で見せてしまった普段着とも違うものに変えている。誰がやっているのかは、事前に知らされていない者には、バレる心配はないだろう。

 休息所の大きさも、エルシアの結界に収まる範囲の小さなものだ。あまり大きくしてしまっては、誰かの転移門と位置が重なった時に迷惑になるだろうからと、気を使っている。

 ただ、サイズは小さくしながらも、見つけてもらいやすいように、森の中には似つかわしくない派手なカラーリングにしている。ハルマ個人としては、悪趣味だなと思う色合いなのだが、自分が住むわけでもないので目を瞑ることにした。

 こうして、着々と企みは進んでいったのだが、当然、問題も出てくる。

 テゲテゲ達が加わったことで、思っていた以上に大規模な作戦になってしまったのもあるが、単純に、このイベントそのものが、やはり難易度が高いことが原因だ。

 ハルマも、じっくりと正攻法での攻略に取り組まざるを得なくなったのだ。

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