Ver.5/第39話

「ちゃんとオアシスだな」

 水場があり、植物も生えている。

 ただ、それだけだ。

 小規模なオアシスに到着し、周囲を警戒したが、先ほどの採取ポイントと違い、モンスターの気配もなかった。キャラバン的なものがあるわけでもなく、当然、NPCも配置されていない。

 オアシス周辺も採取ポイントになっており、主に食材が採取できた。この辺までくるプレイヤーであれば、謎の果実も、ほとんど鑑定できていることだろう。

 ハルマは、その場で毒入りの果実を〈料理〉に使い、食糧のストックを増やす。食糧のストックは、第2エリアで時間がかからなかったおかげで、けっこう余裕はある。それでも、この先の探索に時間を取られると、この砂漠エリアでは、死活問題になるかもしれない。

「一度、第1エリアに戻って、食材集めた方がいいかな?」

 イベントエリアでは、任意の場所で通常サーバーに戻ることは可能だが、イベントエリア間の移動はできない。ただし、解放済の転移門同士であれば行き来が可能なので、後戻りもできる。

 ただ、そうなると、転移門まで戻らなければならないため、悩みどころだ。

 頭を悩ませる理由は、もうひとつあった。

 オアシスに到着する少し前から、地平線のあちこちに、突起物が見えるようになってきたのだ。

 三角形の出っ張り。

「あれ。たぶん、ピラミッドだよな?」

 ちょうど、〈導きのカギ〉を使えるタイミングになっていたので、オアシスに到着し、採取を終えたところで使ってみた。

 すると、カギはピラミッドのひとつを指しているように見えた。

「今度の転移門は、ピラミッドの中、なのかな?」

 仮にそうだとしたら、ピラミッドの内部は迷宮になっている可能性は高い。どれくらいの大きさなのかは、遠目ではわからないが、ダンジョンだとしたら、中に入ってしまえば広さはどうとでも設定できるだろう。

 見える範囲で、オアシスはもう1か所はあるみたいだが、ここで採取できた食材の量を鑑みると、大した補給はできないだろう。

「ピラミッドの中で食材が見つかるかどうか、だな」

 あまり期待はできない。しかし、全く手に入らないということもないはずだ。そこまで、運営も鬼畜仕様にしていないと思いたい。

「最悪、ピラミッドとオアシスを往復すれば、持ち堪えられるだろう」

 そうして、その日の内に、転移門があるであろうピラミッドに到着した。


「ぐああ! また来た! 前方のムカデはラフとバボンが足止めしてくれ! 後ろのトカゲは残りで一気に片づけるぞ!」

 ピラミッド内部の通路はあまり広くなく、モンスターに襲われると、挟み撃ちされることも多かった。ただ、その分、数で押されるということは少なく、強くてもCランクなので、対処に困るというほどでもない。

 今回、前方から襲ってきたのは、甲冑を着込んでいるような巨大なムカデのモンスターと、レッサードラゴンの小規模な群れである。

 どちらもEランクモンスターなので、脅威ではない。

 何より、レッサードラゴンは、このダンジョン内では貴重な食材をドロップするモンスターなので、逃がすわけにもいかない。

 ピラミッドに入って3日が過ぎたが、予想通り、食材はあまり見つからなかった。しかし、オアシスに引き返すほどでもなかった。

 それを可能にしているのが、レッサードラゴンと、コウモリ型のモンスターであるブラッドバットの2種だった。

 ただ、どちらもEランクなだけあって、遭遇する回数は多いものの、食材をドロップすることは少なかった。

「よっしゃ! 今回は1つ落とした!」

 10体から15体に1回ドロップすれば良い方である。蓄えてあった食糧を消耗しつつ、コツコツと食材を集めていく。

 探索の速度は、オマケ程度の鈍いものだ。速度が鈍る原因は、他にもある。ピラミッド内には、至る所にトラップが仕掛けられているのだ。これを回避し、解除してと、時間を取られているうちに、またモンスターがやってくるのだ。

 虫系のモンスターも多いが、ピラミッドだけあって、ミイラやマミーといったアンデッド系も多い。ミイラとマミーは、基本的に同じ存在のはずなのだが、ゲームにおいては異なった存在になることも多い。

 Greenhorn-onlineでも、ミイラはEランクのアンデッド系モンスターで、マミーはDランクのアンデッド系モンスターと別物だ。ランクが違うだけでなく、マミーは毒のブレスを使ってくるという違いもある。

 他にもアンデッド系のモンスターはけっこう多くの種類が徘徊しており、侵入者に襲い掛かって来る。

 そして、当然、食材は落とさない。ハルマにとっては邪魔なだけなのだが、ピラミッドの構造上、無視して進むこともできず、相手しないわけにもいかない。

 ピラミッドに入って丸2日かけ、最上階に到達した。しかし、そこに転移門はなく、3日目は地下の探索に向かっていた。

 地下は、逆ピラミッドの構造で、下に進むにつれて狭いフロアになるようだ。

 ダンジョン内で食材はほとんど見つからないが、宝箱は頻繁に見つけることができた。砂漠地帯では全く見かけなかったので、ピラミッド内に集中して配置されているのだろう。

「弓か。うーんと? 今、ニノエが使ってるのより……、ちょっと性能低いか。俺のサブ装備よりは良さげだから、入れ替えだな」

 同じ種類のものであっても、ランダムに施されている〈付加術〉の内容で、使い勝手は変わってくる。

 付加効果の数が1つのものと4つのものであれば、どちらを選ぶかは簡単である。しかし、付加効果の内容が、攻撃時3%で眠りの状態異常を起こす方が良いか、攻撃時5%で暗闇の状態異常を起こす方が良いか、などは、個人の好みで選ばなければならない。

 ハルマも、ガード率特化の片手剣か短剣が見つからないか期待はしているのだが、〈付加術〉が偏って施されているものを見つけることは、可能性としてはかなり低い。

「おっと……。最下層まで行かなくても良いのか」

 宝箱を見つけた通路を、そのまま進んでいくと、脇に小さな部屋があった。

 探していた転移門は、そこにあった。

「順調……だよな?」

 太陽の照り付ける砂漠エリアから一転し、ジメジメしたピラミッド内の探索。どちらも精神的に負担が大きかったため、迷うことなく、次のエリアへと転移するのだった。

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